第2話.好奇心は蜜の味-2
おかしい。こんなはずじゃなかったんだけどなぁ。ワタシの目の前で饒舌に家の紹介をする羽多くんを見てそんなことを思った。
「このソファはわざわざフランスから取り寄せてな、なかなか到着しなくて随分と不自由な生活だった」
「このスツールは今話題の家具デザイナーに頼んだものだ!ほら見ろ!この曲線が美しいだろう!」
「リビングの照明にも拘ってなぁ!これはデンマークの格式高い施設に使われている物と同じ照明なんだ!これがあるだけで部屋に威厳が生まれるだろう?」
あ、ワタシは今ルームツアーに参加しているのね。初めこそ"自慢したいのね、かわい"だなんて思っていたが、こうも続くと表情筋が限界なんだけど。もう笑ってられないんだけど。
確かにすごいよ、こんな豪華な家に20歳そこらの若造が住んでるなんて思わないよ?だけど、これってキミのパパのお金なんだよね?
あの真っ白なボルボもそうなんでしょ?自分で稼いだお金じゃないのに。さぞいいご身分ねぇ。とコテンパンに言い負かすことはできるだろうけど、我慢我慢。こんな上玉を逃すわけにはいかない。
「と、まぁ、これらは父が俺に与えてくれたものだ。俺は父の期待を裏切らない男にならなくてはいけない」
羽多くんは一通り家の中を紹介するとワタシに向き直り、キリリと鋭い視線で抱負を述べた。
ワタシはこれに面食らったわけだ。なんだか真っ直ぐすぎるその決意と瞳にワタシが赤面してしまう。純粋培養された人ってこんななんだ。ワタシとは住む世界も価値観も違いすぎる。
ワタシがここに来たのはルームツアーをしてほしいからじゃなくて。興味のない話をニコニコ聞いていたのはアナタに興味があるからじゃなくて。
新しい宿主を探しているからだ。体を捧げるから住居を提供してほしい。そんな邪な願いの為だ。
「羽多くんは立派だね。お父様も頼もしく思われてるわね」
「そ、そうか?!そうだと思うか!そうなら嬉しいのだが」
そう言って照れながらはにかむ羽多くんはとても眩しい。親から正しい愛を正しい量だけ与えられてきた人間だ。
そんな彼をワタシが汚したい。ぐちゃぐちゃに泣かせて、「お前なしでは生きていけないんだ」って縋ってきたところを無残に切り捨ててやりたい。そんな良からぬ想いがワタシの心の内でムクムクと頭をもたげた。
「うん……羽多くん、ねぇ、羽多くんの目ってとっても素敵だね」
こういうタイプは絶対に押しに弱い。まどろっこしい駆け引きは通じないタイプで、既成事実さえ作ってしまえば勝手に好きになってくれる。
ワタシはそう確信していた。だから脈絡がないと分かっていながら強硬手段に出たわけだ。
羽多くんの頬を両手でやんわりと挟み、じぃっと見つめれば、彼は面白いほど狼狽えだした。
顔を真っ赤にして「な、なにを考えているんだ!」とか言っちゃって。ほんと可愛いなぁ。
「うふふ。羽多くんのこと考えてる」
「なにをっ、んっ、」
もううるさいと思って。黙ってと思って。ワタシは唇を羽多くんのそれに押し付けた。
羽多くんは想像通り目を見開いて、今の状況に驚いている。というかまだ何が起こっているのかを理解できていないようだ。
可愛い。その表情を見たくて、目を閉じなかった自分を褒めてやりたい。
頑なに唇を閉じている羽多くん。きっと唇の力の抜き方を忘れちゃったのね。固くて本来の半分の柔らかさも感じないそこを解すように舌先で舐めてやれば、羽多くんは「ひぇ」と僅かな悲鳴をあげた。
その一瞬を逃がさぬように舌を捻じ込んでやれば、羽多くんはその感触に集中するようにやっと目を閉じたわけだ。
「っはぁ、お前……こんなことしてタダで済むと思っているのか?」
それは勝手に唇を奪ったワタシの行為を咎めているのだろうか。口の周りをどちらのものか分からない唾液でベタベタにして?頬は赤く、息は荒く、羽多くんの大事なところはデニムを持ち上げるほど興奮してるのに?ぜんっぜん説得力ないんだけど。
「タダで済まないなら、どんなお仕置きしてくれるの?」
とんと軽い力で羽多くんの胸元を後ろに押せば、彼はヨロヨロとさっき熱弁してくれたおフランス製のソファにお尻をついた。
布一枚越しでも感じた彼の筋肉は立派で、定期的にジムにでも通っているだろうことが推測できる。そんな逞しい羽多くんがこんなか弱い女の力で尻もちをつくなんて、余程キスが気持ち良かったのね。
彼の太ももの上に跨って、腕を首に回した。あぁ、太ももの筋肉も首の太さもたまんない。どこからどうみても上物の男だ。早く抱いてほしい。いや、これはワタシが抱かせてやるのだ。
惨めに愚かに腰を振って、情けない声を上げて、快楽に顔を歪めて、無駄な精子を放出してほしい。
「やめろ、売女みたいな真似をするな」
それともお前は本当に売女なのか?と、羽多くんは嫌悪に眉根を寄せた。
どうだろうか。セックスをする見返りに金銭は受け取っていないけど、住居を提供してもらってるんだから、同じようなものかもしれない。
綺麗なことしか知らない箱入り息子のご令息はそういう女が嫌いらしい。だけどそんな女に迫られて勃たせるもん勃たしてんだから世話ないよね。
「でもぉ、ここはワタシの中に入りたいって辛そうだよぉ?」
ワタシが腰を前後に揺すってやれば、「うっ、」と情けない声をあげて、羽多くんは腰をびくつかせた。
あぁあ。キミの力ならワタシを引き剥がすことなんて造作ないでしょうに。口では「やめろ」とか言ってんのに、体は正直だよねぇ。って、この言い方はエロ漫画のキモイおじさんみたいか。
「羽多くん、素直になって?これがワタシのここに入るの想像して?ほら、気持ちいいよ?」
彼の浅黒く筋張った指をワタシの股に導いてやった。クロッチ部分をサイドにずらして直接触らせてやれば、くちゅりと卑猥な音が鳴った。
それは羽多くんの耳にも届いていたのだろう。「ぐっ、」とか「うっ、」とか短い声を出して、眉根を寄せて耐えている。指を動かさないように必死な羽多くんを見てブルリと体が震えた。かわいい。
「濡れてるのわかる?ここにおちんちんがニュルンて入るんだよ?液体に挿れてるみたいですっごい気持ちいいんだって」
昔の男から聞いた感想を、想像を掻き立てるように囁いてやった。羽多くんが指を動かさないならワタシが動いてやればいいのだ。
そうしてワタシが上下に動いても羽多くんは指を微動だにさせないけれど、膣からも抜かないことが答えな気がする。
「あっ、きもちいっ、羽多くんの指っ、ふといっ、あっあっ、お腹側に指曲げてぇ、おねがいっ」
「うっ、あっ……、こ、こうか?」
素直かよ。
「あ、そう、そこ、そこ、押して、ぐって、うーっ、きもちいっ、イクっ、イクッ」
ほらね、ワタシは演技だってお手の物だ。イッたふりしてれば男は勝手にいい気分になってくれる。
「ね、挿れたい?」
ハァと吐息混じりに耳元で囁けば、羽多くんはゴクリと喉を鳴らした。これで当分住むところには困らないかなって、ワタシは彼に見えないようにほくそ笑んだ。
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