【夏015】緋色の空
突然だが俺は異世界転生を経験している。
部活で水を飲むのを忘れた結果、脱水症状でそのまま死んでしまった。
死んで、目が覚めた時には驚いた。
映画やアニメでしか見た事がないようなアラビアンな景色が目の前に広がっていたからだ。
詳しくはないが砂漠のオアシスって感じか。
建築物も石造りでいかにもアラビアンって様相だった。
外見についてはそのままで年齢も多分そのままな上、服装も死んだ時の野球部のユニフォームのままだった。
異世界転生って言うよりは異世界転移なのかもしれないが、その辺の判断は何ともしづらいから保留としておこう。
残念ながらありがちなチート能力を身に着けてはいないようだったが、その点については問題無かった。
この異世界の住人には何故か日本語が通じるし、褐色の美形ばかりだったし、敵意がないどころか優しいくらいだったからだ。
そして、何より嬉しかったのが文化レベルと身体能力が現代日本よりかなり下だった事だった。
現地住人のフェルベキナ(褐色ロリ)は俺が椅子の概念を教えてあげると心から感心してくれたし、シュワゲリナ(褐色お姉さん)は俺がこの世界の石(何か軽い)を運んであげると喜んでくれた。
フズリナ(褐色巨乳)は珍しい人種の俺に関心を示してくれて優しかったし、ヤベイナ(褐色イケメン)も俺を差別したりはしなかった。
砂漠に出るとモンスターみたいに大きな動物が居たが、弱くてすごく倒せたから食糧には困らなかった。
サソリみたいなモンスターが蟹みたいな味で助かった。俺は蟹が好物だからいくら食べても飽きないくらいだ。
モンスターを倒すと現地住人も喜んで讃えてくれるしまさにパラダイスだ。
現代日本の冴えない中高生の誰もが望む異世界生活を俺は手に入れたのだ!
……それで終わればどれほど良かっただろう。
この異世界は確かにパラダイスだ。
モンスターは弱いし女の子は可愛いし現地住人たちも優しくて俺を褒め称えてくれる。
若気の至りで誘惑されてフズリナ(褐色巨乳)とエッチな事を体験したりもした。夢のようだった。
だけど、それでフズリナとエッチな事を経験した後で気付いたんだ。
この世界の現地住人、全然風呂に入らないなって。
いや、風呂は世界的に見ても珍しい文化らしいから無いのは仕方がない。
もっと根本的に水浴びすらしないのだ、この世界の現地住人は。
そう言えば俺がオアシスで水浴びすると、珍しく奇異の目で見られた事があった。
それをフェルベキナ(褐色ロリ)に訊ねると、水を浴びると病気になる事が多いって言っていたっけ。
嫌な予感がした。いや、見ないふりをしていた。
分かってたんだ。シュワゲリナ(褐色お姉さん)は美人だけれど何か肌が汚い事に。
そう、この異世界の住人は圧倒的に衛生観念に無関心なのだ。
いや、違うか?
現代日本人の俺が清潔過ぎるのか?
エッチな事が終わった後、身体を拭きもせずに眠るフズリナ(褐色巨乳)の方が多数派なんじゃないか?
それはこの異世界に限った話じゃない。俺の世界の方でも多数派なんじゃないだろうか?
気にし始めるとありとあらゆるものの衛生が気になり出した。
食事に使った皿は葉っぱで拭くだけ。
水浴びは珍しく雨が降った時にだけ。
トイレは水洗どころか風洗式。
虫のたかった肉を手で払っただけで食べる。
石の中に貯めただけの雨水が飲料水。
どれだけ讃えられようとハーレムを作れようとこんな生活を長く続けられるはずがない。
しかも現地住人は俺の衛生観念に対する言葉にだけは聞き入れてくれなかった。
現地住人にとってはこの衛生観念が当たり前で、俺の言っている事の方が手間が掛かるだけの世迷い事なのだ。
それよりも気になるのはこの気候だった。
オアシス近くの砂漠なんだ。ただでさえ昼暑く夜寒い。
今は何とか耐えられているが、これから少しでも季節に変動されてしまったらこちらの身がもたない。
不安を口にする俺にフェルベキナ(褐色ロリ)は笑って答えてくれた。
大丈夫、今は夏だよ、って。
そうか、夏ならこれから涼しくなるだけか。
安心しかけた俺にフェルベキナ(褐色ロリ)はとどめを刺してくれた。
もうちょっとしたらもっと熱い超夏が始まるよ。
何だよ、超夏って……。
衛生観念に乏しい世界でこれ以上の熱波を体験する……。
死ぬかもしれんな……。
そう思いながら、俺は朝焼けの緋色に染まる砂漠の地平線を見つめるのだった。
今日も暑くなりそうだ。
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