第20話 二人暮らしで子ども扱いマシマシ(平野鏡side)
殺し屋の男を撃退した後、ちょっとした騒ぎになっていた。
警察やら救急車やらが来たし、『アンダードック』の人達も駆けつけて来た。
大きな騒ぎになりそうだったので、学校側では緊急の全校集会が行われ緘口令が敷かれた。
そんな言葉に訊く耳を持つ訳がない五女子高生達はSNSで拡散しようとしたが、投稿した途端すぐに削除されて頭を捻っていた。
情報統制の力がそこまで及んでいると思うと寒気がしたが、深くは考えないようにした。
本来ならば事情聴取等があるはずだったが、私は『アンダードック』だったので免除された。代わりに私よりも立場が下の人が受けてくれたらしく、すぐに帰り着いた。
私と、それからエイジさんが住んでいる家に帰り付いた。
「よくやった」
頭を撫でて来た。
その態度が私には妙に腹立たしかった。
「……子ども扱いしてますか?」
「実際に子どもだからな」
「…………」
私のことを子ども扱いしているのは、二人暮らしをしていることからも明らかだ。
――お前には今日からここで暮らしてもらおう。
――えっ? こんなところで暮らすんですか? 私が?
住むことになった家はかなり狭かった。
部屋数も少ない。
こんな場所で男女が一つ屋根の下に住むなんて考えられなかった。
確かに、行く場所なんてもうないから、家を提供してくれるのはありがたかった。
だけど、まさかエイジさんと二人暮らしになるとは思わなかった。
――安心しろ。飯とか世話は俺がしてやる。
――ふ、二人暮らしですか!?
――そうだ。俺も不本意だが、上から命令だ。
――手を出さないで下さいね。
――子どもがませた事を言うな。子どもに手を出すほど飢えていない。
――か、彼女いるんですか?
――黙れ。さっさと部屋に行け。俺は居間を使うからな。
――ちょ、ちょっと待って下さーい。
とまあ、こういう流れで普通に二人暮らしは始まったのだ。
トイレの時とか、お風呂の時とか気を遣っているのだが、エイジさんはあくまで自然体だ。
「お前のお陰で舞浜桜の依頼を全うできそうだ」
「はい! 必ず私が桜さんを守ります!」
「プロの殺し屋を相手にして自信がついたみたいだな。だが、彼女の敵はそれだけじゃない」
エイジさんはそう言うと、立ち上がる。
「どうしたんですか?」
「作り置きの夕飯がある。今から温める」
エイジさんは扉を開けたまま、寸胴に火をかけた。
わざわざ開けたままってことは、話を続けてもいいってことだろうか。
「彼女の敵って、誰ですか?」
「病気だ」
「病気って……なんですか赤血球? 血小板? とかが少ないっていう話ですか?」
「ああ、生まれつき身体が弱いみたいでな。だからこそいつでも傷を癒せるお前が選ばれたんだ」
「いつも、苦しそうですね……。生まれつき、ですか……」
戦闘の時は激しく運動したから消耗しきっていた。
だからその時だけだと思っていたが、桜さんの話を聞くと今日だけじゃないらしい。
ずっと体調が悪いそうだ。
生まれた時からあんなに衰弱しきっているんだったら、辛いんだろうな。
薬を毎日飲まないといけないし、一週間に何回かは学校を休んで点滴を打ちに行く日もあるらしい。
「あの病弱な身体で学校にも行けず、親の都合で転勤も多かったそうだ。友達は出来ず、親は仕事が忙しく、家に帰っても使用人しかいなくて心を開ける相手がいない。そして今あいつは自分の親に命を狙われている」
「……可哀想なんて思っちゃダメですよね」
「同情するなとは言わない。だが、下に見るな。寄り添ってやれ。それはどれだけ優秀な構成員であっても、年の離れた俺にはできないことだ」
「…………!」
もしかして私、期待されているんだろうか。
こんな時に限って、エイジさんには背を向けられている。
一体どんな顔をして言ってくれているんだろうか。
「健全なる肉体は健全なる精神に宿る。お前はあの子の身体を守るだけじゃなく、心も守ってやれ」
「その言葉、そういう順番でしたっけ?」
故事成語だったかな?
漫画とかアニメで聴いたことがあるような台詞だ。
言葉の順番が逆だった気がする。
「なら、言い換えよう。健全なる精神は健全なる肉体に宿る。だから、まずは栄養たっぷりの飯を食え!!」
そう言うと、ドンッ!! と大きめの器を机に置く。
それは二人暮らししてからよく見る食べ物だった。
「いや、不健康になる代表例出しちゃってますけど!?」
ラーメン。
しかもこれなんとか系とかいうやつじゃないだろうか。
一時的なブームを作ったラーメン。
美味しいけど、一気に食べると体調が悪くなる人もいるという代物。
大盛りのせいで身体に悪い物いっぱい入っている気がする。
成人男性ですら食べられない人がいるかも知れない量を盛られているんですけど。
この人は一緒に暮らしていて、私の胃袋の容量をまだ理解していないらしい。
「何言ってんだ? ちゃんとキャベツいっぱいはいっているだろ?」
「ニンニクと油もマシマシで入ってますけどね!?」
こんなもの食べられないと喧嘩しながらも、食べれる分だけは食べた。
翌日。
私は目が覚めてからずっと警戒していた。
また襲われるかも知れない。
結局誰が刺客を送ったのか明確な証拠は見つからないままだったらしいが、私はずっと桜さんの傍に居た。
でも、私が危惧したアクシデントは起こらなかった。
至って平凡で平和な日々が過ぎて行った。
そして、あっという間に時間は過ぎ、任務最終日となった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます