愛ってなんだよ、おいしいの?
未唯子
第1話.好奇心は蜜の味-1
初めて見たときにまず思った。わぁ、激しいセックスしそぉ!しかも独りよがりの、ぜんっぜん気持ち良くないやつ。だけど醸し出す雰囲気が華やかかつ上品で、あぁ絶対金持ちの息子だなって思った。
ちょうどいい。今部屋に住まわせてもらっている男は最近束縛が激しくなってきて、潮時かなって思ってたから。
今度はこの子にしよう。金持ちそうだからきっと良い部屋に住んでるだろうし、年下で世間知らずっぽいから色仕掛けで迫ればすぐに落とせるかなって。
バイト仲間と体の関係を持つのは気が引けたけど、上手くいかなかったらバイトを辞めればいいだけの話だ。
ニッコリ微笑んで「よろしくね」って言えば、「あぁ、よろしくな」だなんて白い歯を見せて笑ったその子の名前は
浅黒いつるっつるの肌、意志の強そうな凛々しい眉毛に丁寧に研いだ刃物みたいな鋭い視線、ツンと細い鼻先に大きな口。うん、どこからどう見ても男前。この子はどんなセックスするんだろ、って考えて、その答え合わせをする瞬間が一番楽しい。
この居酒屋でバイトを初めてからもう1年。それだけ経てばベテランの域で、ワタシは店長に言われたまま羽多くんの指導にあたっていた。
羽多くんは物覚えがいいのか一度教えたことは完璧に覚えた。知名度も偏差値も上等なボンボン大学に通っているって言ってたな。要領もいいのだろう。
それどころかワタシの予想通り、羽多くんはお金持ちらしい。なんでも彼の父上は関西で会社をしているらしく(教えてもらった社名をググったがイマイチどれほどの規模かは分からなかった。ワタシの教養の無さのせいだ。)、話しによればクルーザーを所有していたり、高級車を何台も所有しているらしい。
羽多くんがさらりとつけている腕時計も実は高級品らしく、一緒に話しを聞いていた
じゃあどうしてこんな居酒屋でバイトなんかしてるの?という話なのだが、羽多くんは「社会勉強のためだ」と言っていたが、大方下々の生活が気になって興味本位でというところだろう。
しかし羽多くんの口から出る話は庶民のワタシには到底想像もできないもので、世界が違いすぎて嫉妬心など微塵もわかなかった。羽多くんの話し方がちっとも自慢げではなく、当たり前のことを当たり前のように話している感じなのも良かったのかもしれない。
俄然この男を落としたいと思った。いや、恋心などはどうでもいいのだ。ただこんな上品そうな良いところのボンボンがどんなセックスをするのかが気になった。下品な喘ぎ声出して必死に腰振ってるとか最高じゃん、とそれを妄想して一人で悦に浸った。
羽多くんが5回ほどバイトに出勤すると「次はラストまで入ってもらおうかな」と店長が言った。彼の働きぶりを見て、ラストの仕事を覚えてもらって早く一人前にしたいと考えたのだろう。
そんな羽多くんの初ラスト出勤日、それはワタシにとっても彼を誘う絶好の機会なわけだ。
「で、食器を全部下げたら次はレジ締めね。今日は一回目だからワタシが締めるから、羽多くんはメモとりながら見てて」
だなんて先輩風を吹かしながらレジ締めの手順を説明する。そんなワタシの話を時折頷きながら真剣に聞いて要点を記録する、羽多くんの伏しめがちな瞼はとても魅力的だ。
「あとはレジ銭を店長に渡しておしまい!どう?できそう?」
「?俺に聞いているのか?できるに決まっているだろっ!」
「そ。ま、分かんないとこあったら聞いてよ」
羽多くんはボンボン故かプライドが高い男だ。自分にできないことはないとでも思っているのか、ナチュラルに偉そうな話し方をする。
現に年上でバイト先の先輩であるワタシにも敬語を使わない。店長にはちゃっかり使っているところが強かだなと思わなくはないが、しかし嫌な気がしないのはこちらを見下している気配がないからだ。ただ単純に自分に自信がある男なのだろう。
「ね、羽多くんの家ってこの近くだっけ?」
「あぁ。車で5分ほどだ」
「車いいよねぇ。ワタシなんて自転車だよ?」
「お前も買ったらどうだ?」
サラリと言ってくれるぜ。何百万もする車、しかも買ったら終わりじゃなくて維持費もかかる。それを買えば?なんてさも簡単なことのように言うんだもんなぁ。車は駄菓子じゃねぇんだぞ。
「そうだねぇ。ね、羽多くんち行きたい!」
「?なぜ?」
「?どんなお家に住んでるか見たいの!だめぇ?」
従業員出入り口を出たすぐそこの駐輪場で、ワタシは小首を傾げた。自慢ではないが、いや、自慢だが、ワタシはそこそこ可愛いし、なにより胸が大きい。
腕を絡ませて胸を押し当て、困り眉のウルウルおめめで見上げて、そのあとちょっと恥ずかしそうに視線を逸らせば、性欲の奴隷である男なんてすぐ誘いに乗ってくる。
「家かぁ……わかった、いいぞ!」
ほらね。ちょろいちょろい。どんだけ硬派を装っていようが、どれだけ清廉潔白を装っていようが、男はおちんちんに支配された可愛い生き物なのだ。
「やったぁ!」
喜ぶときは大袈裟に。「ありがとう、嬉しい!」って、ニコニコしてりゃ男は気分良くなってくれる。
羽多くんの赤くなった頬を、明るすぎる外灯が照らしていた。
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