第17話 朝ご飯
「アニキィ! ちょっと待ってくだせぇよ!」
丸々とし、もっちりとした顔をした男が道端で声をあげた。
「スーーッ。け、│
次に声を上げたのは真っ黒で首の長い昆虫だった。弱々しく世話しない。そして片手にはカタツムリの殻を持っていた。
「馬鹿野郎!」
筋肉の付いた男、│石綿
「│
「アニキ……俺が間違ってたぜ!」
「
二人は目を輝かせながら、│
「だが、まずは腹ごしらえだ! やる気を出すにはまずは腹の元気を取り戻す!」
│
「サッスガアニキ! イケメン過ぎるぜ」
│
「行くぞテメェら!」
腕をまくり上げながら先頭を進む │
_____________________________
「ヤメて! ……もう耐えられない……私たちもう、別れましょう……」
森にある川を前にして、グスングスンと声を漏らす女がそこにはいた。そして近くには一人の若い男がいた。
「お願いだ! 聞いてくれ!」
「いやっ! ヤメて!」
男がゴクリと唾を飲み込み喉が動く。
「本当のことなんだ……信じて欲しい……嘘じゃないんだ」
「だったら、もう一回……名前を…………呼んで……?」
女性は可憐な声で男に語りかけ、白く美しい両の手で自身の口を抑えた。
「いいかい? 君の名前は――――カンナちゃんのやわらか生足で膝枕してもらってる途中に惰眠を貪れる生活を送りたいって言うんだ」
「おえぇ……きっしょ……」
ストラは額にシワを寄せ、片目を半開きにして睨むようにクロヌシを見つめた。
「これが、現実なんだ……ストラ……もう、認めなよ」
「そんな! 嘘でしょ?」
そう呼びかけてもクロヌシは申し訳なさそうな表情をして目を逸した。
「嘘……よね? 本当……に?」
一呼吸置いて、クロヌシは声を出した。
「本当なんだ」
「んな、バカな……」
ストラは倒れるようにして近場にあった大きな岩に腰を降ろして勢いのあるため息をついた。
「昔の私は……なんて酷いキラキラネームだったんだ……泣きそう」
(自分でつけてたんだけど……とは言わない方がいいな。でも最初はの頃は本名でプレイしてたっけな?)
「ゴメンだけど記憶が戻るまで……ストラ・モニウムで居させて」
徐々に覇気が無くなっていく。
「わかったよ、ストラ。名前の話は何か思い出したら、また話そう」
「ありがと……」
そう言って二人は川沿いを再び歩き始めた。
確かにいきなりこんな名前だと言われたら誰だって困惑する。
ここが現実だと言うことは完全に確定してしまった。とっくに6時間は経過している筈なのに強制ログアウトの兆しすら見えない。それにリアルで「惰眠ちゃん」呼びはちょっと敷居が高い。だったら、ここは妥協する方が円滑だ。現実なんだから。そう、現実なんだから。
「あーっと。ストラ、一つ聞いていい? 今向かってる黎明軍ってのはどんな集団なの?」
「私も詳しくは知らない……でも、反社会的勢力なのは間違いないよ」
「反社会的勢力か……正直、行きたくないな。でも、ジーンさんの遺言なんでしょ?」
「よく言ってたの。俺が死んだら黎明軍で匿ってもらえって……まさか……本当になるなんてね……」
これは良くない話題だったな。惰眠ちゃんは凄く強い人間だ。頭の回転が早いし記憶力と運動神経も良くてお洒落だし尋問が上手い。でも、どんな人間にも弱いときだってある。四年も一緒に過ごした父親同然の相手が突然死んで何も思わない人は僅かだ。配慮が足りなかった。
「でも……もう私たちは引き返せない。戻る手段も戻る気もない。殺人、器物損壊、業務妨害に死体遺棄……やることやっちゃったから。クロヌシ、アナタも共犯者。だから、死ぬときは一緒に死んでね」
目を大きく開き、真っ黒な目でクロヌシを見た。
「いいよ。それが最善だったなら」
淡々と元から決まっていたかのように答えた。
「ところでストラ……黎明軍が何処にあるのか分かってるの?」
「知らん」
即答だった。そして凄く早口だった。
「あーほら、やっと着いた! 長かったー!」
話を反らすように別の話題に転換した。
少し進むとクロヌシにもそれが見えた。ブロックで出来た地面に石で作られた建物が。そう隣町へやってきたのだ。
「とりあえず、ご飯でも食べに行こっか」
インセクトドミネーション~最強魔法使い、虫に支配された世界にやって来る~ SaiKa @SaiKa-dd9
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。インセクトドミネーション~最強魔法使い、虫に支配された世界にやって来る~の最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます