【春008】短編や 欠けたオレオと 削る文字

「ちょっと、先輩。LINE見ましたけど、何ですか、あの句は」

「何よ、部室に来るなりご挨拶ね。学園一の美貌を誇るこのあたしと言葉を交わせることをまず喜びなさいよ」

「はいはい、セリフだけで状況とキャラ設定を読者に伝える板野流無人称小説術の実践はいいですから」

「えっ? この後輩君、セリフとか読者とかいきなり何言ってるのかしら。普通に怖いんだけど……」

「いや、こっちが『えっ』ですよ。メタ発言抜きでこの短編やり切るつもりなんですか?」

「あぁ、可哀想に。あたしみたいな美少女と毎日顔を合わせすぎて、とうとう現実と創作の区別が付かなくなっちゃったのね」

「どっちかっていうと妄想の中に生きてるのは先輩のほうですけどね。で、この句なんですけど」



 削 欠 短

 る け 編

 文 た や

 字 オ

   レ

   オ

   と



「いいでしょ、短編小説の生みの苦しみに、欠けたオレオの情景を織り込んだ自信作よ。今度の句会は優勝間違いなしだわ」

「どうですかね。見た目で下駄履かせてもらえない環境にコレを放り込むのは、なかなか無謀かと」

「何よ、随分と辛辣じゃない。○井先生ばりの講釈を垂れようって言うんじゃないでしょうね」

「ヘッヘッヘ、夏○先生にお出まし頂くまでもありません、ここはわたくしめが」

「それ勇者に一撃で倒されるやつじゃないの」

「『屍やフラグを連ね春の風』」

「息をするように『ここで一句』詠まなくていいから。それで、あたしの句の何が問題だっていうのよ」

「何がも何も、季語が入ってないじゃないですか。今更こんなミス、自称才色兼備が泣きますよ」

「何言ってるのよ。オレオは春の季語でしょ」

「はい?」

「いや、別に聴こえなかった訳じゃないんで、傍点付きで言い直してもらわなくても大丈夫です」

「えっ、傍点とか何言ってるのかしら……怖いわ……」

「メタネタキャンセル芸ももういいですって。で、何ですか、オレオが春の季語?」

「厳密には、いずれ季語になる、とでも言うべきかしら」

「そんな『そして父になる』みたいな調子で言われても」

「だって、バレンタインは春の季語でしょ」

「はあ、2月14日は暦の上では早春ですからね」

「そこから転じて、チョコレートもいずれ春の季語になるんじゃないかと言われてるのよ」

「……それで?」

「察しが悪いわね。三段論法でオレオもそのうち春の季語になるはずだってことよ」

「いや、察してはいたんです。察してはいたんですよ。ただ、どう突っ込むか考えてただけで」

「きっと22世紀の歳時記には、オレオも立派に春の季語として載ってるはずだわ」

「百歩譲ってそうだとして、猫型ロボットの世紀まであと78年あるんですが」

「意外と近いわね、猫型ロボット……。ちなみに『猫の恋』も春の季語なのよね」

「はあ、よく知ってますね」

「後輩男子のサカリぶりを猫の発情期にたとえて一句詠もうとしたとき調べたのよ」

「僕がいつサカったんです?」

「あたしが義理チョコあげただけで変な声出して喜んでたじゃない」

「毒殺の危険に怯えてたんですよ。ていうか、千歩譲って春の季語のつもりだとして、なんでオレオなんですか」

「だって……」

「?」

「……オレオは散る花、徒桜あだざくらだもの」

「いや、そんなわざとらしく窓際に立って謎の見返りキメて『ミステリアス美少女がちょっと影のある謎発言で主人公をドキッとさせた感』出しても騙されないですから」

「何よ、素直にラノベの世界に入ってなさいよ。好きでしょ、そういうの」

「万歩譲ってシチュエーションが良かったとして、言ってることが意味不明なんで」

「オレオ徒桜あだざくら説の何が意味不明なのよ」

「初めて聞きましたよ、そんな説。食べたら無くなるから、とか言うんじゃないでしょうね」

「そんなのお菓子類全般がそうじゃない」

「だから、それじゃおかしいって話をしてるんですよ」

「えっ……そんな、今日日きょうび小学生でも言わないような低次元のダジャレを……。これに笑ってあげるのが先輩の務めだというの……?」

「いや、お菓子だけにおかしいとか掛けてませんから! それで何ですか、オレオが徒桜って」

「知らないの? オレオが持つ第二の意味は、カクヨムユーザーにしか通じないことを……」

「今じゃなまオレオを見たことあるカクヨムユーザーもあんまり居ないと思いますけどね」

「つまり、オレオネタはカクヨムの内輪でしか存在を許されない。同様に、この匿名コンのダミー作品も、最後は正規の順位を付けられることなく消えていく……同じ徒桜なのよ」

「徒桜って言いたいだけですよね?」

「……同じ徒桜なのよ」

「艶やかなロングの黒髪をかき上げて微笑とともに口にしても同じですから。ていうか先輩、さっきからメタ発言を否定してたくせに、急にオレオだの匿名コンだの言い出して方針ブレブレじゃないですか」

「あら、あたしはただ、カクヨムのオレオと匿名コンの話をしているだけよ。あたし達がダミー作品の作中人物だなんて言ってないわ」

「まあ、ダミーと見せかけて正規応募作かもしれませんしね」

「ともあれ、週末の句会が楽しみだわ」

「いや、こんな句のままで出させませんよ!? 結局何から何まで意味不明ですし」

「だから、徒花あだばなとなる匿名コンのダミー作品を頑張って書いている様子に、オレオの儚さを重ねてるんじゃない」

「それ、カクヨムの内輪でしか通じないネタだって自分で言ってたじゃないですか。まして匿名コンのダミー作品の話なんて板野周りのせいぜい数十人にしか通じませんよ」

「まあ、いいんじゃないの、この作品を目にするのはその数十人だけなんだし」

「とうとうメタネタを肯定した!?」

「『メタネタに笑む横顔に春の風』」

「……なんかそっちの方がよっぽどマシな句ですね」

「でも、ダメだわ。これじゃ季重なりだもの」

「え?」

「だってメタネタは夏の季語でしょ?」

「……なんでやねん、もうええわ、ありがとうございましたー。でいいんですか?」

「いつから漫才やってたのよ」



 春 部 オ

 吹 室 チ

 雪 の の

   窓 無

   に き


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る