第21話 友達との思い出作り(平野鏡side)
今日は実家で夜に遺族が集まって、遺書の読み上げをするらしい。
勿論、私達も参加する。
そしてそこで遺書が読み上げられて、桜さんが遺産相続人となれば彼女は幸せになれる――んだろうか。
少なくとももう、表立って手を出せなくなるはずだ。
だけど不安になる。
でも、私ができるのは護衛だけだ。
遺産相続人となった桜さんがこれからどうなるか。
それは彼女の意志にかかっている。
彼女の人生なのだ。
所詮は他人である私が何かできる訳もない。
「最後なんて早すぎますね」
学校の帰り。
二人で並んで歩いている時に桜さんはそう呟いた。
全く持って同感だった。
この任務はあっという間だった。
「あの、最後なんで遊びに行っちゃ駄目ですか?」
「それは……」
離れた所から『アンダードック』の人達が私達を見張っているらしい。
実際に殺し屋が現れたことによって、護衛は強化されているらしい。
エイジさんも観てくれているらしい。
だったら少しぐらい羽目を外しても大丈夫かな。
後で怒られそうだけど。
「しょうがないですね。少しだけですよ」
「やったー!!」
桜さんは喜びながら抱き着いてきた。
私も仕方ないですね、と独りごちながらも、内心では喜んだ。
その証拠として思いっきり楽しんだ。
二人でカフェに行ったり、カラオケに行ったり、服屋に行ったりした。
カフェでは期間限定ものか、お気に入りのメニューを頼むかで悩んだ。
結局、二人で好きな物をシェアすることで落ち着いた。
カラオケでは桜さんが女の子らしい可愛いらしい曲を歌ってメロメロになった。
私は私で拳を効かせた演歌を歌って爆笑された。
服屋に行って、カジュアルな服、フォーマルな服とか、いつもとは違う雰囲気の服を着て楽しんだ。
男の店員さんにナンパされそうになったが、私が手を引いて桜さんを連れ出した。
そして、最後に遊ぶのはゲームセンターにした。
ゲームセンターに行くことは学校の校則で禁止になっているけど、今日ぐらいは許して欲しい。
「あれ撮りたいです。――思い出に」
「…………そうですね」
ゲームセンターでメダルゲームやユーフォーキャッチャーなどひとしきり遊んだ後に、見つけたのはプリクラ機だった。
確かに私もプリクラは撮りたい。
でも、一応私は『アンダードック』に所属している。
こういう記録に残るものを積極的に撮っていいんだろうか。
いや、でも今の時代、記録に残るのは普通か。
みんなカメラ付きのスマホを持っているのだから、私だっていつ撮られているか分からない。
だから仮面だって被っているのだ。
もし、プリクラを撮るのが駄目だったら、後で写真を処分されるだけだろう。
だったら今は楽しむことを優先させたい。
「でも、あまり人に見せないで下さいね。私達の存在ってあんまり他人に知られちゃ駄目みたいですから」
「分かりました!」
プリクラ機の中に入ってみると、まるで別世界みたいな空間だった。
思っていたよりも機械のアナウンスの音量が大きくてビクつきそうになった。
だが、あくまで私は冷静を装っていた。
友達が居なくてプリクラなんて撮ったことは人生において数回しかない。
とか、そんな恥ずかしいことは思われたくない。
やり方もよく分からなかったけど、とにかくボタンを押していった。
「へぇ。色々盛れるんですね」
「……なんだか、化粧どころか整形レベルですね」
様々な加工が合って楽しめた。
今時、プリクラなんて時代遅れだと思っていた。
スマホだって加工はいくらでもできる。
だけど、やってみるとプリクラも楽しい。
写真を撮るのが面白いんじゃなくて、友達と一緒に写真を撮るのが楽しい。
この楽しい時間を切り取って思い出にできるのがいいんだろうな。
「どうですか?」
「……いいですね!」
フレームやら、絵文字やらを盛ったのを見せてもらった。
確かにいい。
センスがある。
私だったら、今日の日付をペンで書くことぐらいしか思いつかなかった。
でも桜さんがきっと何気なく描いた友達の文字で心が熱くなった。
「うわー、綺麗」
「いいですね、これ」
プリクラの写真が機械から排出されたので、二人で眺める。
どこに貼ろうかな。
プリクラの専用手帳なんかもあるみたいだけど、デジタルの画像をスマホにも贈れるみたいだし、結構雑に張ってもいいだろう。
でも、大切にしたいな。
「ありがとうございます。本当にいい思い出になりました」
「私もいい思い出になったよ」
ゲームセンターを出て、路上を歩く。
夜になって来たし、そろそろ家に帰らないといけない。
そう考えると自然と二人の足取りは重くなっていっている気がする。
すると、
「ゲホッ!! ゲホッ!!」
「大丈夫ですか?」
いつものように桜さんが咳き込みだす。
私は条件反射的に『ヒール』をかける。
「ああ、大丈――」
そう言いかけた桜さんの口から血が吐き出す。
「……えっ!?」
私は手にかかった吐血の量に驚く。
こんなに酷いのは初めてかも知れない。
「桜さんっ!! 桜さんっ!!」
桜さんは膝をつく。
自力で立っているのもしんどそうだ。
さっきから『ヒール』をかけている。
なのに、症状が一向に良くなっていない。
「そろそろ時間か。遺書の読み上げまでには間に合わなかったな」
死角から声が降りかかって来る。
見上げると、エイジさんが何気ない顔で立っていた。
切迫した状況に似合わない動じない態度を取っている彼に、今は苛立ちさえ覚えてしまう。
「エイジさん! 早く! 病院に!!」
「無駄だ。もうそいつを病院に連れて行っても助からない」
「何言ってるんですか!? 分からないですよ!!」
フゥ、と駄々をこねる子どもに言い聞かせるように、エイジさんは説明を始めた。
「そいつは不治の病なんだ。もう余命は幾ばくも無い」
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