18 紅茶の味は

ポチポチと表示を弄り増えたスキルを見やすく調整。


人間・男 Lv14/侍祭 Lv14


戦闘スキル

『槍Lv9』『斧Lv5』『メイスLv4』『棒Lv4』

『打撃Lv8』『蹴りLv4』

『ハイドアタックLv3』


補助スキル

『腕力強化Lv9』『脚力強化Lv7』『身体強化Lv4』

『視覚強化Lv4』『聴覚強化Lv4』『触覚強化Lv4』『感覚強化Lv7』

『精密動作Lv3』『把持lv4』『跳躍Lv2』『軽業Lv2』『登攀Lv2』

『潜伏Lv3』『気配察知Lv1』

『二刀流Lv5』


汎用スキル

『浄化Lv4』

『マッピングLv9』

『看破Lv6』『識別Lv6』

『暗視Lv5』


魔法

『火魔法Lv6』『水魔法Lv6』『風魔法Lv6』『闇魔法Lv6』

『木魔法Lv1』


ボス4連戦、いや個人的には5戦か。

レベルの上昇速度だが一気に鈍化した。


まとまった経験値が入るであろうボス戦を5回行って未だLv14。


「同種とか周回は取得経験値にマイナス補正か?」


無くはないと思う。ボス次第では高速で回すほうが雑魚狩りより早くなるだろうからね。


「スキル増やしすぎ?」


確実に影響はあると思う。

このゲームってスキル次第で持ってないとひたすらやり難かったり。

だからこそ必要経験値量でバランス取ってるかも。


そういや暗視取得者って増えたのかな?増えてたらいいな。

だってさ今のままだと一人だけ一日中経験値稼げるからね。


それに今回大勢で周回とかしてみたけどやっぱり結構楽しかったりして。

だから夜とかに数人でちょっとお出かけとかしてみたいわけですよ。


一人でやるのはそれはそれで楽しい、誰に気を遣うまでもなく気ままに自由に。

何したって良いわけだしね、開放感?ちょっと違うか。


「ヤギリさん、お疲れさまでした。おかげさまで無事生産職の方も多少なりとも次のマップへ送ることができました。改めてありがとうございます」


ニコニコと笑みを絶やさない人当たりの良さ全一とでもいう会長に声をかけられれば、開かれたウィンドウを提示される。

何かと覗き込めば映るのは再生され始めた動画。


あ、これさっきレイズが出せ出せ言って渡したやつか。


見覚えのあるチェーンソーを振り回す巨漢。

遡り再生って三人称視点なるんだ、初めて知った。


「この後お時間がよろしければお茶でも如何ですか?」


目の前から圧力を感じる、何もされていないのに逃げられない気がする。

情報出せやって思念派を感じる、電波を受信しています。この人に限っては受信してくれるかと心配するなんて無縁ですわね?宇宙人かよ。


「んじゃまぁ、ご一緒させてもらいます。丁度話したいこともあったんでね。いい機会です」


心にもない?滅相もない、一回話してみたかったのは本当だし。

E1情報ゲロるついでに色々聞いたり世間話でもしたいね、自分と違う思考パターンの人と話すと面白い、無かった発想が生まれる快感というのか、視野が広がる?ずれてる気がするけどそういうことで。











カラランと軽やかな音が扉の開閉に合わせて静かな店内に響く。


聖教都の大通りから裏へ二つほど入った先、広めの庭に植えられた大きな樹が目を引く静かな店。

会長に連れられてやって来たここは他に客もなく、時間が切り離されゆっくると流れているかのように感じる不思議な空間だった。


オススメということで会長と同じものを注文した。

心地よい香りを漂わせ注がれる紅茶は美しい色合いでもって目を楽しませる。


ただ一つだけ問題がある。別にこのマスターにも紅茶にも店にも不備はないし目の前の会長にも問題はない。自分の問題なだけで。


別に紅茶が好きじゃない。さらに言うと飲んでもさっぱり分からん、何もわからん。

匂いがするのは分かるが味の違いも分からないし良し悪しなんてもっとわからん。

戦車なアニメで出てた名前くらいしか種類も知らない。


あと珈琲も苦いかマシか位しかわからん、

興味がないとそんなもんだよね。


それでも鼻をくすぐる香りは複雑で、自分でもよくわからない言語化できない感覚をもって紅茶であることを主張しているし味覚もそうだ。

唇に触れる液体の確かな熱量も感じるし正直リアルとの違いが分らない。


「どうです?お気に召しましたか?」

「正直、あんまりわからないですね?好き嫌いとかじゃなくて興味がないというか。紅茶を楽しむ土台がないって感じで」

「ははは、その辺は好みですよね。好き嫌いは表裏一体ではなくて無関心を含めた三つ巴です。所謂どうでもいい、知る気もないってやつです」

「ですねえ、あぁでも香りとか下に残る後味?とかすごいです。ここまで再現度が高くなるともうリアルとの違いなんて分からないんじゃないかな」


リアリティがあるではなくてリアルである、ただただ本物に限りなく近い、本物との差異が分からない。

飲食に限った話ではなく、景観も、街の音も、行き交う人も、モンスターも全てが。


幾らVRで直接電気信号のやり取りによって世界を投影しているといってもばかにならない容量になってそうで。

それとも認識の外は違和感を覚えない程度にグレードが落ちてるのかな、認識されるまでそれは存在しないかもしれない。

シュレディンガーの描写、なんちゃって。


「そうですね、フルダイブに五感をそのまま持ち込んだそう言ってもいいくらいです。電子空間に存在する世界に五感を持ち込んで感受している。その表現もいいかもしれません」

「五感がそのままならもう仮想も現実も区別なんて出来ませんね、知覚しているものが何であれ」

「そこです、ヤギリさん。全てが現実と同じ知覚によって成り立つならこの世界での死はどうなると思いますか」


何か踏んだな、会長の纏う雰囲気が明確に切り替わった。


この人はこの世界からの脱出を明確に目標として掲げ行動している。必要だからと組織を作りプレイヤー全体の流れをクリア=脱出へと誘導させるが如く。


そんな人が何かを話したがっている。

五感と死と認識。現実と仮想の境界線。


hm…


「例えばですけど、昔何かで読んだ覚えがあるんですよ。人間をベッドに縛り付けて『人は三分の一血液を失ったら死ぬ』と聞かせたうえで皮膚に触れさせながら桶にポタポタと水滴を落とし錯覚させる。すると被験者は自分の血だと思い込んで死んでしまうんです。かなり端折ってますけどね。他にも癌告知で癌だと思い込んで癌じゃないのに死んだ人とか」


何となく方向性は掴めているんだが上手く言葉がまとまらない。

でもまぁ聞いてくれるみたいだし続けて全部話してしまうか。独り言と一緒だ、考えがまとまるかもしれないし。


「よく言うプラシーボ効果の反対でノーシーボ効果だったかな?とにかくそういう話を目にしたことがあります。真偽は不明何で参考程度に。でも強い思い込みは実際に体にフィードバックされてしまうことがあります。なら五感全てに違和感がなく知覚にズレもない、そんな観測器としての私たちは現実と仮想の違いが分らない。あくまでもゲームとして始めたから意識の片隅に認識が残ってる」


朝起きてこの世界にいたら?頼りになる自分の感覚に違和感はない。ならば何をもって現実を定義する。


法則と仕様の違いで判断はできるかもしれない。でも世界が作り替わった結果かもしれない。確証は持てない。ゲームを始めて異なる世界に降り立ったわけじゃないから。


「リアルに過ぎる敵は恐怖を煽ってきます。攻撃されれば死にます。ゲームの仕様ですから。でもゲームの中にログインしてるだけだから、これは仮想世界での死だから、そういったものが頭の中に意識していなくてもあると思います。割り切ってる。だからこれはキャラクターの死なんでしょうね」


そう、自分で体験するが自分じゃない。自分が操作するキャラクターが死ぬのだ。

自分はそれを神の視点で見ているだけ。


「普通なら、そういつもと変わらなければ、それで終わりかもしれない。でも今は普通じゃない。あり得ないことが起こってる。寝ても覚めてもゲームの中でこの知覚している五感は本物なのか。全てが疑わしい」


何を持って肯定するのか。


「このあり得ない世界で自分は何を基準にすればいいのか。その要が揺らいでいる。認識が生み出す世界が歪む。標準が、普通が、日常が、規格が。全ては五感という形でもたらされる情報から形作られるから、根本からひっくり返された、裏返った世界では何を信じればいいんでしょうね」


現実と仮想の境界が取り払われる。

現実が仮想に侵食されたのか、仮想が現実に食われたのか。


「無意識的であれ基準と根拠を失った事でこの世界のこの自分こそが現実だと錯覚する。本物と感じてしまう恐怖が全てを塗り潰す。そしてある時突然にその人は動かなくなった。何てどうでしょうかね」


思いつくままにツラツラと思考をスライドさせて語ってみた。足元不安定、バベルの仮説なんて。

ちょっとずれてるかも知れないけど止められなかったから合格は貰えたかな?


「素晴らしいですね、正直ここまでの回答が飛んでくるとは思ってませんでした。紅茶の話の続きで世間話程度のつもりだったので」


嘘つけ絶対まじな話だったろ、明らかに雰囲気違ったし。


「ヤギリさんとはちょっとプロセスが違うんですけどね、私も最終的に似たような結果になるかもしれないって思ってたんですよ」

「へぇ、そうなんですか。どんな過程でそうなったんですか?そういう人の話聞くの結構好きですし興味ありますねえ」

「笑われてしまうかもしれないんですけどね、魂ってあると思いますか?」

「21gくらいはあるかもしれないですねえ」

「あの映画結構好きですよ」

「映画とかあったのか」

「まぁそれは置いといてですね、私はこの状況にオカルト的なモノを感じましてね。そこからちょっと考えてみたんですよ」


オカルトかぁ、胡散臭いインチキって感じのモノばっかりのイメージしかねえや。

でも今のこの状況って本当にあり得ないんだよなぁ。

自分の知っている範囲の知識じゃ説明がつかないし。


「現実では私たちの体は今病院へ緊急搬送され経過を観察されているでしょう。運営会社にも警察による捜査が行われているはずです。しかしいまだに私たちの意識はここにある。肉体と接続されているから思考を行い意識があることを確認できるのですから」


有線接続されてたらどうやったって一瞬は切れるもんなぁ。

脳が動いてる以上限界来たら意識だって飛ぶはずだし。


ゲームメニューでのログアウトが出来なくたってさ、ハードの安全対策で強制ログアウトだってあるんだし。幾つものセキュリティを抜いてる?ちょっと考えにくいよな。


「全てを信じることはできませんが、内部から閲覧できるニュースサイトでも未だに意識が戻った人はいない様です。ならばいっそ突拍子もない話のほうが案外説明がつくと思いませんか?」


それでオカルトか、確かにこの訳の分からない状況ならそっちのほうが説明衝くかもね。


少し冷めた紅茶を飲みながら耳を傾け話を促す。


「ハードや回線から切り離されても私たちはここにいる。そこで魂ですよ。生物に宿る命の源とされるモノ。それがゲームに接続しログインした際にこの世界に取り込まれたら?ちょっとそれっぽくはありませんか?」

「案外そうかも知れませんね」


釣られて笑ってしまう。


「それにね、オカルトも結構捨てたもんじゃないと思うんですよ。都市伝説でも超能力でも魔法でも錬金術でも何でもいいです。よくわからない物、理解の外側にあるもの全部をひっくるめてオカルトとしましょう。ヤギリさん、貴方はそれらを信じますか?」


全部を否定はしない、ただ知っているのとは違う理屈なだけのモノの可能性だってあるわけだ。

一人が知っている世界なんてたかが知れてる。知らないほうが多い。


「否定はしませんね、あるかもしれないし無いかもしれない。でも話を聞いていたらあったほうが面白いかもって思いましたよ」

「それはいい、私もそうです。あったほうが面白い。ならオカルトって何でしょうね?今や世界は明るくなりました。夜を照らし森を開いた、山を削り河を塞き止める、空へ打ち上げ海を埋め立てた。人の目による網は世界を覆いつくし未知をを既知へと落とし込んだのです。今まで解らなかったものを証明したんです。闇を払った。そうして生まれたのがオカルトじゃないかと私は思うんです。」


文明が逆にオカルトを生み出したか、恐怖を上書きした結果生まれたオカルト。

こじつけにせよ何にせよ聞いていて面白い。こういったそれっぽい理屈の話は大好きだ。


「わかることが増えたから分からないのが怖いんです。小さい時電気の点かない所って怖くなかったですか?見えないから。何があるかわからないから。見えないことを知っているから想像が恐怖を生むんです。人の認識がオカルトを生むんですよ」

「かもしれないという想像が理外の現象に形を与えるってことですか」

「簡単に言えばそうですね」


面白い、ワクワク感があるね。


俺も小さい時は…小さい時、小さい時?

どこで何をしてた?誰と一緒だった?何が好きで何が嫌いで、誰といたんだ?


ゾワリと背筋を寒気が走る。いつからだ、いつから覚えていない。


何も覚えてない、全く何も思い出せない。何もかも。


視界が回る、身体がふらついているのか地面が揺れているのかもわからない。

テーブルに肘をついても揺れが止まらない。


ない、思い出そうとする取っ掛かりすらない。


初めから何もなかったから、無いものは表示できないから。


汗が噴き出す、呼吸が怪しい。視野が狭い。音が全て遠くに聞こえる。


焦燥感に苛まれ他に考えられない。何でだ、どうして。


は、はは…やっべぇな、こわっ、分けがわからねえ。


理解できないよ、分からない恐怖ってこういうことかよ…














俺は、何なんだ……

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