第61話 ブランBその5 ミクロネーション国家連携
ミクロネーションとは、独立国家の樹立を宣言しながらも国際社会の承認が進まないため、“自称”独立国の地位に甘んじている国々のことだ。独立国ごっこ、などと揶揄されることが多いが、中には確固たる歴史的背景を有するものも少なくない。
例えば、ネィティブハワイアンによって1993年に設立された「ネイション・オブ・ハワイ」はその代表格だ。
もともと独立国としての歴史を持っていたハワイ王国が消滅したのは1893年、アメリカ合衆国によってである。1959年には合衆国の州のひとつに編入されたが、やがてネィティブの主権を取り戻す運動が、カメハメハ統一王朝直系子孫の呼びかけで巻き起こる。内外の様々な抵抗に会いつつも運動は地道に継続され、ついに1993年、クリントン政権時にアメリカは王国消滅を謝罪する法案に、正式署名することとなった。
これにより、オアフ島の一部がネィティブに返還され、自治権の回復を果たし自治国家「ネイション・オブ・ハワイ」が成立したのだ。
モニターに表示されている分割画面のうち、左上の一際大きなウインドウに映る女性が話し始めた。
「こんにちは。私は北米先住民族連邦の、チェノアです」
話す言葉は英語だったが、ウインドウの下部に日本語で字幕が表示されている。
「アメリカには、チェロキー・ネイションやイロコイ連邦など、先住民族で構成する国家がいくつも存在します。私たちの北米先住民族連邦は、その中のひとつです。私たちはレナさんとイチコさんという二人の女性によって、PIMBYのアイデアをもたらされました。この点において、私たちはひとつのものです」
東洋人の面差しにも似たその聡明そうな女性は、翻訳のスピードに配慮してか、努めてゆっくり話しているようだった。
北米大陸にネイティブアメリカンのミクロネーションがあることは、比較的よく知られている。白人種による長い迫害の歴史を持つ先住民だが、その統治システムや精神性を高く評価する人々もまた少なくない。草創期のアメリカにおいて、連邦成立の概念や憲法制定の規範としてネイティブアメリカンの仕組みが参考にされた、とする説すら存在するのだ。
「私たちの連邦は、たくさんの物産や観光、鉱物の資源を持っています。もし望むのであれば、日本の人たちはPIMBYを支払ってこれらを買うことができます。私たちもまた、日本の商品をASTROCITYにPIMBYを支払って、購入することを考えます」
大きなウィンドゥの画面がチェンジして、花をつなげたレイを首にかけ、日焼けした男性が現れた。
「アロハ!アロハ・ポノ共和国のマルレイです。PIMBYを国際通貨にしましょう!日本のお客さまがハワイの我が共和国に来てくれたら、PIMBYを使います。インターネットの販売サイトでも、PIMBYを利用します。これは私たちMINNAの理想です」
「私たちみんな?」
コマガタの疑問に半田が答える。
「MINNAとは、Micronation INterNational Alliance、『ミクロネーション国家連携』の略称です。世界には無数のミクロネーションがあるんです。私たちはそのいくつかとコンタクトを取り、PIMBYの共同開発と利用をもちかけています。規模があまりに小さい国家の場合、独自の通貨を発行しても有名無実になってしまいます。複数の国家で共通する通貨を持てばその意義も強化でき、システムの維持コストも軽減できるでしょ。ミクロEU、ミクロ国連みたいなものね。国際的な影響力を持つことも夢ではないかも」
「そうです。私たちは経済圏を共有します。そして共に、世界平和を模索します」
字幕でそう発言したのは、銀色の衣装に身を包んだ男性だ。外国人であることは分かるが、人種は不明である。
「私たちは人類初の宇宙国家『アスガルディア宇宙帝国』。この地球上に、既に20万人の登録市民を有しています」
「宇宙国家アスガルディアには、エンジニアや学者、研究者も数多く在籍していますからね。日本人の登録市民もいますよ。日本語に翻訳された憲法も公開されていますから、興味のある方はどうぞ検索してみてください。ちなみに彼が着ているシルバーの衣装は、宇宙服ではありません。単に彼の趣味です」
そう言って半田は笑った。
「他にもムラワリ共和国、フィレッティーノ公国、イディンズ部族国家、リベルランド、などなどMINNAに参加を表明、または検討していただいているミクロネーションがいます。今回は最後に、自称世界最小の国家、アクアニア公国のマイク大公殿下にごあいさついただきます」」
荘厳な交響曲と共に拡大画面に登場したのは、さきほど「そうそう」と半田に相槌を送っていた白人男性だった。今度は頭上に立派な王冠を載せている。
「諸君。アクアニア公国大公、マイク二世である。アクアニアは20世紀にイギリスが放棄した海底油田採掘基地を取得、『領土 ・国民 ・主権』の国家三要素を満たし、独立を果たした世界最小の国家だ。わが国は通貨単位アクアに基づく独自の経済システムを所有しているが、このほど公国貴族院はPIMBYの理念に賛同する決議を行った。貴族院議員は世界各地の地域から、テレワークでこの決議に参加した。 日本の議員もここに参加してくれたことを感謝する。なお、公国のwebサイトでは、寄付いただいた金額に応じて男爵・伯爵・侯爵の爵位を授与している。いずれPIMBYによる寄付も、爵位の授与が可能となるだろう。諸君の健康と平和を祈る」
「現実的には、アクアニアはイギリスに、アロハ・ポノや北米先住民族連邦はアメリカの経済システムに依存します。ミクロネーションが独自通貨を発行させたとしても、それは域内にのみ流通し、国際的な決済には使えません。しかしここにPIMBYを介在させれば、事実上外国為替を用いずに直接取引ができるようになります。」
「ああ、それが地域通貨でありながら日本円にない機能、ということですか」
「その通りです。新党『本自民党』と同様に、この枠組みも過去にない新しいものです。ですから、今後どんな事態が起こるか分かりません。しかし通貨のデジタル化、ブロックチェーン化は将来的に必ず現実となります。となれば、社会実験のモデルケースとして、先行するメリットが必ずあります。全世界からクラウドファンディングで支援と賛同を募り、リターンとしてPIMBYを付与することも考えています」
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