【秋028】かみさまとつきみ(ばーがーをたべる)

「ありがとうございました」


ハンバーガーショップのクルーに見送られる。

高校帰りの彼の手には大きな紙袋、中身はテイクアウトしたハンバーガー達にナゲット、パイの秋限定メニュー。

九月上旬。高校生である彼は学校を終えて、この市の中では大きいスーパーマーケットの側にあるハンバーガーショップに寄っていた。


「買い物の方、終わったの」


「終わりました。乗せてくれてありがとうございます」


「こっちも買い物があったからええって。それに世話になっとるから」


車に辿り着く。カートを引っ張ってきた近所のおばちゃんが、お祖母ちゃんと共に買い物から戻ってきた。

荷物を載せることを手伝い、彼は軽自動車の助手席に乗り込んだ。車が発信する。

彼が住んでいる市は、他の町から比べたらまだ店があるほうだが、田舎である。彼は田舎の地区に住んでいる。

彼は幼いころ、父親の田舎暮らしに付き添う形でこの市に、住んでいる地区にやってきた。過疎化が非常に進んでいる地区だ。

高校生なんて彼と数人ぐらいだし、まだいるだけいいだろうとかそんな状態である。地元の高校に通うかどうかでも変わってくるし、

高校に通うのもバスか大人の車がないと通えない。今日は幸いにもおばちゃんが高校に迎えに来てくれたのでかなりの距離を歩かずに済んだ。


「地区も活気が出とるから」


「父さんも無理はしないでほしいけど」


「社長さんとかやってるからね」


村おこしならぬ、地区起こし。

彼の父親は田舎暮らしを始めて、任命された。彼の一家は上手く地区に馴染めたとは思う。彼だって小学校のころからこの地区には住んでいるが、

田舎はよそ者には厳しいとか言うけれども、時と場合による。

地区起こしの方は幸いにも上手く言ってくれていて、家族でやっている古民家カフェの方も上手くいっている。


「本当に良かったです」


当たり障りのないことを返しておきながら、車は山の方へと向かっていく。開拓はされているとはいえ、彼の住んでいる地区は山間の

奥の方だ。隠れ家的古民家カフェとして家の一部をカフェに改装して彼の家は客を迎えている。

家の近くで降ろしてもらった。彼の家は細い、車がかろうじて一台通れるだけの坂、道を超えたところにあるのだ。

鞄やハンバーガーや乗せてくれたおばちゃんがくれたおすそわけの茄子ももって、彼は自宅へとたどり着く。

今日は古民家カフェの方は休みだ。弟妹達はまだ帰っていないし、母親も近所の集まりに出ている。

家には、一人のはずだった。


「おっかえりー」


「不法侵入」


「家に鍵がかかってるとでも?」


自室にいたのは少女だ。

外見十代後半で、狐耳をしている。

明るい茶色い髪をしている服も扱っているホームセンターのバーゲンセールで買った派手な柄の甚兵衛を着ていた。

”おきつねさま”である。

この地区にある山に祭られていたとされる、狐だ。真顔で言われて黙る。田舎の家は、たまに誰もいないのに鍵がかかっていない。


「買ってきたぞ。月見バーガー。ワンセット」


「やったー今年は種類が三種類になってパイも増えたしナゲットも」


「全部買ってきたから。どこで知ったんだよそんなこと」


”おきつねさま”は大喜びでハンバーガーの入った袋を受け取った。彼がおきつねさまと会ったのは、小学校四年生のころ、

山を父親に連れられて散策していたら祠を見つけて、中には古びた狐の石像が入っていて、そこに近所のお祖母ちゃんが作って食えた

揚げいなり寿司を添えたらやってきたのだ。初めて会った時は彼とそんなに姿が変わっていなかったのに成長したのか、同じぐらいになっている。

まつられていたけれども忘れられていたらしいが彼が揚げいなり寿しをくれたので復活できたらしい。


「この家のパソコンのインターネット。今年はこのハンバーガー屋のほかに定番の、お店も準備していたけれど、さらに新規で」」


出会ったあとで月見バーガーを買ってきてあげたら好んで食べていた。毎年買ってくるのは彼の役目になっていた。


「移動手段が皆無だから、買ってこられるのはこれだけだからな。父さんたちの移動によってはいけそうなのもあるが」


「私はこの地区から出られないからね。秋祭りも近いから栄養補給はしたかった」


定番の月見バーガーを”おきつねさま”は食べている。山に関しては”おきつねさま”の管轄らしいが、地区の管轄の神は違う。

宮様と呼ばれている神社だ。”おきつねさま”も毎年秋まつりをこっそり手伝っていた。復活してから世話になっているらしい。

月見バーガー商戦は今年はヒートアップしているが彼が買いやすい月見バーガーはここぐらいだ。近いところで隣の市は離れたところにある市だし、

店によっては隣県にしかなかったりする。


「獅子舞が待っている」


「山は獅子舞で海は天狗って。ディスコードで知り合ったかみさまが教えてくれた」


「だから近代的すぎる。風情を出せよ。風情」


地区の若いものとして獅子舞をやらなければならないことを思い出し彼は顔を暗くした。練習が待っているのだ。祭り、

それは一大イベントにして体力が減るご近所づきあいである。

”おきつねさま”は月見バーガーを食べることを止め、


「稲刈り。ススキ。彼岸花。豊作の祝い。月見バーガー」


「それが風情?」


「イノシシ」


「ほぼいつでもだし、狩りつつ名産品にしてるけどさ」


「人間は地区おこしを頑張っているよね」


「いろんな意味で生活が懸かっているからな」


どれもこれも地区にある秋だ。チーズの入った月見バーガーを彼は袋から取り出して食べる。

山と言えば獣でイノシシ退治をして加工して肉やら皮やら加工して売りさばいたりしている。放っておけば家畜は農作物や家やらあらす。


「私にとっての秋は秋祭りだね。獅子舞とお神輿、頑張って」


笑顔を向けながら月見バーガーを一つ、あっという間に食べてナゲットと限定ソースとさらにもう一つハンバーガーを取り出す。

機嫌よくふさふさの尾が揺れる。


「お前も手伝い頑張れよ」


「頑張るのでまた月見バーガーをよろしくお願いします。終わるまで」


「どれだけ食うんだよ」


全てのナゲットに限定ソースをつけて食べた”おきつねさま”に彼は呆れながら、バーガーを齧った。



【Fin】

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