第16話 永遠の安息を8
「だみ……ストラ!」
クロヌシが役所へ駆け寄ると痩せ細った一匹のガガンボがストラを拘束していた台にもたれ掛かっていた。
そして、足から順番にボロボロと灰のように崩れ始めていた。
「クロヌシ! おじさんが! おじさんが!」
今にも泣きそうな声でストラがクロヌシに呼びかけた。
「クロヌシ君……無事で良かったよ……」
ジーンから弱い声が発せられた。
「おじさん……もう、しゃべっちゃ……ダメだよぉ……」
震える声で喋るストラの足元にポツポツと小さな雫が落ちる。
「ストラ……お前なら、わかっているだろう? ワシは、もう…………」
「
しかし、何も起こらない。腕も治らず、灰に成り行く勢いすら止めることができない。
「無駄だ……これは……罰なのだよ信仰も無く、神に奇跡を望んだ罰……」
地面に置かれたクリスタルは少しだけ輝きを失っていた。
「クロヌシくん……ストラのことを頼む……」
クロヌシはジーンから目をそらした。
「嫌! 居なくならないでよ!! おじさん! 置いてかないでよ!!」
ヒクヒクとした声で泣くストラの頭をジーンはそっと撫でた。
「クロヌシくんは本当の救世主だ……お前が好きだったおとぎ話の救世主……だから彼を頼りなさい」
「それでも……私は!!」
ジーンの体がガクリと崩れストラがジーンの手を掴む。
腕は泡のように崩れ、形をなくしてしまう。
「きっと大丈夫、お前はワシの娘なんだから」
壊れた壁から風が入り込み、部屋の明かりであったロウソクが落ちた。
その光はジーンとストラを照らした。まるで影絵を作るように。
「ストラ……お前はワシの幻のような夢だった。だから――――――ありがとう」
弱い光が風によって消えると、ジーンの頭も微かに形を残したまま灰に落ちるのだった。
「おじさん…………」
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大きく広い空、雲も無い。海のように青く暗いそれには地平線の向こうからオレンジ色の光がにじむように呼びかけた。下を覗けば少し遠くには石造りの建物が立ち並び、遠くには僅かに海が見えた。
時折吹く強い風が少しだけ肌寒い。
ストラはここで、取ってつけたような木の板が刺した小さな山に向かって祈りを捧げる。
「クロヌシここはね、私が困ったときにおじさんがよく連れてきてくれた場所なんだ。あ! ほら見える? あの海に近いところにある小さい建物がいっぱいあるところに家があるんだ」
ストラのちょっと繕ったような元気さにクロヌシは唇を噛んだ。
「クロヌシは……救世主なんでしょ? だったら、一つだけ一つだけでいいから私の望みを叶えて欲しいの……」
彼女の目の下には腫れが残っていた。しかし力強くまっすぐにクロヌシを見つめる。
「私はおじさんが死ななくちゃいけなかったこの社会が嫌い、この世の中が嫌い、この竜王協和国が嫌い。だから決めた。私はこの国を壊したい! そして、この国を統べる竜王を殺す! これが私の願いそして夢。だから……クロヌシ、あなたの力を貸して」
東から顔を見せた太陽がストラを明るく照らしつけた。
「わかった、協力するよ」
「じゃあ。あなたは私に何を望むの? 体? それとも心?」
手を胸に当てじっとりとクロヌシを見つめる。
「私はこの無謀な夢が叶うのなら、なんでもする。その覚悟はもうできてる」
クロヌシはストラの目をまっすぐ見つめて口を開いた。
「僕が君に望むのは記憶。事故に遭う以前の僕と友人たちと過ごした記憶。それを思い出すこと。それが僕の……そう…………僕の夢だ」
「フフッハッハッハッハ」
ストラは気持ちのいい笑い声を上げて腹を抱えた。そして、目から溢れた僅かな涙を指で拭う。
「そういうことだったんだ。そこに繋がってたんだ。私はあなたの力を、あなたは私の記憶を求める。奇妙な関係ね」
ストラは手を正面に伸ばしクロヌシに握手を求めた。
「改めまして私はストラ・モニウム」
クロヌシは彼女の手を取りこう言った。
「僕はクロヌシ……君の救世主だ」
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