第43話 イブとの野獣の日13。
帰り時、ロゼとマアルはパートナー同士のように並んで挨拶をする。
「スカロ叔父さ…叔父様、叔母様…お邪魔しました」
「うむ。またいつでもくるが良い。マアル嬢も気兼ねなく遊びに来てくれ」
「はい。ご当主様。ありがとうございます」
「パテラおじさん!訓練ありがとう!あ、水人間はジェード達に内緒だからね!」
「応!わかった!また高めよう!」
パテラは先程までの気持ちをおさえて気持ちのいい挨拶をする。
「マアル。父上と母上、アルマの事をよろしくお願いしますね」
「はい。姉上」
「パパ、パパとママと飛ぶ時は平気だと思ったけどマアルが危なかったら助けてよね」
「ああ、見てるから安心するんだ」
「それでは闘神様、イブ様。今日はありがとうございました」
「はい!また会いに来てくださいね!」
「じゃあメロ、ティナ婆ちゃんの所で待ってるからね」
「うん。メロは転移術一個しかないからチャージまでは待っててね。そういえばパパと転移術ってどこに飛んだの?王都?」
「ううん。海底都市から天空島」
「…初めてで天空島?パパの補助無しに?」
「うん。見えたから飛べたよ」
「…じゃあ心配ないや。マアルちゃん、安心してね」
「はい!」
「よし、じゃあ行ってくるね。あ!転移術も内緒だからね!」
ロゼは言うだけ言うとマアルと無事にサミアまで転移をしていた。
「飛べましたね」
「うん。着地も上手いよ」
「凄いね。でも家だとわざと手を抜くんだね」
遠視術で確認をしたイブ、ミチトとメロ。
やはりロゼが出来る度にミチト達の話題はロゼのことになる。
「仕方ないよ。ロゼはフユィやジェードを悲しませてまで力を見せたくないからね」
「でもさ、この3日で子供達は皆変わったから受け入れるかもよ?」
メロの言葉にミチトが「まあ徐々にかな?1番はタシアがバンバン術を放ってくれればいいけどそうもいかないからね」と言うとメロが口を尖らせて「むぅ…、メロももっとできる女になりたい」と言う。
「…よく言うよ。シヤより強いし真式のクラシ君より強いだろ?」
「でもメロは模式だから閃かないもん」
メロの返しにミチトは呆れながら「メロはメロで別の模式だよ」と言う。
「え?」
「言ったろ?壁に当たらないって。イブですら俺の術を完璧に再現出来ないんだ。アクィはまた別の…金色に言わせると模真式だろ?でもアクィは再現出来ても応用も何もない。完全に教えたことしかできない模式だろ?でもメロは違う。今日の水人間もやれるよね?」
「うん。後でお風呂でコッソリ作ってみようと思ったよ」
実際、見たからやろうと思ってやれるのは真式に考え方が近い。
無限記録盤が考えを阻害してしまう摸式達は何もできずに諦める。
水人間で言えば、イブはイメージが付くのでやってみればうまく行く。
だが究極に無理矢理引き上げられたアクィはやろうとすら思わない。
なのにメロはやってみようと思っていた。
ミチトは微笑んで「ほら、ね?イブ」というとイブも「はい。メロちゃんは自慢の娘です」と言った。
ここでローサが呆れながら「ほらほら、流石に2人の時間をあげるにしても長引くと怪しまれるわよ?」と言い、初めてミチトが「2人の時間?え!?ロゼってマアルさんを!?」と言った。
「あら、お父さんは本当に気づいてなかったの?それに逆よ。マアルさんがロゼくんに憧れを持ってるだけよ。まだ何もないけど良いじゃない。貴重な経験よ」
「ええぇぇぇ…、まだ7歳…」
渋い表情のミチトを見てローサが「イブさん、メロさん?」と言うとイブとメロはミチトの右と左に立った。
「ミチトさん」
「パパ」
「もう7歳ですよ」
「もう7歳だよ」
左右から交互に言われたミチトは「マジかよ…」と言い、その奥で「スティエット…まさかロゼが…」とパテラが言う。
「ああ、もう1人居たわね」
「居ましたね」
「パテラお兄さん…」
ロゼは無事にサミアに着くとディヴァントの湖をマアルに見せて「マアルは赤ん坊の時にサミアに居たんだよね?」と聞く。
「はい。母が私とアルマを産むのが難しくて闘神様の力をお借りしたのでサミアで一時期お世話になりました」
「じゃあただいまなのかな?」
「ふふ。そうですね。ただいま」
ロゼはマアルに「お帰り」と言いながらドアをノックするとすぐにティナとデイブは顔を出す。
「爺ちゃん!婆ちゃん!来たよ!」
「あら格好いい服来て、どこの貴族様かと思ったわよ。今晩はロゼ」
「本当、格好いいね。それで横のお嬢さんは?」
「はじめまして!マアル・カラーガです」
「カラーガ?イシホちゃんとノルアちゃんの妹さん?あれ?双子だったわよね?」
「ああ、ミチト君の腕輪で生まれてきた双子だね」
「じゃあ生まれた時に皆でお祝いしたからはじめましてじゃないわね。お帰り」
「え…ただいま」
「ロゼはなんでこの子を連れて来たの?」
「今日は訓練とか助けてもらったからこの後マアルをカラーガまで送るんだよ」
「助けてもらったの?じゃあキチンとお礼を言いなさいよ。ミチト君も抜けてるから言い忘れるのよね」
「そっか…。マアル、本当に朝からありがとね。パーティーのパートナーは練習しておくから頑張るし、変な奴も蹴散らすし、また指輪が上手く作れたら比べに行くからよろしくね」
「はい!私こそありがとうございました!」
知っていてもわざと話を回すティナの話術にロゼもマアルも気付かない。
「ロゼ?マアル?変な奴を蹴散らす?パーティー?何それ?」
ティナのトーンが下がった事に気付いたロゼは青い顔で「え…婆…ちゃん?」と言う。
「言って」
「え?大丈…」
「言いなさい」
「ええぇぇぇ…」
優しいお婆ちゃんから鬼の顔になったティナは「ちっ、ロゼは変なとこばっかりイブちゃんとミチト君に似るんだから!」と言うとロゼの横に座るマアルに「マアル!言いなさい」と言う。
正直平民が貴族に聞く言い方ではないのだがティナは気にしない。そしてマアルはその距離感に負けて「え!?パーティーは今度私の11歳の誕生日に貴族達へのお披露目パーティーがあって…」と話し始めた。
「ふんふん。あるのね。まあマアルはご令嬢だからやるわよね。それで?」
「それで…、カラーガとしてパートナーにエスコートをして貰ったりダンスを踊ったりするから困っていたらヒノお姉さんがロゼくんに頼んでくれて」
「は?ロゼ?あんた頼まれるまで立候補も出来ないの?」
「俺よりトゥモやジェードやタシアが良いと思ったんだよ!トゥモならマナー上手いし、ジェードは背が高いし、タシアは格好よくて優しいし…」
「うっわムカつく。髪型崩すの可哀想だから叩かないけど叩きたいわ。マアル?それで?」
「ローサ様が説得してくれて、ロゼくん以外だとトラブルになるからロゼくんにお願いしました」
「トラブル?」
「タシアはパパの子なのに術を使いたがらないからダメで、トゥモは上手いけどマアルに合わせられないからダメで、ジェードは喧嘩っ早いからダメだって、なんかマアルとダンスを踊りたい奴らが喧嘩売ってくるから上手いことかわしながらズドンと術を放つのが俺の仕事」
ロゼの説明にマアルが慌てて「す…すみません」と言う。
正直孫が厄介ごとに巻き込まれたら祖母は面白くないだろうと思ったのだろうがティナは「は?何謝ってんの?マアルだって生まれた時にお祝いして抱っこまでしたサミアの子よ!言わばこの私の孫よ!変な男?許せないわ!」と吠えた。
「え!?」
「うわ…婆ちゃん怖いんだよ」
「ロゼ」
「…うん。わかってるよ」
「言いなさい。わかるなら言いなさい」
「完璧にやり切ってマアルに恥はかかせません。エスコートもダンスもやり切ります。喧嘩売られても軽くあしらいます。それから術で相手を黙らせます。可能なら剣でも圧倒してきます」
「足りない!」
「えぇ!?後何があるの!?」
「マアルを楽しませる!喜ばせる!幸せな誕生日にさせてあげるのよ!返事!」
「はい。了解です」
ティナはロゼの返事にニコニコとするがロゼが「…全部の婆ちゃんに会うなんて言わなきゃ良かった」と続けた所で目を丸くした。
「は?全員に会ったの?ローサ様とはさっきよね?」
「うん。昨日はソリード婆ちゃんと山婆ちゃん」
「山ってアンタ…。ミチト君がよく許したわね」
「しつこく頼んだ!今回のパパと過ごす日を最後だから1番沢山のことをするんだよ」
「だからここにも来たのね。まあ頑張りなさい。まったく、ほらお茶飲んで」
「あ、スカロおじさんのケーキ持って来たから明日食べてよ」
「ありがとう。マアル、この子こんな感じで無茶ばっかりするから見守ってやってくれない?」
「え?私がですか?」
「迷惑じゃなければでいいのよ。さっきから名前の出てる山のお婆ちゃんってミチト君のお母さんだけど、仲が微妙なのよ。ほらカラーガならナハトって弟は知ってるわよね?あの子が生まれるからってミチト君は自分は邪魔だって家を出たのよ」
実際ティナは全てを知っているがロゼの手前言葉を選ぶ、そして何も知らなかったロゼは「あー、それで山婆ちゃんはパパのご飯とか食べたら泣いてたんだ」と言った。
ティナは流石にロゼがやりすぎているので「…あんたワザとにしてもキツイことしてるからね?」と注意をする。
ロゼは仕方ないという顔で「前にナハトおじさんの受勲式で「また来てね」って言われてから行ってなかったから行きたかったんだよ」と言うとティナは呆れ顔で「ほら、これよ。マアル、頼める?」と言い、マアルは「はい!頑張ります!」と言った。
ティナはマアルの真面目さに「頑張ると疲れるからダメな時はダメで良いのよ」と言うとマアルは結局真面目に「はい!」と返事をした。
ティナの話がひと段落した所でデイブが「お、お迎えみたいだよロゼ。見ておいで」と話しかける。
「爺ちゃん?わかるの?」
「何となくさ、ずっとミチト君達が飛んでくるから空気の違いがわかる気がするようになったんだ」
ロゼが見に行くと確かにメロは来ていて「お待たせ」と言う。
「メロ、来たら大変なことになった」
「大変?」
「まぁ!毎回本当に綺麗なドレスよメロちゃん!」
「ありがとうティナお婆ちゃん」
「本当、綺麗だねぇ」
「ありがとうお爺ちゃん」
「それで?ロゼの大変って何?」
「この子、マアルの誕生日に自分から行きますくらい言えばいいのに言わないのよ?腹立つじゃない」
「あはは、ローサお婆ちゃんにも同じ事で怒られたよね。ソリードお婆ちゃんにも聞いてみる?」
「…やだ」
「ふふ。じゃあ遅くなるとサンクタ様が心配しちゃうから帰ろうか?」
「うん」
「メロお姉ちゃん?父上が心配?」
「あ、見る?」
そう言ってメロが見せたのはソワソワキョロキョロしながら素振りをするサンクタの姿だった。
マアルは父のそんな姿を知らなかったので「父上…」と言って驚いた顔をする。それを見たメロが優しく「サンクタ様はマアルちゃんが困らないような誕生日を考えてくれているからね」と言って微笑む。
「はい。ありがとうございます」
「じゃあ送っていくよ」
「ロゼ、メロも一緒に飛ばしてよ」
「いいよ。でもまだ手を繋がないと上手くいかない気がするんだよな」
「最初だからね。メロもそうだったよ」
「そっか。良かった。ママとパパもメロも皆手を繋がないでやるから自信なかったんだ。じゃあ爺ちゃん婆ちゃん、また来るね」
「はいはい。本当慌ただしいのはお父さん似ね」
「またおいで。マアルさんまたね」
「はい。お邪魔しました」
挨拶が済むとロゼはメロとマアルと手を繋いで転移術を使った。
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