三十五話 妖里さん水へ飛ぶ

「はぁ…まさか緩んで飛んでっちゃうなんて…」


「ふッ…大丈夫そう?なんか、とっても…いや…なんでもないわ…ふふッ…」


「今が夏じゃなかったら凍え死ぬとこだったよ…。あと着替えも持ってきておいてよかったよ…」


「あっちの木の裏なら見えないだろうから、はい着替えも」


「ありがとう。ミネ。でもその笑みがなかったら本当によかったんだけど…」


「…わ、笑ってないですよ」


「みんなが笑ってくるんだ!僕以外が乗ってたら同じ風になってたろうに…。誰も気付かなかったのに…」


「まぁまぁ、風邪引いたら良くないでしょ?妖里さん」


日里士がそう言ってなだめる。


「はぁ…まぁ、あっちで着替えてるよ」


「なぁ、徹」


妖里さんが木陰に隠れた辺りに日里士がこっそりと話しかけてくる。


「アレを笑わないのは無理だよな…?」


「…ノーコメント」


「そうだよな…。良かった…」


どうやら顔に答えが出ていたようである。


妖里さんが着替え終わる。どこか不服そうな顔はしてこっちへ歩いて来る。


「はぁ…楽しもうと思ってたんだけどな…」


「まぁ、面白かったわよ」


「未瑠華…その面白いは絶対違うヤツだよね?」


「そういえば妖里さん。これらって片付ける必要とかあるんですか?」


「あぁ、大丈夫だよ。これらを使って新しい場所に整備するって言ってたから、多分もっとすごい遊び場になるんじゃないかな?」


「それなら、この木に名前彫っときません?僕らが作ったって」


と日里士が提案する。けど、妖里さんは乗り気じゃないのか顔を渋る。


「あんまり良い気がしないけど…。それは雪風さんに聞いてからにしようか」


「あ…そうですね…すいません…」


みんなで歩きながら寮へと帰る。


「さて、明日最終日だから、たんまりと遊びたいね。やっぱりここはゆっくりと遊ぶ場が丁度良いんだろうな。けど…」


「どうしたんですか?」


「いや…なんでもないよ。ただ、もっといいところにできそうで勿体無いなって」


「そういえば雪風さんが言ってたんですけど、この森にはリラックスできる効果があるって本当なんですかね?」


「あぁ、それは本当だよ。自然の音が聞こえるってのもあるけど、それにプラスして……あっと、なんだっけ…?」


妖里さんはわざとらしくそっぽを向く。全員に顔が見えないように。


「知らないなら大丈夫ですよ」


「いや…!知ってる…と思うんだけど…ま、まぁ、いいか」


そう言って少し速歩きとなったのであった。

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人魔闘諍 眞田家の者です。 @lcok44

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