第十三話 戦場での日常・その二

 その次の日。

 早速レイはライリーから上級魔法の教育を受けていた。


「さぁ、何か特別に習得したいものはある?」

「んー…昨日ざっと目を通して見て、興味のあるものはあるんだけど」


 いくつものページに折り目が付けられていたり、マークが付けられていたりと、かなり使い込まれた印象だ。

 試しに開いてみたページには"遠視魔法"に関することが書かれていた。


「これは…相当複雑な術式ね。おまけに消費する魔力が多いから、使える人間も少ないはずよ」

「まあな。ただ、これを使いこなせれば戦況を有利に進められる」


 この世界に生まれかわり、ある程度の魔法は使えるようになり、基礎的な仕組みもわかりはした。

 だがここまで複雑ともなると、難しさを感じた。

 普通の魔力値では出来ない芸当だ。


(これがこうだから…こうか?)


 するとレイの両目に術式が浮かび上がった。


 突如として変化が起こった。

 身体は全く動いていないにも関わらず、視界だけが移動しているような感覚に陥った。

 少し目に力を入れると、遠くの本営の壁の傷まで細かく見えた。

 しかし投下力の調整が難しく、また何処を見るかの調整も難しいようだった。

 視点がどんどん移り変わり、制御にレイは戸惑った。



「うげっ!」


「??」



 突如としてレイは術式を解除し、ライリーから目を背けた。

 透過力を微妙な数値に調整してしまったらしく、ライリーのスポーティな下着が透けて見えてしまっていた。

 モデルのように引き締まった体型が露わになり、レイは飛び上がる程に驚いた。


「どうかしたの?」


 ライリーは何も知らない様子で話しかけてきた。


「え、あ、いや…あの…」


 ライリーの目を見られず、レイは思い切り顔を横に向けた。

 そのうちにライリーは、何かを悟った様子になった。


「…変なもの見たでしょ」

「ち、違う! わざとじゃないんだ! そ、その…ごめん」


 顔が紅潮するのをレイは感じた。


(童貞ムーブ丸出しだぁ…)


 年齢にそぐわない言動に、レイは自身への情けなさを感じた。

 ライリーも微かに頬を赤らめ、ジト目でレイを睨みつけた。


「女の前で透視魔法を使うのは禁止よ! もう…筋が良すぎるのも考えものね」

「なんかごめん…」

「にしても、噂以上ね。現役時代のリチャード王並みじゃないの?」

「リチャード王?」


 一度だけレイは目にしたことがある。あの濁った両目の、黒髪の王だ。


「知らないの? リチャード王は現代でもアズリエル最強の戦士よ。軍人時代の軍功で、最終的には王族入りしたんだから」

「そうなのか…」

「子供の頃にジョルジュ・ネルディームってテロリストを倒して、そこから将校として入隊、王族と結婚して王族入りしたって事なのよ」

「へぇ…」


 ジョルジュという名は聞いたことがあった。確か亜人のテロリストということだ。

 言われてみれば、レイは彼に関してのことは殆ど知らなかった。


「まぁでも、あれね。強いからって変なトコ覗いちゃダメよ」

「の、覗かないわ!」

「プフッ、可愛い反応しちゃって…純粋なのね」


 口元に手を当て、ライリーは悪戯っぽく微笑んだ。

 そんな姿をレイは可愛らしく感じた。


「まあいいわ。今日はお姉さんがとことん付き合ってあげる」

「…実年齢は俺の方が年上なんだけど」

「細かいことは気にしない! さぁ、さっきの術式をもう一回やってみるのよ」

「あ、ああ…」


 胸の高鳴りを覚えながらも、レイは一日かけてライリーの指導を受けた。




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