十六話 蜘蛛の異変
「これで少しはマシになったかな?」
「そうだな…そういえば、ここまで連れて来て倒せたりはできそうか?」
今は絡新婦がこっちに向かって来ており、監視員の言う通り逃げて来たが、まだ追ってきている。逃げるのは難しいだろう。
だが幸いここには、柚香と徹がいる。少し考えれば策は練れるだろう。
確かに、最高の場合は絡新婦を倒せるかもしれないな。
「倒す、か…五分五分、いや、もっと低いな。三割ぐらいだ。正直逃げた方がいいな」
「逃げるとしても、あれだとずっと追ってきそうだからな…」
「ここまで追ってくるぐらいだしな」
森のように、木々で囲まれている場所は、デカい図体の絡新婦にとって通りにくいだろう。それのお陰で逃げれているところもあるが、ここからは平たい場所が続く。
正直、逃げるにも限度があるだろう。
「お前らァァ!こっちにこーい!」
その時、後ろから大声が聞こえた。
それはさっき会ったばかりの、諸々の注意を教えてくれた監視員さんの声だった。
見たとこボロボロで、他一人と共に命からがら逃げて来たらしい。
「こっちは大丈夫か!?」
「こっち?どこかおかしなところがあったんですか?」
「あぁ、監視拠点が襲われてな…一人殺られた。蜘蛛たちが殺ったんだが、ここにはいないはずの土蜘蛛や大蜘蛛なんてのも来やがった!」
「奴らは縄張りを持っており、そこから出ることはない。だが、ここまで来たということは、なにかが縄張りに侵食して来やがったということだ。非常にマズいな…」
思ったよりも深刻そうだ。これは絡新婦をどうこうってどころじゃないぞ。
どうするか…
「連絡などはできるのか?」
「足止めさえいれば。だが、そこから本部にすぐ通じるかはわからない。正直その線は絶望的だ。それに、数からして機械を壊されている可能性の方が大きい」
「それじゃあ。私達で固まって、退路の蜘蛛たちを倒して、道を切り拓きましょう」
「人数的には行けそうだが、私は補助型だ。私を連れては足で纏いにすぐなってしまうだろう」
「俺も戦い自体はそんな得意じゃねぇしな。そうだな…それじゃあ俺達が囮になる。お前たちは全力で逃げろ」
囮、か…度外視していたな。だが正直それは選びたくない。なぜなら、この囮は生きれないからだ。
「それは…」
「若いもんが年配を気にすんな。お前らには未来がまだあるんだからよ。それに死ぬ気で作戦を立てる奴は馬鹿だ!そんなのがどこにいる?このぐらいの死線、何度も通ってる。気にすんな」
「それ程歳はくってないだろうに。まぁ、そういうことだ。私達は生きる事を第一にする。君たちは逃げろ。こんな私でも足止め程度には役に立つ」
目を見るとそこには生気に満ち溢れ、今から戦いに勝ちにいく顔だ。
正直格好良いと思えてしまった。
「わかりました。徹、俺達にもそれ、やってくれ」
「…わかった」
渋々といった顔で、徹は俺達にも刻印型の力を使う。
「そういえば名前、言ってなかったな。俺は
「私は|岸《》
「俺は…」
「おっと、その先は生きて本部で聞くとしよう。迫って来たみたいだ。足音はかなり多いか…」
「急げ、退路は辛うじてあるだろう。君達なら間に合うだろう」
「はい!」
そうして、俺達は迫って来る蜘蛛を倒しながら、本部へ急いで向かう。
三人の初めての依頼は、それは酷い失敗で終わったのであった。
――――――――――
三人に早く逃げるよう、とやかくを言っていた二人だったが、敵の数が予想よりも多く、多少戦慄していた。
「岸って言ったか?」
「あぁ」
「正直、勝てる気がしねぇが…そっちの見込みはどうだ?」
「同意見だ。だが、私とお前の相性はいいだろうからな。もしかしたら勝てるだろう」
「よし、もしを本当に変えるぞ。いけるな?」
「あぁ」
「よし!行くぞ!!」
たまたま会った二人と、蜘蛛たちの戦いはこうして始まったのであった。
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