三話 帰路に
「さてと目的地までは後少しだけと、少し休憩しようか」
鬼は目の前で塵となって消え、妖里さんの手にしていた刀は砂となって落ちていった。
妖里さんの目は驚くほど普通で、さっきの様な化け物を倒し慣れている様に見えた。
「あ、あの妖里さんは何者何ですか?」
急に、日里士が訪ねた。
「ド直球だね…まぁ、いいや、僕は妖怪を倒す仕事をやっている者だよ!」
「よ、妖怪…」
「皆ご存知!妖怪だよ!」
「それじゃあここはどこなんですか?」
「う〜ん、ここは一応は亜空界って読んでるけど…」
「亜空…界…?」
「そっ!それで、僕達がいつも過ごしてる世界は通常界って呼ばれてるよ」
「あの、妖怪達ってここで暮らしているんですか?」
「いや〜どうなんだろうね?その辺は人によって様々な考え方をしているけど、最も有力な説によると、さらにもう一つ世界があって、そこに住んでいるていう説だよ」
「さらに…世界?」
「そうそう、そこは暗黒界って学者の人は読んでるよ」
「学者?」
「うん、妖怪を倒す仕事なのに肝心な妖怪の事を何も知らなくちゃね?」
「そう…ですね」
「それでね、これらって一般の方には隠匿されている情報何だよね…」
「「えっ?」」
「そして、そのことがバレたら政府に暗殺でもされかねない。そこで僕からの要求は、一つ。君たち…妖怪斬りの仕事…やってみないかい?」
色々と教えてくれる親切な人に思ったが、妖里さんの真意は強制的に妖怪斬りへとスカウトすることだったみたいだ。
「それは…随分と強引なスカウトですね…」
「そうだね、日里士君の言う通り、でもこの稼業はいつでも人手不足でね…」
そういう妖里さんは遠い目をしていた。きっと、死と隣り合わせの仕事だ。幾人もの死を見て来たんだろう、それだけでこの仕事の辛さを知った。
「うん、それで返事は?」
「それは後でもいいでしょうか?」
「う〜ん、よし。それじゃ落ち着いてからちゃんと聞いて、色々と話そう」
「その時はしっかりと聞かせてもらいますからね、妖里さん!」
俺ははっきりと言っておいた。
「はいはい、それじゃ休憩終わり!そして出発!」
そうしてその場所から動いて数十分、俺達は命の危機にさらされていた。
簡単に状況を説明しよう、まず目の前には白鬼がいる、幸い見つかっていない。次に、その白鬼がいる所を通らない限り帰れないそうで、迂回ルートもないらしい。
妖里さんも白鬼に単身で勝った事はなく、基本的には妖里さんと同じような実力を持つ人を二人で倒せるかも、という感じらしい。
そして妖里さんは「見つからずに行ければ吉、見つかれば凶か…いや…そもそも戦ったらまずいか」と小声で言っていた。基本、その場待機で物音を出さない様にとも言われていていた。
「あぁ…最近はツイテいない、少しは見つかると思って遠出したらこの様か…」
目の前にいる、白鬼が独り言を喋っている。
「眠いな…だが、敵地で寝るわけにはならんな」
どうやら俺達人間を倒すために、ここまでやって来たらしいが、一人も見つけていないらしい。俺達が見つかるのも時間の問題と思えた。
そんな中で妖里さんは、俺達に耳打ちをした。
「徹君、あいつが反対を向いたら急いで走り抜けてくれ」
「日里士君は、徹君が走ったら反対側を走り抜けて」
「柚香ちゃんは、ここで待機でお願いね?あの鬼は全力で倒す…」
それまで妖里さんの柔らかい様な声色が、一気に変わって鋭さが急激に増した。
今になって気が付いたが、妖里さんの腰には錆びついている剣を携えていた。そして左手には錆びついている剣を、もう片方は地面からはえ出た刀を持った。
俺は心を落ち着かせて、冷静に鬼を見ていた。
そんな準備をしているうちに鬼が反対側を見始めた。俺と日里士は走り出して、妖里さんは機会を窺っていた。
「いや、ツイテいたか二人も見つかるんだから」
見つかった。いつ殺されるかもわからない状況だったが、不思議と体は動く。なぜだろうか、それはわからないが、今は自分のやれることをやるだけだ。
「徹君!!避けろ!!」
さっきまで7m程は離れていたであろうが、今は目の前で拳を振るって、あともう少しで当たらうとしていた…
そこで俺は、無意識的に何かをしたのがわかった。
「まずは一人…」
妖里さんは急いで俺の方へと向かったが、それは間に合わずに、拳は俺の胸に、確実に当たっていた。そこから俺は近くの岩肌まで吹き飛ばされた。
たが俺は何故か、不思議と生きていた。理由はわからないが、生きているそれだけで俺は良かった。
「はぁ…はぁ…」
「おや、生きている?しっかりと振るった筈だが…まぁいい、次はお前だ」
そう言うと白鬼は、妖里さんに向かって攻撃を仕掛けた。これを妖里さんは避けて、刀で攻撃を仕掛けた。だがそんな攻撃も虚しく、刀は砕け散った。
「これじゃあ、駄目か…まぁ、そうだろうな」
「貴様は武の心得はあるようだが、力をしっかりと扱えていないな?」
「はは…それは師匠にも言われたね。でも、それだけじゃない、それが僕だよ」
そう言って、妖里さんは左手に持つ剣を相手に向けた途端に、光り始めた。
それは、先程までの錆びた剣ではなく、剣先まで綺麗に光り輝く剣となっていた。
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