14 Hide & Axe
サンク東森林、第二山域ボス、ランバージャック・スピリット。
仮称ジャックさん、武器はまさかのチェーンソー。くそぉ先越された。
多分元は人間だと思う、多分。だって身長余裕の2mオーバーですもの。大きくなりすぎでしょ、すくすく育つってレベルじゃねえぞ。
南1ボスであれだったんだぞ、そこをクリアした上で解放された北東西エリア、分かり切ってたことだろ。
……まぁ、とりあえずやりましょっか。考えてても仕方がないしさ。
様子見と何もしないのは違う、やってみないと動きわからんしね。
「どうも、ランバージャック=サン、アンデットスレイヤーです」
前傾姿勢で低く踏み込みながら斧槍にエンチャントを施していく。
スキルとステータスで強化された身体能力は正しく俺の意志に答え体を前へ押し出し加速する。
同時に、左右へ方向転換する程度の余力を残しながら出方を伺いながら。
結局のところ接近したときのパターンを把握するのが必須なわけで。
得物の差でリーチはこちらに分がある。細かく左右へフェイントを入れながら射程に収めた瞬間、穂先ギリギリを掠めるように振るう。
そう簡単に斬らせてくれる訳もなく唸りを上げるチェーンソーで柄を弾かれ跳ね上がる。
ギャリギャリとした嫌な音を上げながら火花が散り金属の焼けた匂いが鼻につく。
それ木材用のチェーンソーじゃねえのかよ、何普通に金属にぶつけてんの。ってかそんな勢いよくぶつけるもんじゃないでしょそれ。
しかしながら仮称ジャックさんはそんなこと気にもしてない御様子で。まじファンタジー武器にファンタジー金属だわ。
ジャックさんが振り上げたチェーンーを袈裟斬りに振り下ろすのを見れば逆サイドの足元へ逃れる。
「うひっ」
頭上を通り過ぎていく凶器に思わず声が出る。
hm、視覚的恐怖はあるけどもジャックさん速度はさほどでもありませんな?
初動を見てから判断できる程度には大振りで速度も乗り切らない感じだ。
現実のチェーンソーと違うとは言ってもやはり機関部は相応に大きく重いらしい。
右薙、逆袈裟、唐竹割に逆風途中からの突きっと。今のはちょっと危なかった。
振りに合わせて切り返しの硬直狙いでチクチクと斧槍を叩きこんでいく。
武器取り落してくれればと一縷の望みでもって腕に集中させていく。合間に脛を蹴ったりしてみるも効果は薄そうだ。
腰だめからの横薙をしゃがんで躱せba
「まっじぃ……」
ジャックさん片手でチェーンソーを振り切りもう片手で腕を掴んで投げ飛ばしてくるとか。
背中から地面に激突したせいで呼吸がうまくできない。ここがゲームの中だと分かっていても脳が背中からの衝撃に錯覚して過去の経験を元に生み出してしまっている。
無理やり体を起こしヒールを重ねてHPを戻す。今の一撃で4割削れるとか半端じゃないなジャックさん。
悠然と近付いてくる姿を視界に収めながら体勢を整える。認識をアップデートしろ、懐が安置とかどこぞのJIS+2D29じゃねえんだから。そりゃなんなり対応してくるよな。
反応速度は上々、大振りではあるものの鈍重さはない。
掴みと蹴りもあるものとして対応しよう、そうしよう。
ついでに武器はかち合わせない。
あぁ、そうかそう考えるとジャックさんタンク殺しだな、盾なんかで受けたらゴリゴリ削られるし、受けて耐えるってのがそもそも無理だ。
追撃の振り下ろしを躱しすれ違いざまに斬り返して少しでもダメージを稼ぐ。
「こわっ、チェーンソーこわっ」
引き裂かれるのが想像できるだけに凶悪さが全身で感じる。唸りを上げる稼働音もそれに一役買い相乗効果で一層恐怖を煽ってくる。
確実に躱す、それだけを第一に考えて行動しろ。
そして隙を見て一撃。ついでに
「リキッドアックス」「ダークブラスト」「ブラックペイン」
攻撃兼目くらまし、背後へ回り切り上げDotを付与していく。
黒い靄が立ち昇り付与されたことを確認すれば一旦後ろへ。
振り向きざまの薙ぎを後ろへ下がり離れるついでで
「ソニックブーム」「フラッシュオーバー」
衝撃波と爆発的に燃焼する炎の余波に乗り距離を取り次の行動に備える。
「知覚方法は視覚と聴覚、視界から外れてもある程度は予測で狙ってくるっと」
考えをまとめて認識を上書きする意味で独り言を漏らす。嘘です、ただ口から出ただけです。
そんなことよりもだ、合間合間に浄化のエンチャントも掛けなおし少しでもDPSが上がるように備えていかないと、絶対長丁場になるからね。
そしてやっぱり魔法はいいな、素晴らしい。
MPとの相談案件ではあるが行動パターンが変化するまでは程々に使っていこう。現状斧槍だけじゃ攻撃間隔が空きすぎてDPSが低すぎるもん。
「HAHA、楽しくなってきたじゃん」
長い夜になりそうだ。
◇
切っ掛けはやっぱりHPなのか、目算で8割を割ったところでジャックさんの動きが変わった。
今までは遮蔽物もくそもない広場で斬り合ってただけだった。
それが今や樹齢100年は超えてそうな木々が乱立する中でステルス暗殺ゲーへと早変わり。
まさかジャックさんが魔法を使うとは思いませんでね。
始めは一本の木が生えただけだった。それだけだ。
山の中に比べたら障害にもならない。
魔法を使うたびに凄まじい勢いで天に伸びる木がこちらの攻撃を遮ってくる。
いやまぁね?正直ここまでは簡単すぎると思ってはいた。躱せればただの的だもん。
そして今ジャックさんはチェーンソーをやめた。
巨大な斧を手に音もなく背後から切りかかるホラーゲームですよ。
「HAHAHAHA死ぬ、こわっ、死ね、あぶねっ」
自分でも滅茶苦茶言ってる自覚はある。だがテンションが上がってきて止まれない。
射線を遮り移動ルートを確保しサイレント特大物理攻撃。完全な後衛狩りじゃん。
キャスだのヒラがサイレント遭遇戦とかで対応できるかっての。
音もなく木々の間を縫い襲撃してくるジャックさんだが
「パリィ!!」
刃の腹にぶつけながらなんちゃってパリィでやり過ごす。スキルでも何でもない、人力ゴリ押しその場しのぎ。
ただし今は夜だ。称号とスキルに強化された感覚が動きを捉える。それが力業でのゴリ押しを可能にする。
巨体に見合わぬ僅かな振動、微かな擦過音。尖り切った意識がそれらを察知し奇襲を未然に防いでいく。
おまけに魔法と蹴りを叩きこんで後退すれば向こうも木の陰に引いていく。
その隙にもうちょっと場を整えましょうか。行動は把握した、反応は追い付く、迎撃も出来る。始動から判定まで、攻撃速度の関係で後の先は取れる。
なら自分を上げて敵を落とせば
「アクセラレーション」「ハイドロプレーニング」
身体が意識を超えて反応する、ブーツが大きな飛沫を上げる。
ピリピリと張りつめた空気の中、身体は今か今かと解き放たれる瞬間を待つ。
聴こえた、感じた。
足が水面に弧を描き斧槍に遠心力という名のエネルギーを授け、加速した肉体が初動を捉えて得物を弾きあげる。
初動は勝った、たたらを踏むジャックさんを追い、斧槍の軌跡をなぞり蹴りを入れる。
勢いのまま半回転して
「シャドウフィールド」「フラッシュオーバー」「ヒートリテンション」
視界を遮り、熱波で焼く、ついでにそれを留めて空間を焼き続ける。おまけで石突は膝へ。
ミシリという確かな手ごたえを感じ追撃の蹴りでもって距離を離す。
「そっちには曲がらねえよなぁ?関節はあっ!」
弾いたのも合わせれば都合七連撃だ、すばらしい、実に素晴らしい。
一発攻撃じゃないのが入ってるけど気にしない。
バシャリバシャリという水音と共にジャックさんが木の影へと引いていく。
パターン入ったな?負ける気がしねえわ。
◇
《フィールドボス:ランバージャック・スピリットの討伐を確認》
《貢献度ボーナスにより報酬が増加します》
《初討伐報酬を獲得します》
《単独撃破報酬を獲得します》
《称号:【ソウルハーベスター】を獲得します》
《取得可能スキルが追加されます》
《E1サンク東森林のエリアポータルが解放されます》
《E2祈還の鉱墓が解放されます》
《N1E1山岳交易路 トワイライト・キャリコロードが解放されます》
《S1E1スヴァ高原が解放されます》
《開放度ゲージが更新されます》
《その他各種機能等が適応されます》
《良い旅を》
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