【冬020】白虎は大気を血に染めて【残酷描写あり】
「さっむ!!!!」
走っている儂の背中で小娘が叫ぶ。
「我慢しろツキノミコ、
今いる北の島はとても寒い。小娘を鼓舞するように声を掛ける。
背中の毛を掴む力が強まったのを確認して、儂は走る速度を上げた。
―――
儂は虎だ。西の島の守り神
ある日突然、
北守は、守りこそ優れているものの軍勢を退けるほど強くなかった。北の島での北守の封印は夕刻、東の島への侵攻は翌朝のことだったという。東の島は、
自分の管轄である西の島に召喚された”ツキノミコ”を見つけ、”ツキノミコ”の力を借りて北の島にいる禍の軍を退け、北守を救出する――それが
無事”ツキノミコ”を見つけた儂は、雪のちらつく北の島を禍の軍に向かって駆けていた。
北守の巣の
背中で伏しているツキノミコに声を掛ける。
「ついたぞ」
背中で、体を起こしたツキノミコが山の裾を見下ろす気配がした。
「ああああの人たたた達がががそうなななの?」
寒いようで、歯をガチガチと鳴らしている。
「ああ。
「じゃあああああれが……」
テントは、大きな黒い岩を中心にぐるりと張られていた。
あの大岩が今の北守の情けない姿だ。
「そうだ、封印された北守だ。あやつめ、醜態を晒しおって……」
思わず歯嚙みする。
あんな姿を晒すくらいなら命を捨てた方がマシだ。
一言、小娘に告げる。
「
山を駆け下り、躊躇せず野営の中に飛び込んだ。
そして、
その咆哮に呼応するように、積もった雪の中から、正確には地面の中から尖った岩が無数に突き出す。
それは、一瞬の出来事だった。
目の前が、周りが、赤と白と黒の霧に覆われた。
冷たく、血生臭いそれが何か、ツキノミコがすぐに気が付いたようだった。
「あ、あああ、ああああああああ」
ツキノミコが驚愕したような声をあげる。
それは、血飛沫と雪と土だった。
儂の咆哮で突き出した無数の岩に串刺しされた人達の血飛沫と、岩が突き出した衝撃で舞い上げられた雪と土。それが霧の正体だった。
荷物もテントも全てが皆尖った岩の先に突き上げられていた。
「うわあ、ああ、あああああああああああああ」
擦れた声をあげるツキノミコを背に乗せたまま、北守の黒岩の前へ進む。
大地から生えた岩は儂等のために道を開け、動く度に肉片や物資がバラバラと落ちてきた。
「ニ……シノ……モリ…………こ、ここまでする必要……あった?」
ツキノミコが絞り出すような声で言う。
おおかた、酷い惨い気持ち悪いとでも思っているのだろう。
「ああ、ツキノミコの力を借りるのは初めてでな、こうまで強いとは思わなんだ」
「え……じ、じゃあ、これは、あたしの……せい……?」
ツキノミコが言葉を詰まらせる。
膝が、体が震える振動が伝わってきた。
「ツキノミコ?」
「あたしがこの人達を〇したの……?」
掠れるような弱弱しい声でツキノミコが呟く。
ああ、そうか。どうやら勘違いをしているらしい。
「いや、全ては幻覚だ。誰も死んではおらん」
「え……?」
幻覚は、幻覚と知れば、真実が目の前に現れる。
既に、無数の尖った岩も血飛沫もなかった。張られたテントの内外で兵士達が倒れている。雪が静かに降っていた。
「この者達はまだ、自分が死んでいるという幻覚の中におるようだがな」
「そっか、よかっ……たあ……」
黒岩の前で足を止める。
「ツキノミコよ、北守の封印を解いてくれ」
声を掛けると、ツキノミコは少し考えて儂の背から降りた。黒岩に近付き、そっと手を触れる。大岩はツキノミコの手が触れたところから金色に色を変え、ぐにゃりと一瞬歪んだかと思うとサラサラと崩れ落ちた。
中には北守こと大亀が
「よお、キタノ」
声を掛けると亀が申し訳なさそうに頭を伸ばした。
「手間をかけたな、ニシノ」
「それがまだ終わってないのだ。この倒れてる者共をどうにかせねばならん」
「これは……また面倒そうだな」
大亀が周りに目をやって嫌そうな顔をしたのを見て儂は少しだけ溜飲を下げた。
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