【春011】Spring fever
いよいよ待ちに待った春の日がやってきた。
何だか雲一つない青空もちょうどよく満開の桜も私たちの未来を祝福してくれてるみたい。
これで誰に何の遠慮もする事もなく、先生と過ごせるようになるんだもんね。
んふふ、すっごく嬉しい。
すっごく嬉しい……んだけど、今になって振り返るとちょっと腹立たしくもある。
大体さあ、私が誰と会って何をしようと個人の勝手じゃない?
今の時代に合ってないと思うんだよね、そういう偏見に満ちた思い込みって。
他人に迷惑さえ掛けなければ、誰が誰と何をしようと自由でしょ?
そういうの分かってくれないんだよね、歳だけ取ってるおじさんおばさんたちって。
頭ばっかり固くて今まで何をして生きてきたのって感じ。
もっとさあ、大局的に物事を見てほしいよね。
そのせいで私と先生は学校の外で会う事も滅多にできなかったんだから。
今までの損失を利子付けて返してほしいよね、本気で。
でも、まあ、いいか。
私と先生はこれまで昔の人が作った余計な法律のせいで縛られちゃってたけど、新しく議員になったどこかの政治家さんが私たちみたいに困ってる国民のために法律を変えてくれたんだもんね。
この春から余計な法律が改正されたおかげで、私と先生は誰の目も気にせずに会えるってわけ。
んー、自分の生活を良い方向に変えるためにはやっぱり選挙だね。
と言っても私はまだ選挙に行ける年齢じゃないけど、選挙権を貰ったらちゃんとその政治家さんに投票しようって思うよ。
自分の未来のために清き一票! ってね。
んふふ、私ってちょっと意識高くない?
私は心臓がドキドキするのを抑えられずに、思わず小走りになってしまう。
今となっては先生と会えなかった時間だって、この日のために必要だったんじゃないかと思えてくる。
ずっとお預けされてたんだもん。
先生なんか絶対今にも爆発しちゃいそうなくらいな感じだと思うな。
もちろん嫌なわけじゃないけどね、私だって期待で胸がいっぱいでキュンキュンしてるもん。
先生がずっと我慢してくれてた分、私も思いっ切り甘えてあげよう。
同級生の恋人同士みたいに最高に甘々なカップルになってあげるんだ。
そのお返しに先生はどんなご褒美をくれるかな?
んふふ、楽しみ。すっごく楽しみ。
先生のために思い切りお洒落してあげたんだもんね、いっぱいご褒美をくれると嬉しいな。
まあ、焦る必要なんてないけどね。
私と先生はこれから何度だって合法的に会えるんだから。
「先生!」
校門で待ってくれていた先生を見つけた私は、心からの笑顔を浮かべて駆け寄っていく。
待ち合わせ場所を先月まで通っていた校門に指定したのは他でもない私。
だって法律や校則に縛られてた私と先生の門出の場所が、母校の校門なんてロマンティックじゃない?
それにしても先月まで通ってたなんて思えないくらい、この校門が懐かしい気がする。
先生と合法的に会えるのが楽しみでずっと色んな準備をしてたからかもしれないね。
私だって自分が先月まで中学生だったなんて信じられないくらいだもん。
「じゃあ行こうよ、先生。今日はどこに連れて行ってくれるの? いきなりホテルなんてムードのないデートコースはノーグッドだよ?」
私が小悪魔チックに笑ってあげると、先生は照れ笑いを浮かべて軽く頭をかいた。
その様子が微笑ましくて、私は率直に思っちゃった。
やっぱり童貞ってちょろいな。
ううん、悪くない。全然悪くないよ。
先生が私の担任だった頃から、私はちょっと太めで童貞丸出しの先生の事が嫌いじゃなかった。
人が良くて、自分に自信がなくて、それでも優しくて、そんな先生に優しくしてあげたかった。
でも、法律や校則は私のそんな思いを許してくれなかったし、厳しい規則を破れるほど私はそこまで大胆でもない。
だから、この春からの法律改正は本当に嬉しかったんだよね。
十五歳以上のセックスワーク合法化
ネットだと労働人口の減少やセックスワーカーの権利の向上のためだの何だの書いてあったけど、そういう難しい話は別にどうでもいい。
私は先生の事が好きだけど、彼氏と彼女として付き合いたいわけじゃない。
童貞の先生に自信を持たせるためにセックスはしてあげたいけど、無償でしてあげるほど私はお人好しじゃない。
だからこそ、これでよかったんだと思うんだ。
お金で春を売る事で繋がってられる関係だってあるんだよね。
詳しくは知らないけど昔あった遊郭もそういう感じの施設だったんでしょ?
だったら、ついこの前まであった青少年保護とか何とかの法律の方がおかしいって事にならない?
人と人の関係は自由であるべきじゃない?
……なんてね。
本当はお金が欲しいだけでもあるのは否定しないけどね、んふふ。
セックスは嫌いじゃないし、お金はいくらあっても困らないもんね。
そもそも仕事って嫌で大変で厳しいものでしょ?
十五歳になったばかりの私だってそれくらいは分かるよ。
だったら自分の特技と趣味を生かして稼いだっていいじゃない。
先生は童貞を捨てられるし、私はお金を貯められるし、いい事しかないじゃない。
法律がそれを認めてるんだもん、んふふ。
「とにかく行こうよ、先生っ」
私は先生の手を引いて、桜の下を歩き出していく。
何となく周りを見てみると、私と同じ事を考えてるっぽい女の子たちの姿があった。
そうして私と先生は、いっぱいの春に包まれて、いっぱいの桜の花に包まれて、爽やかな春満開を感じたんだ。
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