第24話 さらに働け

「それって、公職選挙法上は大丈夫なんですか?ヒーローショーの受発注契約と絡んできますよね」

 このところ試験前の学生のように、一夜漬けで知識を詰め込んでいる一歩としては、選挙に関して金銭の授受を伴う行為がどこまで適法なのかが気になった。それを聞いたミスターが嬉しそうに破顔した。

「おや、しっかりと勉強されていますね。良い傾向です。それでこそ自由と正義のアストロレンジャーです」

「ジャッカー帝国との契約は、選挙啓発のヒーローショー出演についてのみ。報酬もホームページ上で公開されている規定に従っています。広告代理店が選挙PRの映像制作を請け負うのと何ら変わりはないわ」

「僕がSNSやオウンドメディアで情報発信するのも、通常の自社業務の範疇です。全国各地で活躍するヒーローのニュースは、毎日スマートフォンで配信していますから」

 カイゼル星野はそこで言葉を切ると、口元にややはにかむような笑みを浮かべた。

「個人的にも、象徴首長制の可能性を応援したい気持ちがあるんです。ローカルヒーローが地域の声をひとつにまとめて、みんなのために働くなんて夢があるじゃないですか。ヒーローには、そういう力があると思うんです。子供っぽいかもしれないですけど。僕は関西在住なので今回投票することはできませんが、このプロジェクトには是非ともお役に立ちたいんです」

 一人称がいつの間にか「僕」になっている星野は、熱のこもった目で一歩と玲奈を交互に見つめた。

「それでアストロレンジャーですけど、SNSのアカウントを作ってください。そのアカウントをこちらでフォローします。ホントは選挙のときだけ駆け込みで候補者がアカウントを作るのは、あまりおすすめじゃないんですが」

「わかりました」

「それから、できればご自身でも原稿を書かれてはいかがでしょう。選挙レポートでも、今後の市政ビジョンでもなんでも結構です。ヒーロー自身が投稿するインパクトは大きいですから。大川さんたちと相談して内容を決めてください。文章はこちらでリライトして整えます」

「うへっ、この上まだ仕事しろっていうわけ」

「バッカじゃないの。そんなの仕事のうちに入らないわよ」

玲奈の毒舌にやり込められる一歩を、カイゼル星野は楽しそうに眺めている。

「さて、それじゃ会場に移動して設営とリハーサルを行いましょうか。ボランティアスタッフもそろそろ集まってくる頃です」

宇堂の声を機に、一堂が立ち上がった。

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