第11話 「手間を省こうとしてますよね?」

 顔も見たくない。そう言ってムキになる感じ。安っぽいウソだなと思った。


「先輩、まつりの事ちょっと気にしてるでしょ」

「……別に。こんなの、魚の小骨みたいなものです」

「やっぱり気にしてるんじゃないですか」


 そう言うと、先輩は無言でこちらを睨みつけてきた。ジト目ってやつ? ――控えめとは言えど、メイクをしているあたりひょっとして高校生にもなったら化粧って必須なのか? 義務なのか!? 中学の時は生活指導にバチギレされる項目の一つだったが??? 私の友達(あさひ)も指導されてぷんすかしてたが? あの時は柊を見習えって言われたらしいが? 私なんか見習ったら根暗オタクが生まれちまうだろ! やめとけやめとけ。


「てか、まつりと貴方……えっと」

「柊ゆかりです」

「あ、そう。柊さんはまつりとどういう関係なんです」

「えーっと、不良仲間?」

「その見た目で不良? てか、まつりが不良の真似事なんてしてるんですか?」


 ――やっぱ気にしてるんじゃん。素直じゃないなぁ。否、まつりのこと。あるいは、中学でのこと。捨てきれない、あきらめきれない、思い出したくない、腹が立つ。そんな思いは、きっと今でもあって。まつりが記憶のトリガーになることは事実なのだろう。

 でも、そんな自己本位な理由で人を嫌いになれないくらい、先輩はいい人。私なら嫌な思い出のきっかけなんてそいつが悪いかどうか関係なく嫌っちゃいそうだ。


「不良というか、不登校? 私はちょっとサボっただけ」

「割と付き合いは浅そうですね……まつり、私の中学時代を言いふらしてるんですか?」


 誤解! みすあんだすたんでぃんぐ! 違う! 話せばわかる。問答いりまくり! 


「えっとですね、まつりと私は……そう、魂のベストフレンドになったんですよ! 友情に期間は関係なくて、お互いのあらゆることまで知ってるんです!」

「ケツ毛の数まで?」

「いきなり何言ってるんですか気持ち悪い」

「小粋なジョークです」


 下品でつまんねぇ戯言だよ! いきなりぶっこむ下ネタが面白いって……化石みたいな価値観じゃねぇかよ……はしたないぜ副会長さんよぉ!


「それはそうと、化学調味料は好きですか?」

「藪から棒になんなんですか先輩」

「私はね、金持ちだからそんなの好きじゃないわ」

「親の金ですよね先輩」

「手間暇をかけて抽出されたうまみにこそ滋味とでも言うべきものが宿る……違うかしら」

「えぇっと、話聞いてます?」

「魂のベストフレンド、といいましたね」

「あ、ちゃんと聞いてたんですね」


 先輩は、私のアイスコーヒーに勝手にフレッシュを注ぎ始める。何してるぅ! やめろぉ!


「説明がめんどくさくて、適当言おうって魂胆ですよね。――手間を省こうとしてますよね?」

「え、えーっと……」

「まつりが人に言いふらすような人間じゃないことは知ってます」

「……」

「要するに、貴方がどんな人間かが知りたかったわけです」

「回りくどい……です」

「これは回りくどいんじゃなくてですね、手間をかけたわけです」


 私のアイスコーヒーにガムシロップを入れながら先輩は言葉を続ける。マジで勝手に何してやがる。


「……貴方は、化学調味料ですね。手間をかけたくないというスタンスの人間。私とは水と油。まつりとは……どうでしょう。彼女は回りくどいものをそこまで好みませんが、適当なわけじゃない」


 自分で回りくどいって言ってんじゃん……てか、化学調味料だって工場で作るめちゃくちゃ手の込んだ一品だと思うけど。手間を見ようとしてないだけなんじゃないの? 


「不満そうですね」

「……何で勝手にフレッシュとか入れちゃってるんですか」


 先輩はコーヒーと私を見比べてから、ぼそりとつぶやいた。


「て、てへぺろ」


 ……は????????????????

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