【夏029】真夏の大冒険~夏じゃなくても冒険はする羽目になる~

「おー、元気かー? 俺は今謎の村に来ていて謎の儀式に巻き込まれそうになっているので、可能ならば助け」


「きるぞ」


「助けてください」


夜、エアコンの利いた客間で休んでいた彼は休みの気分を壊してくる声を聴いた。

大学の夏休みを過ごしている彼は本家に来ていた。彼の家はとある占いを主に生業としているとされている家の分家であり、

夏には一回顔を出しておいてほしいと言われたので出しに来たのだ。

現当主が出るのが嫌なら出なくてもいいけど、よかったら来てほしい。お中元を大量に貰っているからと言ってきたからである。

現当主は軽い。先代の当主を事情があったとは言え精神的に追い詰めて当主の座を取っただけのことはある。

一人暮らしをしている彼にとってお中元というのは重要だ。食料ならば確保しておきたいところだ。

彼の多機能情報端末に固定電話から電話がかかってきていて、出てみたら大学の同級生だった、友人の男は懇願してくる。

夜に電話をかけてきた。六割がたの確率でろくでもないこと絡みだろうなとなっていたが案の定そうであった。


「どこからかけてるんだ」


「コンビニのバイト先で出会った同期の女の子に連れてこられた村にある家。窓が開いているので侵入した。

固定電話があるって珍しくない?」


「珍しいがあるところにはある。スマホは」


「寝床。夜中に目が覚めて出たら、さっきも言ったように謎の儀式……どう見ても人が入っていそうなずた袋を引きずっている村人に

キャンプファイヤーとかしてて。この村おかしいんだ。自給自足で生活しているとか触れまわっているのに畑がほぼボロボロ」


友人は彼の多機能情報端末の番号を覚えているのだが、覚えておかなければ非常事態の時に連絡が取れなくなるから覚えているのである。

固定電話で上手くかけていなければどうなっていたかとなるが、友人の方は嘘は言っていない。この友人、トラブルに巻き込まれやすいのだ。


「お前がいる場所の手がかりは」


「助けに来てくれるのか」


「手掛かり」


「ちゃんと覚えているぜ。村人に見つからないように伝えるな」


付き合いは中学生のころからである。トラブルの解決もよくやってきた。ので、仕方がないので助けることにする。

住所やらなんやらを聞いておく。友人も友人で、生き延びる方法については熟知していた。熟知するしかなかった。聞きながら記憶していると

ガタガタという音がした。


「生きてるか」


「何とか生き延びる……どうしてこんなことに」


「誘いに乗るからだろう。馬鹿」


「楽しめると想うからとか言われたから」


「生き延びるのを楽しめ」


「きるぞ」


電話が終わる。

ここで一泊する予定だった。一泊して次の日は、買い物に出る予定だったのに。彼が仕方がなく準備をしようとしていると


「お盆玉ください!」


「どこで覚えた」


「百円ショップ」


浴衣姿の小学生ぐらいの少女が部屋に訪ねてくる。現当主の娘だ。お盆玉というのは最近聞くようになったお年玉のお盆バージョンだ。

帰郷した孫に祖父母があげるならまだしも、分家の者に貰うのはどうかとなるのだが彼女からすれば彼はよく遊んでくれるお兄ちゃんだ。


「悪いが友人が謎の村で謎の儀式に巻き込まれそうなので救援に行かないといけないので無理だ」


「友人さんって、お父さんとお母さんに話してた夜に公衆電話から電話をかけてきて何だと想って出たら生霊の生首に狙われているけど助けてくれって言った人?」


「そうだ。お前の母さんなら空手だっただろうが」


夏休みの序盤だっただろうか。

フリーゲームをやっていたら夜中に電話をかけてきてそんなことを言っていた。追い払った。彼が霊関係のことに対処が出来たので何とかなった。

分家の者だがやれた。


「拳イズパワーでお父さんといろんなことを解決するのに役に立ったって。――いってらっしゃい。またお話聞かせてね。お父さんたちには言っておくから」


「もし、何かあったら」


「その時に何とかするー」


荷物をまとめる。お中元は少しだけ持っていくことにして、本家の駐車場に停めてあるバイクを使おうとして、考える。


「……バイクより、車の方がいいか」




「救援に来てくれたのか!!」


「来てやったぞ。馬鹿」


彼は本家からジープを借りて、運転をして謎の村に突っ込んだ。調べたら村の位置は分かった。

謎の村、教祖らしき男が村人らしい三十代の男二人に簀巻きにしていた友人を殺させようとしていたが、間一髪間に合った。

ジープはちなみに彼でも運転ができるものだ。二十人は似たような白い服を着ている。


「この村。電気代が高いと想っていたら麻薬を水耕栽培していたぜ」


「今年の電気代は去年よりも高いんだがな」


「お前は一体……」


「つっこむ前に警察よんだから。警察が来るからな」


連絡が来なかった。そろそろ夜明けだ。夏の朝は早い。ジープから降りると彼は簀巻きになっている友人を助けた。

他にも二人が簀巻きになっている。村長が怯えているがそれよりも彼は簀巻きが気になった。


「巻き込まれた人質だ。で、あれが御神体」


「……おい。御神体はホンモノだぞ。何処から持ってきたんだ」


「なんか村長が適当に手に入れたものだと。麻薬とどっちが危険だ」


「どっちもだ」


御神体と呼ばれているのは南の島の何処かの民族が作り上げていそうな木彫りの置き物だ。目がらんらんと輝いている。

彼の眼には木彫りの置物から黒い靄が出ていて化け物が出てきているのが見える。

襲ってきた村人を彼は裏拳で殴って昏倒させていた。


「本家の当主の奥さん直伝の拳」


「お前も連れて行くから、今日の冒険を聴かせろよ。お中元、分けてやるから」


「分けるってことは大量にあるわけね。オレたちの夏休みはこれからだ……」


「……終盤までお前のトラブルを解決するのは嫌なので今回限りにしていいか?」


「嫌です。助けてください。お願いします。買い物に付き合うので」


夏休みはまだまだ続く。それまでどれぐらい友人のトラブルを解決しないといけないだろうかとなりながらも、彼は目の前に集中する。

人間も怖いがオカルトも怖い。両方に対処ができる自分と巻き込まれやすい友人。

彼等の冒険は、戦いは、嫌でも続く。



【Fin】

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