【秋011】期間限定オレオ

 白塗りの鉄扉を押し開いた。


 甘みを帯びた幽香ユウコウが漂う。バニラの香りは柔らかくも、部外者を押し返す圧を放っていた。そのひとは化繊カセンの白衣の袖から生白い手を掲げ、戸口で躊躇タメラうわたしを手招きした。


「秋季限定、オレオ・スイートポテト味ですか」


 オレオ商品開発部からの呼び出し。

 それは新商品の開発に関する協力依頼だった。


「商品案を二種類作ったのだが、自分達では客観的な判断が難しい。

 第三者として意見を聞かせてもらえないだろうか」


 急な呼び出しでわずかに緊張していたが、それならば話は分かる。

 オレオ・スペシャリスト検定のエキスパート資格を保有し、個人的にもオレオ・アドヴァンスド・パートナー会員であるわたしに、そのような業務命令が来たのは自然なことだった。


「承知しました。それでは実際にサンプルを見せていただきましょう」


 なお、本作はPCではなくスマートフォンでの閲覧を推奨する。



◆第一案


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 ココアクッキーでサツマイモクリームを挟んだもの。

 味は良い。ココアのほろ苦さと芋の皮の渋みが、程よく舌を震わせる。


 ただ、クッキー生地はいつものココア味、黒いそれだった。

 通常、期間限定のフレーバーはクッキー生地の色を変えることで、その外見的個性を際立たせるのだけれど。

 これでは真上から見た時――通常のオレオと見分けがつかない。


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◆第二案


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 こちらはサツマイモ味のクッキーでバニラクリームを挟む。

 これも味は良い。芋の風味が広がった後、絹のように滑らかなバニラが舌を覆い、両者が渾然と溶け合う。


 ただ問題点が一つ。

 真上から見た時、とにかく色味が不気味なのだ。


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「味はどちらも素晴らしいものです。しかし問題は外見でしょう」

「そうだろう」


 オレオ商品開発部も、その問題点には気付いていたのだ。

 流石はオレオの最先端を行く精鋭。


 そんな彼らをしても。

 オレオの開発は一朝一夕にはゆかぬのか。


 わたしはオレオの奥深さを改めて実感し、開発部を後にした。


 台風が過ぎ、銀杏イチョウの葉すら散っている。


 今年の秋には、きっと。

 発売は間に合わないのだろう。

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