第49話 お母様。

ロゼにウォーターボールを相殺されたライブは不満げに「あーっ!ロゼってば」と言う。ロゼはライブが半分本気、半分冗談で言っている事がわかっていて「まだマアルには辛いよ」と返した。


ロゼは「立てる?」と言って手を差し伸べると「悔しいです。折角の訓練なのに…何一つ成せずにロゼくんに助けられました」と言ってマアルは泣いていた。


「初めてだからだよ。俺との訓練はこういう訓練じゃなかったろ?的の横に行って当ててみなよ」

マアルは泣きながらも的の横に行って矢を放つと問題なく的に矢は当たる。


「うん。風の術でフォローしてるから当たるよね?今の訓練はライブママが言いたいのは狙って放つのも位置取りも冷静に周りを見る為の訓練なんだ」

「はい。ありがとう…ございます」


そう言っても悔し泣きをするマアルにロゼは「あー…」と困ると「じゃあ2個やるからまずは見てる訓練」と言って自分が座らせて貰っていた席にマアルを座らせる。


「ライブママ、今の訓練、俺はファイヤーボールね」

「いいよ。じゃあ私はマアルにやったようにウォーターボールだよ」


ロゼとライブの戦いは一進一退で「アンタ、そんなに出来たの?」と驚かれ「うん!ジェード達は気にするから内緒だよ!」と言いながらファイヤーボールを放つが当たらない。


「アンタ!なんでそんなに離れて撃つのさ?近くなら今の30秒で当たってたよ?」

「だってこれはマアルの為の訓練だからだよ!」


「にゃろ…格好つけたな!喰らえ!ウォーターボール!」

「え!?4発!?くそっ!本気回避!」


「かわした!?」

「かわすよ!」


ライブは本気では無かったがまさか自分の攻撃をロゼが回避するとは思わなかったので素直に驚いた。


「まあいいや、アンタの勝ちにしてあげるよロゼ」

「ライブママ?」


「だってもう一個マアルとやりたいんだよね?早くしないとアルマ達帰ってきちゃうよ」

「あ、そっか。じゃあマアル来て」


マアルは素直に来ると「俺の動き見えたかな?」と聞く。


「はい。見えました」

「良かった。じゃあこれが俺の目から見てたマアルね」

ロゼは手を繋ぐと伝心術でマアルの姿を見せると明らかにロゼの方が周りを見ていて狙いやすい位置でわざと一度止まっていた。


「ロゼくん…位置取りを見せてくれてたの?」

「へへ、でもファイヤーボールは外しちゃったよ」


それはわざと外していた気もしてマアルは顔を赤くして首を横に振る。


「ライブママ、もう一回だけマアルとやってよ」

「いいよ」


だが見ただけでうまくいく自信のないマアルは先程の失敗を恐れて顔を曇らせる。

ロゼは「大丈夫」と笑うと「俺が術で見た景色や予測をマアルに教える。だからやってみようよ。ライブママが来るのは滅多にないから今しかできないしさ、やろう?」と言う。

この会話にライブは嬉しそうに「まったく、よくやるよ。本当イブ譲りの隠し上手だね」と褒める。


「へへへ、やれる俺をライブママに見せられて良かったよ。さあ、マアル」

「はい。よろしくお願いします」


再び訓練が始まるとロゼが「落ち着いて周りを見るんだ。ウォーターボールは2個、頭と足を狙ってる。回避だけど前は水溜りだよやや右前にかわさないと氷との距離が広がるよ」と指示を出す。

マアルは疑う事なく「はい!」と言うと右前に避ける。


「次、右足狙われる。急ブレーキからの方向転換でバックだ」

「はい!」


「よし!後10秒でマアルの攻撃。弓を持って矢を引いて、全力じゃなくて良い。1秒だけ早く撃つ感覚で矢を引きかけて!でも周りには集中、ライブママの攻撃を避けるだけだと横にされる!さらに動いて後ろを目指すんだ」

「わかりました!」


「ちっ、ロゼ1人が入るだけでそこまで動けるの?やらせない!最後の意地悪!ウォーターボール!!」

ライブは特大のウォーターボールを放つとマアルは「私はカラーガです!」と言いながらウォーターボールの中に入って行き位置取りを済ませると矢を放った。


矢は辛うじてだが氷の板に当たった。

それを見たマアルはヘナヘナと座り込んでしまう。


達成感に震えるマアルが「や…やれましたわ」と言うとライブが近づいて「お疲れ様。諦めて立ち止まると思ったよ。突っ込むなんてまさにノルアとイシホの妹だね」と褒めながらマアルを立たせる。


「ありがとうございました」

「いいよ、また今度付き合ってあげる。今度はもう少しえげつないのにするから走り込みもしなさい」


「はい。お母様」

「え!?何でそうなるの?」


「お母様は武芸の母です!」

「ええぇぇぇ?イシホはお姉様って呼ぶし何なの!?」


「それはライブママが自分でお母様なんて変な事を言うからだよ」

「ええぇぇぇ」


「マアル、びしょ濡れよ?着替えていらっしゃい」

「あ!?は…はい!」


マアルが屋敷に戻るとサンクタがライブに「世話になりました」と礼を言う。

「別に良いよ。ロゼの指輪を預かってくれてロゼの訓練に付き合ってくれるからお礼で手出ししたかったの」

「後、先程聞きました。ご子息の件もありがとうございます」


ライブはロゼの顔を見て「御子息?ロゼなんかしたっけ?」とサンクタに聞き返す。


「あ…、いえ、ジェード君です」

「ああ、アルマのパートナーの話?気にしないでよ。でもご子息じゃわからないよ。私はタシアもコードもトゥモもロゼも全部息子だし、メロもシアもラミィもフユィも全部娘だよ」


「それは失礼した」

「まあいいよ。ところでロゼ?ジェードにしないでリーダー連れてきたのは?」


「ライブママはわかってるんでしょ?ジェード連れてきたら勝てなくなるもん。今でもどっちが勝つかわからないのにここでアルマとジェードが会ったら勝てないし、そうしたらマアルが可哀想だよ」

「ジェードはミチトのお陰で隠れた才能が見つかったからね。まあロゼもだよね?それだけやれるなら今も見せた優しさに意味があるよ。優しいだけでも強いだけでもダメだからね」

ロゼは「うん。パパみたいになるよ」と言うとライブは嬉しそうに「よろしい。やりなさい」と言った。


マアルは慌てて走ってきてシャツのボタンをかけ違える程で珍しくナイワに怒られる。

「すみません、アルマが戻ってきたかと思って…」

「そう言えば遅いね…」

「何やってんだか…探すか…遠視術…」


ライブが探すとすぐにリーダーは見つかった。

群衆にもみくちゃにされている。


「あらら…。迎えに行こう」

サンクタ達も連れて迎えに行くとニュースターのリーダーは英雄の帰還のように喜ばれていて父母は泣いていた。

そして出会って数時間のアルマに「若様!息子をどうぞよろしくお願いします」と頭を下げられてどうよろしくすればいいのかわからずに困りながら「勿論だ」と返していた。


「もう、帰りたいんだけど何やってんの?」

「ぬぅ…。ライブ、助かった。帰ろう」


群衆はサンクタに頭を下げてサンクタから騒ぎは良くないから解散を命じられて散り散りになって行く。


「アルマは盾について聞けた?」

「街まで。街に着いたらこれで聞けなかったよ」


「ごめん」

「ううん。いいよ。でも盾の有用性は聞けた。タニックさんの話だとカラーガの剣は先手必勝。相手の出方を見る前に剣で叩くから盾が無いんだと思うって教わったよ」


「そっか、アルマはどうするの?」

「小ぶりな盾を勧められたよ。小ぶりだけど掌から肘まで守ってくれる細長いやつ。ひとまずつけてみる」


「そっか、じゃあ良かったよ」

「ううん。ありがとう。でもなんでマアルは服が違うの?」


「あー…うちのライブママと訓練してウォーターボールが当たって濡れちゃったんだよ」

「闘神の妻、女帝ライブさんの訓練…」


「女帝?何それ?」

「僕達が生まれる前、トウテができた頃の話でライブさんの魅力や能力に気付かれたチャズ様達が権力の全てをライブさんに譲渡して国をよくするように頼まれたんだって、それでイシホ姉さん達もライブさんの下で働きたいって言ったんだって」


「マジで?そういえばライブママって術人間の代理マスターもしてるし、この前の王都でもウシローノさん達をモバテさん達のお仕事を教えてもらえるようにしたとか言ってたよ」

「そのライブさんの訓練!凄い!羨ましい!」


「まあ、アルマは盾が決まってからにしなよ」

「うん!頼めるかな?」


「俺からも頼むようにするよ」

「ありがとうロゼ!」


「お、君が取れた」

「あ…ごめん」


「逆だよ。ロゼでいいよー」

「うん。ありがとうロゼ」

ロゼはアルマと仲良くなれた事に気を良くして機嫌よくトウテへと帰って行った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る