絶対働きたくない俺が幼馴染をアイドルにして貢がせてたら、幼馴染のガチファンなお嬢様が現れて「私が養うからあの方を解放しなさい!」とガチギレしながら生涯養ってくれる宣言してくれたので超絶ヒャッホーイな件
くろねこどらごん
第1話
働きたくない。
それは誰しもが、一度は抱いたことのある想いだと思う。
俺、
きっかけは些細なことだったと記憶している。当時、遠足で少しばかり遠出することがあった。
周りのやつらははしゃいでおり、統率を取るのは一苦労だっただろう。
疲れた顔をしながら子供たちの相手をしている先生を見て、ふと思ったのだ。
―――ああはなりたくな、と。
思えば、当時の俺は随分とませたガキだったと思う。
7歳やそこらで将来のことを考える子供なんてほぼいないだろう。
だけど俺は考えてしまったのだ。あんなふうに疲れた顔をして働くことに、なんの意味があるのだろうと。
俺の両親はいつも帰りが遅かったが、彼らもまた毎日疲れた顔をしていた。
俺の前では笑顔を取り繕っていたが、ふとした瞬間ため息をついたり、うんざりした顔で着信の入った携帯を耳に当てる姿はひどく印象に残っていた。
自分も将来、あんな顔をするようになるのだろうか。
そう思うと、俺は嫌になってしまった。
絶対働きたくない。働いてたまるかという強い思いが、俺の全身を支配していく。
じゃあどうすれば働かないで済むのだろうか。そこまで考えが至った時、ひとりの女の子が俺に話しかけてきた。
「ユウくん、なにしてるの?」
そう言って俺の顔を覗き込んでくるのは、幼馴染の
同い年の中でも飛び抜けて整った容姿の持ち主で、何故か俺によく構ってくるやつだ。
世話焼きというかなんというか。ちょこまかと俺の後ろを付いてきたり、ひとりでいるとこうして話しかけてきて、やたら心配してくるので、俺からしたら少し面倒臭いやつだった。
たまにはそっとしておいて欲しいときもあるのに、いつも傍にいようとするんだから、うっとおしいとすら思うときがあった。
「観月かぁ。なんでもないよ、ちょっと考え事をしてたんだ」
「そうなの?悩んでいるなら相談に乗ろっか?私、ユウくんのためならなんでもしてあげるよ」
案の定これである。
人生についてじっくり考えているのだから、邪魔しないで欲しいんだが。
大体、相談したところでどうにかなるものでも…ん?待てよ?
「なぁ、観月」
「なぁに、ユウくん。もしかして、私にしてほしいこと、なにかあるの?」
キラキラした目を俺に向けてくる観月。
大きな瞳をめいっぱい見開き、期待を覗かせる彼女を見て、俺はある確信を得ていた。
コイツはきっと、俺の提案を断らないと。勝利を半ば確信しながら、俺はゆっくりと口を開く。
「あのさ、俺、働きたくないんだ」
「働きたく…?」
「うん、絶対働きたくない。働くなんて絶対にごめんだ。だからさ、観月に俺の代わりに働いて欲しいんだよね」
「私が?ユウくんの代わりに?」
「そう。そして生涯俺のことを養って貰いたいんだけど」
ダメかな?そう問いかける俺の言動は、子供ながらに間違いなくクズのものであっただろう。
普通なら決して頷かれるはずのない一生寄生宣言。
だが、観月はこれを受けて一瞬キョトンとした表情を浮かべ、
「うん、わかった!私が一生、ユウくんのことを養ってあげるね!」
すぐに満面の笑みで、そう答えてくれたのだった。
※
「皆ー!今日は来てくれてありがとー!」
ウワアアアアアアアアアア……!
歓声が轟く。向けられるのは、スポットライトに照らされたステージだ。
その中央には観客の声に笑顔で応える、ひとりの美しい少女の姿があった。
「本当にミヅキは嬉しいよー!今日は皆に満足してもらえるよう、精一杯頑張るから!私のこと、ちゃんと見てないと…ダメ、だよ?」
『ウオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!L・O・V・E!ミ・ヅ・キィィィッッッ!!!!!』
「あはは♪よーし!それじゃあ楽しんでいってねー!早速新曲いっくよー!『私のカレは♪ドクズ野郎✩』!」
『ウオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!俺もクズになりゅううううううう!!!!!』
またも響く大歓声。
画面の向こう側の盛り上がりを見て、俺は思わずにやけてしまった。
「フッ…昨日のライブもどうやら盛況だったようだな」
学校に登校し、朝のHRを待つ僅かな時間を利用し、俺はスマホで観月の公式Twotterにあげられた動画を確認しているところだった。
同時に反応も確認していくが、評判は悪くない。いや、かなりいいと言える。
どのアカウントを見ても満足そうに感想を呟いているし、次のライブも絶対に参加すると意気込んでいるファンも数多い。
「このままいけばトップアイドルも夢じゃない、か」
そう呟いた俺の声には、きっと万感の思いが詰まっていたことだろう。
あの約束の日から十年。
俺は普通の高校生になり、観月はアイドルになっていた。
まだデビューして一年足らずではあったが、曲の売れ行きも良く、先日出した新曲『幼馴染は★寄生chu♡』はオリコンチャートでも上位に食い込んだほどだ。
抜群のルックスを持ち愛嬌もよければ歌も上手い。おまけにどんなファンであろうとも満面の笑みを浮かべながら分け隔てなく対応するのだから、そりゃ人気が出ないほうがおかしいというものである。
我が幼馴染は押しも押されぬ人気アイドルの階段を、順調に登りつつあった。
(アイドルオタクってやつは、承認欲求に飢えているもんだからな…観月は元々世話焼きで尽くすタイプだから、やつらにも愛想良く対応出来るのは強みのひとつだな)
そりゃあ一度推すと決めて貢ぐ際は金に糸目をつけないが、オタクだってそこまで馬鹿じゃない。
嫌々の対応や媚売りしているかどうかってのは、案外見透かされるもんだ。
ああ、この子は俺を見てくれないんだなと察してしまえば、推すのだって躊躇うのが人間心理ってやつである。
観月がアイドルとして優れている点のひとつは、そういった警戒心を容易に掻い潜れるところにあった。
基本的に人を嫌うといったことをしないやつなので、誰に対しても壁を作らない。
その結果、この子はいい子だ。まさに天使。こんないい子が俺を裏切るはずがないだろうという、絶対的な安心感を生み出すのである。
(ククク…馬鹿な奴らめ。そんな都合のいい人間なんざ、いるはずないってのによ)
絶対的ってのは言い換えれば盲信的とも言える。
要は自分の都合のいい面しか見ようとしないし、考えようともしないわけだ。
そんなやつらは騙されて養分になるのが世の理というもの。
自分だけに都合のいい存在なんざ、早々いるわけがないのだから。
(もし仮にいたところで、そんなヤツはとっくに誰かのモノになってるに決まってるだろ。それに気付かないとは、愚かなもんだぜ)
思わず嘲ってしまうのは、そんなレア中のレアな人間を幼馴染として真っ先に手中に収めることに成功した、勝ち組としての余裕からだ。
いや、でも、ある意味正しいっちゃ正しいんだけどな。
確かに観月は裏切ることはないのだ。観月はファンにとって、清く正しいアイドルのままで居続けることだろう。
なんせ観月は、アイドルになる以前から―――
「お、鹿島。なに見てんだ?」
幼馴染がアイドルとしての階段を順調に駆け上がっている現状に満足していると、ふと声をかけられた。
顔を上げるとそこにいたのは、平凡な顔をした見覚えのある男子生徒。中学からの同級生の佐上である。
「佐上か。これだよこれ。昨日の観月のライブの動画きてたから確認してたんだ」
「ああ、それね。俺も観に行ったけど、すごい盛り上がりだったよ。新曲も披露されたんだけど、すげー良くてさぁ。最高だったぜ」
感動を顕に頷く佐上。彼は以前から観月に好意を寄せている男子のひとりで、アイドルデビューと同時にファンに移行したらしい。グッズも結構な数を購入しているようだ。
身近にいる熱心なファンの感想を耳にして、俺は思わず顔を綻ばせる。
「そりゃ良かった。俺も鼻が高いよ」
「なんでお前が偉そうなんだよ…あ、そういや聞いたか?今日うちのクラスに転校生が来るんだってよ」
呆れたように俺を見てくる佐上。
普段なら気にしないしスルーするところなのだが、さすがにちょっと気になる話題だ。思わず食いついてしまう。
「え、そうなのか?この時期に珍しいな」
「ああ、なんかいきなりだよな。朝職員室で見かけたやつがいるそうなんだが、なんでも転校生は女の子らしいぜ。それも美少女だとか!」
鼻息を荒くする佐上を見て、今度はこっちが呆れる番だった。
こいつ、可愛い女の子だったら誰でもいいんじゃあるまいな…まぁコイツが付き合える可能性は万に一つもないだろうが、大事な金蔓…もとい友人である。
念のため、ちょいと釘を刺しておきますかね。これも幼馴染のためってやつだ。
「ほう。そりゃいいことだが、その子にとっちゃ不運だったな。なにせうちのクラスには現役アイドルがいるわけだし、いくら可愛かろうと勝ち目はないだろ」
「まぁそれはそうなん」「その通りですわ!!!!!」
頷く佐上の声をかき消すかのように、バーン!!!と教室のドアが開け放たれた。
「私如きがあの方に勝てるはずもありません!いえ、勝つ必要などまるでなし!!!あの方こそ我が太陽にしてフェイバリットアイドル!!!至高にして究極の存在!!!この世に存在することがまさに奇跡と言わざるを得ない、現人神そのものなのですから!!!」
そんなことを教室の入口に立ち、大声で宣言したのは、見覚えのない女子だった。
アッシュゴールドの綺麗な髪を背中まで流し、大きな胸をこれ見よがしに張る姿はやけに堂々としており、なんとも様になっていたが、見ているこちらはまさにポカン状態である。
見れば教室にいたクラスメイトも皆口をあんぐり開けてその生徒に見入っており、唐突に現れた闖入者に完全に戸惑っているようだ。
「ふふふ、声も出せないようですわね。まぁ当然でしょう。あの方の素晴らしさを説かれたら、私もつい聞き入ってしまいますから。ああ、それにしてもついにあの方と同じ学び舎、それも同じ室内でこれからは過ごすことができるとは…この
「あ、あの。伊集院さん?その、ちょっといいかしら。あまり派手に扉を開けてもらうと、そのぅ、困るのだけど…」
ドヤ顔を浮かべながら自分の世界に浸る伊集院と名乗る女に背後から声をかけたのは、うちのクラスの担任である佐々木先生だった。
まだ新任であることもあってか、気が弱いところがある人で、現役アイドルがいるクラスという明らかに面倒臭そうなポジションを早々に押し付けられた苦労人である。
今も彼女は涙目で周りをキョロキョロ伺っているが、派手な音を立てて登場した伊集院は一向に気にする様子はない。むしろ整った顔を佐々木先生に向けると、じろりと睨むように見つめ、
「あら、なんですの教諭?私になにかご意見でも?」
「あ、えと。と、とりあえず教室に入ってくれると助かるかなって…先生は扉の立て付けを見ておくから、皆に自己紹介して欲しいなぁ…あははは…」
年下の女子に気圧され、先生は愛想笑いを浮かべて背を向けた。
弱い。弱いよ佐々木先生。
きっと皆そう思ったことだろう。事実、教室の戸をガタガタと動かし、問題ないか確認する先生の背中はひどく哀愁に満ちており、そこに注がれる生徒の視線は皆悲しいものを見つめるそれであった。
そんな同情の眼差しを見て、俺はやはり働くなんて有り得ないなと密かに決意を固めるも、そんな教室に漂う同情の空気など露知らず、まさにぶった切るように、転校生はつかつかと歩を進める。
ピンと背筋を真っ直ぐに伸ばし歩く姿は、まるでどこぞのモデルのように優雅なものだ。
登場早々完全に場の空気を支配したその女は、教壇の前まで来ると足を止め、これまた優雅に一礼した。
「お初にお目にかかります、皆様。私は伊集院家の息女、伊集院麗華と申します。これから皆様の学友として一緒に過ごすことになりますので、どうぞよろしくお願い致しますわ」
「「「は、はぁ…」」」
無礼極まりない登場に対し、礼節たっぷりな挨拶をする転校生に、曖昧な返事をするクラスメイト達。
この人、キャラ濃いな。皆、きっとこう思ったに違いない。
なんかさっきから思ってばかりな気がするが、この空気の中で確認する勇気があるやつなんざいないだろうから仕方ないのだ。
その間に、伊集院は満足そうに頷くと、なんか勝手に自己完結して、席に向かってくる。
「さて、早速ですが、私の席はどこかしら。ああ、あそこですわね。誰も座っていない席が隣合ってますもの。つまり指定通り、あの方の隣席を確保できたということですわね!!!」
見ると鼻息は荒いし、なんだか目も血走っているような気がするが、触れてはいけないのだろう。
というか、話しかけたくない。それはクラスの総意でもあったようで、誰も伊集院に話しかけようとしなかった。
やがて席にたどり着いた伊集院は、感極まったように身を震わせると、
「あ、あああ…こ、これが…これがあの方の…ミヅキ様のお机…!あの今世紀最強の超絶スーパーアイドル、ミヅキ様のぉぉぉっっっ……!!!!」
『!!??』
なんと、机に頬ずりをし始めたのである。
これにはさすがに仰天せざるを得なかった。というか、さっきから驚きっぱなしだ。
驚愕のバーゲンセールとはこのことだろう。クラスの空気が困惑一色に染まっていく。
「ほおおおおお!!!こ、これがミヅキ様の席の手触り!感触!た、たまりませんわあああああああああああああああああああ!!!!!」
だというのに、転校生は一向に意を介した様子がない。
朝っぱら、しかも教室中の視線が集まっているというのにだ。
この時点で並の胆力ではないことは明白だったが、あまりの奇行にもはやクラスメイト一同ドン引きであった。
「しゅりしゅり、しゅりしゅり…ああ、いい香りがしましゅ…これぞトップアイドルのスメル…ここに住める…転校してきて本当に良かったァ…」
「あの、ちょっといいかな」
そんな悦に浸りまくっている転校生に、俺は敢えて声をかけた。
途端、ギョロリと青い目が俺に向く。そこには不満の色がありありと映っており、邪魔されたことに憤慨しているのは明白だ。
「なんですの?私は今、至福の時間を味わって…」
「そこ、後藤くんって男子の席なんだけど。姿が見えないから、多分今日は休んでるんじゃないかな。観月の席はこっちなんだわ」
そう言って、俺は自分の隣の席を指さした。
彼女の席は左右空いた形になっており、頬ずりしていたのは反対側の男子生徒のものだった。
二分の一の確率で、彼女はハズレを引いたのである。
「…………」
「えっと、ご愁傷様。なんかこう、残念だったな」
頬ずりの姿勢のまま固まる伊集院に思わず同情の目を向けてしまうが、彼女はすっくと起き上がると、何故か手をパンパンと二回叩く。
すると、教室のドアがガラリと開いた。勢いが良すぎてドアの立て付けを見ていた佐々木先生に直撃し、「ぶっ!」と悲鳴を漏らしていたが、そんなことはお構いなしとばかりに、やたらガタイのいい黒服の男が室内に入り込んでくる。
「きたわね、黒磯」
「お呼びでしょうか、お嬢様」
「この机を、今すぐ処分して頂戴。滅却してこの世から文字通り消し炭にしなさい今すぐしなさい!いいですわね!」
「はっ!了解しました!」
伊集院に敬礼した黒服の男は、すぐさま机を抱えると、そのまま一目散に教室から去っていった。
一分もかかっていないだろう、あっという間の出来事である。俺たちはそれを黙って見ていることしかできなかった。
ちなみに後藤くんは置き勉派であり、彼の机には教科書やノートが詰め込まれていたはずだが、それに関して触れることは誰もしなかった。
急展開の連続に、頭がついていかなかったのだ。
もはやカオスと化した無言の教室内に、コホンと咳払いする音が小さく響く。
「…………さて、改めまして。こちらがミヅキ様の机ですか。先ほどの机とはまるで違う、高貴なオーラが見えますわね。教えてくれて感謝致します。貴方、お名前は?」
「ん?俺?鹿島裕司だけど」
唐突に名前を聞かれたものだから、つい反射的に答えてしまう。
まぁ隠すもんでもないし、構わないけどさ。
「そうですの。では裕司様。後ほど、改めてお礼を差し上げますわ。さて、ジュルリ。そ、それでは、今度こそ…!」
伊集院が手をワキワキさせながら、観月の机に飛びかかろうとした時、教室のドアが再度開いた。
「あぶっ!?」
「皆、おはよう!」
ガラリという盛大な音と、明るい声とともに教室に入ってきたのは、現役JKアイドルである我が幼馴染、観月だった。
ちなみにまたもや先生は顔面を強打していたが、もはや触れないほうがいいだろう。
観月が登場した途端、静まり返っていた教室内の時が動き出す。
「お、おはよう、木ノ下さん!」「助かったー!」「今日は遅かったね!やっぱり昨日ライブがあったから?」
観月の挨拶に応えるように、教室のあちこちから返事が飛んでくる。
ある意味救世主の到来したようなものだからな。さっきまでの空気を吹き飛ばすが如く、明るい雰囲気に変えようと皆必死になっているのかもしれない。
「うん、昨日はホテルに泊まったから、今日はマネージャーさんに送ってもらったの。それでちょっと遅くなっちゃった」
返事を返しながら歩いてくる観月だったが、それだけでも他者とは違う華がある。
幼い頃から大きく成長した彼女は、背もグッと伸び、スタイルも他の生徒とは一線を画していた。歩くだけで絵になるとは、まさに観月のことを指すのだろう。
勿論容姿もアイドルをやっているだけあって並外れたものを持っており、そこらの女子とは比べ物にならない。
まさにアイドルになるために生まれてきた少女と言えるだろう。
一気に注目の的となっている観月に、俺は気軽に声をかけた。
「よっ、観月」
「あ、ユウくん!」
俺の声に、笑顔を浮かべ、近づいてくる観月。
幼馴染の役得というやつだろうな。Win-WInの関係だからまぁ問題はないだろう。
「あ、あばばばばば。な、な、なまみじゅきしゃま!?本物!?ぱ、ぱ、パーフェクトヒューマンがすぐそこに!!??」
ちなみに伊集院はなにやらバグったように何事が呟きながら口をパクパクさせていたが、俺はスルーすることを決め込んでいた。こういう時は、無視するに限るのである。
「昨日のライブ、良かったみたいじゃないか。ネットじゃ絶賛されてるぜ。最高のライブだったって評判だ」
「ホント?えへへ、昨日は頑張ったから嬉しいなぁ」
俺が褒めると、観月は頬を赤らめ、はにかむように微笑んだ。
幼馴染としての贔屓目抜きに可愛いと思う。
こんな可愛い女の子に、真正面から笑顔を向けられる俺は、きっと幸せ者なんだろう―そう、色んな意味でな。
「うむ、これからも精進したまえ。そうしてたくさん稼いでくるがいい。そうすりゃ勝ち組待ったなしだからな」
「ユウくん、ちょっとその言い方はひどいよー。ファンの人達は私のことを真剣に応援してくれてるんだから。私は、それにしっかりと応えないといけないの。私、そういうの抜きでこれからも頑張るつもりだよ?」
めっと、まるでいけないことをした子供を叱る母親のような態度で、観月は俺を窘めてくる。
隣ではうんうんと佐上が頷いている。すっかり忘れていたが、そういやいたな。
教室のあちこちで感銘の声も上がっているが、どうやら観月のアイドルとして模範的な回答に、各地で好感度が急上昇してるらしかった。
「悪い悪い。茶化しちゃったか。観月は真剣にアイドルに取り組んでいるんだな」
俺は観月に謝りつつその様子を横目で確認し、内心ほくそ笑んだ。
こんなことで好感度を稼げるならチョロいもんだ。悪役になるなんて、俺にとっては造作もないことである。
「うん。分かってくれたらそれでいいの」
「おう。それでさ、本題なんだけど―」
なんせ、それは巡り巡って俺の利になるんだからな。
なぜなら―――
「今月分の金、持ってきてくれた?」
「うん。さっき下ろしてきたから。はい、これ!今月分のお小遣いだよ!」
満面の笑みで差し出された封筒こそが、俺の求めていたものなのだから。
「お!ありがとな!いやあ、毎月助かってるわ。これで新しいゲームが買えるぜ!」
「ふふっ、先月はライブもあったし、結構貰えたから今回は奮発したんだよ?お金足りなかったり欲しいものがあったら、その時はまた言ってね?」
厚みのある封筒をありがたく頂戴しつつ礼の言葉を述べるが、なんとも嬉しいことを言ってくれるじゃないか。
アイドルになって以来、俺は観月からの『お小遣い』が、毎月貰えるようになっている。
その額は彼女の稼ぎのほぼ全て。観月は必要最低限の金だけを手元に残して、俺に稼いだ金を渡してくれているのだ。それも毎回笑顔でだ。
なら、断るのも忍びないし、ありがたく貰うのが人情ってもんだろ?
ついでに俺は遠慮なく欲しいものを、幼馴染に要求することにした。
「お?そうか?じゃあさ、俺、新しいスマホが欲しいんだよね。今度出る最新型のやつ、デザイン良くってさ。買い換えたいンだわ。金出してくンね?」
「えー、この前買い換えたばかりじゃない。まだ早いんじゃないかなぁ」
俺の催促に渋りを見せる観月だったが、俺は知っている。
この幼馴染が、俺の頼みを断るはずがないのだと。
「欲しくなっちまったんだから仕方ないだろ?な、頼むよー。なんか埋め合わせすっからー。できたらだけど」
手を合わせ、媚びた態度で再度拝む。
すると観月は小さく嘆息し、こう言うのだ。
「うーん、仕方ないなぁ。じゃあ今度一緒に買いに行こっか?」
「お、さっすが観月!話が分か…」「ちょ、ちょっと待ちなさい!」
ほら、やっぱりチョロいもんだ…内心ニヤリとしかけたところで、突如横やりが入った。
視線を向けると、そこには困惑した表情をした転校生の姿がある。
「なんだよ、今いいとこなんだから邪魔しないで欲しいんだが」
「あ、すみません…ではなく!裕司様、貴方、ミヅキ様になにを仰ってるんですの!?」
唐突に俺たちの会話に割って入ってきた転校生に、思わずむっとするも、それは観月も同様だったようだ。
彼女には珍しく不快そうに眉を顰めると、俺に向かって聞いてくる。
「裕司様…?ユウくん、どういうこと?この子とはどういう関係?ていうか、この子誰?」
「ん?ああ、観月は知らなかったか。コイツは今日うちのクラスに転校してきた転校生だよ。確か名前は…」
「伊集院麗華ですわ!ミヅキファンクラブNo.072番!貴方の大大大ファンのひとりです!ミヅキ様、ずっとお会いしとうございました!」
俺の言葉を遮って、伊集院が観月の前に躍り出る。一部の隙もない完璧な身のこなしに、思わず呆気に取られてしまった。
「えっと…」
「初めて貴方の歌声を聞いたとき、私の全身に電流が走りましたの!そして悟りましたわ!貴方は私の運命なのだと!それからずっと、貴方のことを全力前進全霊を持って応援し続け、同時にお慕いして参りました…!でも、それだけでは我慢できず、伊集院財閥の力を使ってミヅキ様の経歴を辿り、ついに転校までしてしまったのです…申し訳ございません。どうしても、貴方の近くにいたかったものですから…!」
そんなストーカー全開の発言を自ら白状し、一気にまくし立てる伊集院。
彼女はなにやら感極まったように涙を流しているが、こんなことを言われた当人の観月としては戸惑いしかないだろう。
事実目が泳いでるし、相当困っているのが見て取れる。
「それはその、ありがとう…?」
「いえ!そんな!私の勝手な行動ですから…勿論、迷惑をかけたお詫びは致します。これからはミヅキ様を我が伊集院財閥の総力をもってサポートさせて頂きますわ!手間もお金も一切惜しみません!日本一、いいえ、世界一のアイドルとなりましょう!貴方はそうなるべきお方です!そうでなければ、世界がおかしい!!!」
伊集院は完全に興奮していた。
目もイっている。まさに敬愛すべき主に出会った狂信者そのものだ。
だがそれ以上に、俺には気になることがあった。
「伊集院って、あの伊集院財閥?確かめちゃくちゃ大金持ちのとこだよな」
伊集院財閥といえば、日本屈指の大企業として有名だ。
CMでも良く見かけるし、そんな企業がバックにつくというのなら、観月の将来が輝かしいものになるのはもはや約束されたようなものだろう。
幼馴染がさらに飛躍するというのなら、いやがおうにもテンションが上がってしまうというものである。
「ええ、そうですわ…というか、貴方!ミヅキ様になんという要求をしているのですか!」
「え?」
「さっきの発言、忘れたとは言わせませんことよ!なんですか、あれは!ミヅキ様にまるで乞食のようにタカって…裕司様は、ミヅキ様とどういう関係なんですの!?」
声を張り上げ問いただしてくる伊集院。
すごい剣幕だったが、そう言われてもな。俺と観月はただの幼馴染であり、それ以上でもそれ以下でもないんだが。
「どういう関係って言われても、俺と観月はただの幼馴染だよ。その観月に、スマホを買ってくれって言ってるだけだろ?別におかしなことはなにも言ってないじゃないか。なぁ?」
「うん。そうだよね」
「いやいやいや!おかしいって!なんで木ノ下さんに頼んでんだよ!そんなの親に言って買ってもらえばいいだろ!他人に頼むことじゃ絶対ないって!」
俺の意見に観月は同意してくれたが、今度は佐上が横から口出ししてくる。
なんだってんだ、どいつもこいつも。常識ってものを知らないんだろうか。
クラスメイト達からの理不尽な問い詰めに合い、思わずため息を零してしまう。
「なに言ってんだよ。親が買ってくれるわけねーだろ。ウチの親ケチだし、この前観月に買ってもらったときだって小言言ってきたんだぜ?」
「いやそりゃ言うだろ!?それが当たり前だって!木ノ下さんも買っちゃ駄目だよ。そんな義理もないんだし、アイドルやって得たお金は自分のために使うべきだよ!」
「ええ!そうですわ!ミヅキ様は男になんて貢いではいけませんの!そんな媚を売る必要なんてありません!貴方はアイドル世界の頂点に立ち、全てを従える立場にあるのですから!」
佐上と伊集院が同時にツッコミを入れてくる。
どうも説明に納得がいっていないらしい。
「んー、そう言われても。ユウくんをたくさん楽させてあげるためにアイドルになったから、ユウくんの頼みならなんでも聞いてあげたいし。私は全然構わないというか、むしろ貢ぎたいんだよね。お金なら全部あげるし、むしろ私がいないと生きていけないくらいに堕落しきって欲しいなぁって」
「ミヅキ様!?」
「なに言ってんだよ木ノ下さん!そんなんじゃコイツダメ人間どころか、ただの寄生虫のクズ野郎になっちまうぞ!?それはダメだろ、人として!?」
「ひどい言いようだなオイ」
思わずツッこむも、誰も俺の話を聞いていない。
皆観月に夢中である。だけど、肝心の観月は俺に夢中なようで、俺に視線を向けて微笑むと、楽しそうに話しかけてくる。
「うん、寄生いいよね。ユウくんのことを一生養ってあげるって約束したもん。クズなら私以外を頼れるはずもないから、むしろ最高だよね。絶対私から離れることはないし、私もずぅっとユウくんの面倒を見てあげれるんだもん。これ以上の幸せはないよ。ね、ユウくんも、私に尽くされて嬉しいよね?」
「おう、その通りだ。一生俺のことを楽させて、そして養ってくれよ?俺のことを働かせるような事態になったら承知しないからな?」
「うふふ。分かってるよ。ユウくんのことは、私だけがお世話してあげるんだから…そう、私だけが…うふふふ…」
なんだか観月の瞳が徐々に濁っていっているような気がしたが、まぁ気のせいだろう。
俺からしたら養ってくれるならなんの文句もないからな。
スポンサーも付いたし、これからますます稼いでくれることだろう。
ヒャッホーイな未来はすぐそこにある。そう思っていた時のことだった。
「…いけませんわ」
「ん?」
「いけませんわ!そんなことっ!ミヅキ様に寄生し、甘い汁だけ吸い取ろうなんて…そんなこと、天が許しても、この私が許しませんことよっ!!!」
そう叫んだのは伊集院だ。
絶対認めないとばかりに俺を睨む彼女だったが、そんなこと言われてもこっちは困る。
「んなこと言われても。肝心の観月が同意してるんだし、別にいいじゃないか」
「そうはいきません!ミヅキ様はトップアイドルになる器のお方!恋人がいては、これからの活動に支障が…」
「?いや、俺と観月は恋人じゃないぞ?」
伊集院の口から飛び出た恋人発言を、俺はすかさず訂正する。
「へ?」
「なんか誤解しているようだが、観月はアイドルだぞ?恋人なんか作るのは御法度に決まってるじゃないか。そんなん俺だってわかってるわ」
「え、いや、ですが。だってお金…養うって…」
「付き合ってはいないが、養ってもらうし稼いだ金のほとんどを俺が貰うっていうだけだ。他に恋人ができようが家族を作ろうが一生な。俺は観月から金を貰って遊びまくる。観月はその分頑張って働いて俺を遊ばせる。お互いに損しないし嬉しいし、これなら問題ないだろう?」
幼馴染として当然の権利を、俺は主張する。
そもそもガキの頃の約束で言質は取ってるからな。
観月がこれから恋人を作るなり結婚するなりは自由だが、それでも俺のことを養ってもらうというだけだ。
これならなんの問題もない。スキャンダルにだってならないだろう。俺って頭がいいなぁ。天才なんじゃないだろうか。
そんな天才である俺を、伊集院はすごい目で見つめてくる。
「ク、クズ…!これは、生粋のクズですわ…!有り得ない…なんというゴミ…クズ野郎…!よりによってミヅキ様の周囲に、こんな、こんな男がいたなんて…!」
「お、お前。恥ずかしくないのか…?同い年の木ノ下さんはアイドルと学生両立させて頑張ってるんだぞ!?男として、それでいいのかよ!?」
男としてのプライド?そんなもんに拘って、何十年も働き続けるってのか?
断言する。ありえん。
「ふっ、なんとでも言え。俺は生涯働かないと、そう決めたんだ。ちっぽけなプライドなんざ、とうに捨てたわ」
そう言って俺は胸を張ってふんぞり返る。決して開き直りではない。
男のプライド<<<<(超えられない壁)<<<<働かないこと
こんなの考えるまでもなく明白じゃないか。
そんなもんのために働かないといけないっていうなら、ちっぽけなプライドなんざゴミ箱に即座にダンクシュートしてやる。ていうかした。
「それでこそユウくんだよ!私、これからもユウくんが働かないでいいように、頑張って働くからね!」
「おう!一生毎日満漢全席食えるくらい稼いで稼いで稼ぎまくってく「…ますわ」れ…ん?」
にこやかに会話を交わす俺と観月の間に挟まる声。
その声の主、伊集院は体を震わせ、ガバッと顔を上げると、
「私が裕司様を養いますわ!一生!なに不自由ない生活を保証します!ええ、伊集院財閥の名に賭けて保証しますとも!」
「え、お?」
「ですから、あの方を解放しなさい!貴方がどんな洗脳を施したのかは知りませんが、ミヅキ様は貴方のような下賎な輩に縛られていい方ではありませんの!!!貴方がクズなことには目を瞑ります!私がミヅキ様に代わって、生涯貴方を養いますから、あの方の人生を、どうか壊さないでくださいませ!!!」
そう一気にまくし立てた。
慌ただしかった教室はシンと静まり、沈黙が訪れる。
「え、あの。私全然気にしてないんだけど。というか、養いたいから邪魔になんてなってないし、むしろやる気満々というか…」
「……その言葉、本当か?」
そんな中、観月が発言するが、俺はその言葉を遮り、伊集院へと問いかけた。
さっきの言葉が本当なのか、確かめるために。
「へ?ユ、ユウくん?」
「勿論ですわ。伊集院財閥の名に賭けて誓います…!」
「本当だろうな?毎日A5ランクの肉を食わせてもらうぞ?ガチャだっていくらでも回させてもらう」
「え、ちょ、なに言ってるの?」
「A5だろうが本マグロだろうがガチャ1000連だろうが最高級ロイヤルスイートホテルだろうが、いくらでも食べて寝て利用しなさないな!私は嘘などつきません!その代わり、約束は守ってもらいますわよ…!」
「いいだろう。伊集院こそ忘れるなよ。約束を破ったら、俺は即効で観月にタカるからな。よく覚えておけ」
「ハァッ!?ユウくん、なに約束してるの!?どうゆうこと!!??」
観月が騒ぎ立てているが、俺は冷静だ。
至極冷静に、頭の中でソロバンを弾いただけである。
(アイドルなんてギャンブルのようなもんだからな。どう考えても財閥の稼ぎのほうが安定してらぁ)
アイドル<<<<(超えられない壁)<<<<財閥令嬢
こんなん誰に聞いても、どっちが金持ってるか一発で分かる問題だ。
今でも金なんざいくらでも持ってるだろうし、仮になにかあったらまた観月にタカリ直せばいいだけだ。
そんな冷静かつリアリティのある計算を瞬時にこなした俺は、伊集院に擦り寄ることにした。ただそれだけの話である。
どっちに転んでも俺の勝ち。超絶ヒャッホーイな、薔薇色の未来が待っているのだ。
「ええ。それでは…」
「契約成立、だな」
「ちょっと!私は納得してないよ!!!私がユウくんを養うの!ユウくんをダメ人間にしてあげるのは私なんだからぁっ!!!」
ガッシリ握手を交わす俺たちに、割って入ろうとしてくる観月。
「き、木ノ下さん!」
そこにさらに割って入る声があった。
「もう!なに!?」
「お、俺のことを養ってくれないか!俺は君が好きだ!君が望むというなら、俺はダメ人間になる!いや、俺のことを、ダメ人間にして欲しい!」
怒りながら振り返る美月に、佐上はそんなことを告白していた。完全にドサクサ紛れであったが、やつはこれを好機と踏んだのだ。
(げっ!まずい!)
佐上の告白を聞いて、俺は焦る。
通常ならドン引きの最低な告白だが、観月には効果がある可能性が高いからだ。
ダメ人間大好きな幼馴染に、この手の告白はクリティカルであることを、俺は身を持って体験している。
だからヤバいと思い、咄嗟に止めに入ろうとしたのだが、
「え…なに言ってるの、佐上くん」
「へ…?」
「そんなこと、言っちゃダメだよ。普通に引くもん。告白してくれたのは嬉しいけど、それは人としてどうかと思うな…ちゃんと働かないとダメだよ。家族の人も悲しむと思うし。そういう発言は控えたほうがいいんじゃないかな…」
観月はドン引きしていた。
明らかにヤバいやつを見る目で佐上を見ながら、ジリジリと距離を取っている。
そんな観月を見て、佐上は燃え尽きたように真っ白になっているのだが、それはさておき、
「私が養いたいのはユウくんだけだもん。そう、私だけがユウくんを養ってあげれるの。ダメ人間のユウくんを愛してあげれるのは私だけ…私だけ、私だけがユウくんを…うふ、うふふふふふふふふふふふ」
「えっと、観月さん?」
なんだか観月の様子がおかしい。とってもおかしい。
怪しい笑みを浮かべ出し、なんだか目も暗い輝きを帯びている。
遠巻きに事態を見守っていたクラスメイト達も、怯えたように距離を取っていた。
誰が見ても、今の観月はちとヤバい雰囲気を醸し出している。なんていうか、ダークさが半端ない。
「ミヅキ様!言質を取りましたわ!これからは私が貴方のバディとして手となり足となり、全力でサポート致しますぅっ!」
だというのに、伊集院は平然と話しかけていた。
これが空気を読めないやつとの差なのだろう。ああはなりたくないなと、心の底から思ってしまう俺はきっと間違っていないだろう。
そんな空気の読めない財閥令嬢を、現役JKアイドルは冷たい目で見つめると、
「邪魔」
「へっ?あうっ!?」
「ちょっ!?おまっ!?」
軽く腕で一蹴した。
ドンガラガッシャンと音を立て床に転がる伊集院だったが、その顔にどこか恍惚の色が浮かんでいたように見えたのは気のせいだろうか。
伊集院を払い除けた観月はそのまま俺をグルリと見ると、
「ねぇ、ユウくん」
「え?あ、あの…観月、さん?」
「働きたくないんだよね?」
めっちゃ冷たい声だった。
地獄の底から響いてくるような闇を感じさせる、アイドルとは思えないデスボイス。
「え、あ、はい」
「一生、働きたくないんだよね?」
「う、うん」
「一生、私に養ってもらいたいんだよね?」
「そ、そうです」
観月からの問いに、俺はただ頷くしかない。
まるで生まれたての小鹿のように、足もカクカクいっている。
「なら、私だけでいいよね?」
「は、はい?」
「私だけが、ユウくんを、養ってあげれる。私以外の女の子なんて必要ない。そうだよね」
ズイっと、顔を寄せて聞いてくる。
「そ、それはその。養ってくれる人数と保険は、お、多いほうが…」
「ひ・つ・よ・う・な・い・よ・ね」
底のない暗い瞳がそこにある。
メチャ怖い。それが俺のシンプルな感想で、
「は、はひ…」
「うん♪ならよし✩」
その声に、俺は逆らえなかった。
頷いた途端、パッと離れて明るい声を出す観月が、とても恐ろしい存在に思えてくる。
「ねぇ、ユウくん」
「は、はひっ!」
上ずった声で答える俺に、観月は満面の笑みを向け、
「私が、ずっと、ずーーーーーーーーーーっと!養ってあげるからね!」
働きたくない俺にとって、とても有難い宣言をしてくるのであった。
「一生逃がさないからね♪…絶対」
「は、はい…」
もしや、寄生されたのは俺のほうなのではないかと、そんな考えが脳裏に浮かんでしまったのは、また別の話である。
「あ、あの、ミヅキ様…また私のこと、殴ってくれませんか…?」
「「え゛」」
「あ、鹿島くん。働きたくないなら、先生が養ってあげようか。せ、先生、実はダメな男の人が好きだったりするんだよね…えへへ…」
「え、マジで!?いいの!!??」
「………ユウくん?」
そして転校してきた幼馴染のファンであるお嬢様が、観月に殴られたことによってドエムに目覚めたり、実は実家が太かった佐々木先生に誘惑されてしまい、それを間近で見ていた観月が闇堕ちしそうになるのも、これまた別の話だったり。
絶対働きたくない俺が幼馴染をアイドルにして貢がせてたら、幼馴染のガチファンなお嬢様が現れて「私が養うからあの方を解放しなさい!」とガチギレしながら生涯養ってくれる宣言してくれたので超絶ヒャッホーイな件 くろねこどらごん @dragon1250
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