第24話 ここでも夫婦に間違われる
カゴ台車を押しながら、野菜コーナーで白菜を吟味しているところに二人が何食わぬ顔でやってきた。さっきまで本気で口喧嘩をしていたよっ子と龍也だが、さりげなくよっ子の肩を押して台車の取っ手を握った。
「俺!鍋には欠かせないものがあるんす」
台車に乗りかかるように前のめりで言う。
「なに?」
「マロニーは絶対入れてください」
「うん。マロニーは絶対入れるから大丈夫よ。先輩はなにを入れて欲しいですか」
「よっ子の愛情で充分さ」
二人は真顔で一輝を見やると。
「キモ!」と声がはもった。一輝はフッと鼻で笑った。
「兄貴、それはちょっとやばいっす」
「そうか、いいと思ったんだけどな。俺は肉が入ってればそれで良しだ!」
「だったら、すき焼きにしますか」
よっ子が一輝の顔を見上げていると、
「いいねえ〜今夜はすき焼きだってさ。若い夫婦は肉食って頑張らなきゃね」
見知らぬおばさんが通り過ぎ様に言った。
「どうしたんすか今日は、夫婦の日かなんかすか?間違えられてばっか、俺には全然夫婦に見えないんすけど、肉食って、なに頑張るんすか?SEXの事っすか、最近のおばはんは節操がねえな」
「おばはんだから節操なんて関係ねえんだよ。おばはんになったら、皆あんなもん」
「じゃあなに?よっ子もおばはんになったらあんな風になるんすか」
「なりません!先輩、すき焼きだとすき焼き用の鍋がないんですよね。買い物が終わったら、ホームセンターに寄ってくれます?すき焼き用の鍋買いたいので」
「おお、こっちの鍋は何味にするんだ」
「ひとつ、すき焼きなら、あっさり味の方がいいと思うんですけど」
「任せる」
よっ子は白菜、椎茸、人参、えのきだけ、豆腐、マロニー、糸蒟蒻、鶏肉をカゴに入れた龍也は500mlの缶ビールといろんな味の酎ハイを10本カゴに入れて持って来ると台車の下に入れて台車を押す。
「先輩、肉どれにしますか、私、すき焼きって食べた事なくて、なにを買ったらいいのかよくわからなくて」
「すき焼きの肉だろ」
「だから、どの肉?」
「すき焼きは牛肉だよ。新婚なのかい、いいね〜若いって、すき焼きはね。牛もも肉と白菜と春菊、それに白ネギ、焼き豆腐だね。あと卵、この牛脂も持っておいき、これ、ただだから、鍋もするんだね。だったらこんなもんだろ、じゃあね」
「さっきのおばはんだ。お節介なおばはんだなあ。まあ、ああいう人もなんだかんだおもろいけどね。兄貴」
「あの、おばはんどこかで見たことあるな」
「俺も会ったことあるんすか?覚えないんすけど」
「集金に行く店のママとかってことですか」
一輝は思い出そうとしているけれど、どこで会ったか思い出せず、そのうちレジの列に並んだ。
「龍也」
「なに?よっ子」
「おつまみとか、買わなくていいの?鍋の後とか食べたくならないの?マンションの近くにコンビニなんてないわよ」
「兄貴、菓子買いますか?」
「菓子食うの、お前だろ」
龍也はポテトチップスやキャラメルコーンやらお菓子を五袋ほどカゴに入れた。よっ子も、きのこの山とたけのこの里の大袋を入れて財布を出した。
「よっ子、俺が払うぞ」
「大丈夫です。ここカード持ってるんです。このカードに現金入ってるの、ポイントもつくし、ここは私が出します。すき焼きの鍋は」
「俺!買います。そのかわり、ちょくちょく鍋しましょうね。俺の食生活最悪だから」
「そう思うなら自炊すればいいでしょ」
「めんどくせぇもん」
龍也も一輝とよく似ていてすぐに面倒だと口にする。レジを済ませ袋に詰めていると。
「頑張って、お姉ちゃん」
さっきのおばさんが声をかけて手を振って店を出て行った。
「よっ子の事知ってんじゃねえ、なんだかそんな気がする。よっ子は本当に知らねえの」
「うん、知らない人、先輩、思い出せましたか」
「全然、思い出せねえ」
よっ子の頭を微かによぎったのは、幸二が娘になる子と写メを見せて歩いた時それを見た人かも知れないと思ったら、恥ずかしくて
言い出せない。買い物袋に買ったものを詰め込んで一輝と龍也が袋を持った。
三人並んで店を出て車に乗り込むとホームセンターに向かって車を走らせた。
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