【冬003】冬の家より

今年も、冬の家の扉が閉まりました。

最後に見たときすでにうっすらと雪が積もっていましたし、降りかたは激しくなる一方でしたから、わたしが部屋に落ち着いた今となってはずいぶんな深さになっているかもしれません。


君の町ではどうでしょうか。

海辺はここより穏やかなのだと父から聞きますが、冬場に地中にこもって過ごさなければならないなら、ちょっとした差にすぎないのだろうと思います。

夏に君と話すときだって、気候の差はあまり感じません。

それともわたしの勝手な思い込みなのでしょうか。もしかしたら、似たような暮らしをしているって思いたいのかもしれません。


夏まで届くことのない手紙を書くのは、日記にすこし似ています。

君からの言葉がないと、わたしは自分のなかに潜ってゆくしかなくて、君に会うころにはたいてい、恥ずかしくてたまらなくなっています。


それでもわたしは君に会えば、この手紙を渡すのでしょう。

これだけじゃなくて、春までに書く手紙のすべてを。

冬のあいだのわたしを知ってほしい。会えないあいだも君のことを考えていたい。

なにより、夏は短すぎて、声だけでひと冬の言いたいことを伝えるのは無理だから。

君にもわたしにも仕事があることですし、あまりおしゃべりばかりしていると、もう会わせないぞ、なんて言われかねません。

君のいない隊商キャラバンなんて、お砂糖の入っていない焼き菓子みたいなものです。そんなの困ります。


だから、からだには気をつけてくださいね。

わたしも夏まで元気でいるようにがんばりますから。


雪と氷がわたしたちをへだてて、何があっても会いに行けなくて、ほんとうに、祈ることしかできない。

もどかしくて、寂しくて、嫌いだった冬がもっと嫌いになりました。

でもまっさらな紙の上に、憎たらしい雪と同じ白い紙に文字を並べているときだけは、うまく息ができる気がするんです。

君にどこかでつながっているのかな。

どんなに細い糸でもいい。つながっていてほしいって思います。夏に、わたしたちをまた引きよせてくれる糸があればって。


どうか春まで生きていて。

あとふたつ、この冬と、その次の冬をこえたら、わたしも大人として認められます。

そうしたら君と、君のうまれた、海のみえる町に行きたい。

君のおじいさまやおばあさまに会ってみたい。いつも話してくれる、ちっちゃな弟たち、妹たちにも。


わたしの手紙が、冬のあいだの君の力になれていたら嬉しいです。

去年に君がくれた指輪、おととしにくれた耳飾り、その前の髪留めみたいに。


では、また。

愛をこめて。

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