第32話 イブとの野獣の日02。

母エスカはミチト達の来訪に「ミチト!イブさん!ロゼくん!」と喜び、後ろにいた義父ミトレが「今日はどうしたのかな?」と聞く。


「あー…30分だけお世話になります」

「こんにちは」

「急にすみません」


そもそもの始まりは妻ごとの日を設けて3日ずつ過ごす中でイブとロゼが最後になって、ロゼは他のきょうだい達がやった事をすべてやる勢いでいて、シアがここにきた事を聞いて自分も会いに行きたいと言った話をする。


あらあらあらと喜ぶエスカが30分なんて言わずにもう少し居なさいと言いながら「お昼は?」と聞く。


「少し早めにナー・マステで魚を食べました」と言うとエスカは残念そうに「煮込みが2日目で味も染みてるのよ?」と言う。


ミチトは困り顔で横を見るとイブは飯の顔になっていて「ミチトさんのお母さんの煮込みシチュー…美味しそうです!」と言う。


ロゼはここで母が本格的に人前ではイブなのだとわかると徹底さに驚く。


「ふふ。煮込みシチューが好きなの?」

「はい!ミチトさんの煮込みシチューも最高です!」


「あら、ミチトは料理もできるのね。…ごめんなさいね。そうよね。村を出て独立していたんですものね」

エスカが涙目で謝るとどうにも居心地が悪い。

ロゼはそれを感じ取って「ママ、お使いしてきてよ」と言う。


「ロゼ?」

「ママは鍋ごと食べちゃって山の爺ちゃん婆ちゃんのご飯が無くなるからパパの書状持って王都まで行ってステーキサンドを買ってきてよ」


ミチトは話がこじれる事に「はぁ?ロゼ?」と言うがロゼは退かないで「ステーキサンドをジェードと食べたよね?俺も食べたい」とハッキリと言う。


「マジか、イブ頼める?」

「はい!」


「パパ、後はママが食べ過ぎちゃうから山爺ちゃん達にご飯作ってあげてよ」

「え?なんで?」

ミチトの問いに返事をしないロゼは「山婆ちゃんもパパのご飯食べたいよね?」と聞くとエスカも困惑気味に「え?ええ。それは食べたいけど…」と言う。



「うん。パパ、俺も覚えたいから教えて。ママは何食べたい?」

「ハンバーグです!」


「マジか…。仕方ない。ロゼは肉を混ぜるのを手伝えよ?ミトレさん、肉って地下ですか?」

「ああ、昔から何も変わっていないよ。好きに使ってくれ」


「イブ、仕方ないから王都に行ったら果実酒とグレープフルーツ、後は南部の桃とか手に入ったら買ってきて」

「はい!行ってきます!」


ミチトはもう何年も立っていない台所で料理をするとボウルの肉をロゼに混ぜさせる。


そして簡単に煮込むとちょうど出来るタイミングでイブが帰ってくる。


「ステーキサンドと付け合わせのポテトフライを買ってきました!」

「うん。こっちももう出来るよ」


もう出来ると聞いたエスカとミトレは「早いわ」「早くないかい?」と言うがミチトは「釜戸の火力だと弱いから俺が術で火を生んで居たんですよ」と言って手に火を放って見せた。



ミチトはなんとなく困ったがイブもロゼも母も笑顔でテーブルに着くので料理を並べていく。


「煮込みはミチトとイブさんとロゼくんで食べてね。私達はミチトの煮込みハンバーグと買ってきてもらったステーキサンドを食べるわね」


「あー。果実酒とフルーツは土産です。帰った後にでも2人で…まあ気が向けばマロにもあげてください」


イブは煮込みシチューをひと口食べて「美味しいです!」と喜ぶ。

ロゼも「うん。美味しいねこれ」と喜ぶとエスカは「ふふ。良かった」と喜ぶ。


そしてミチトの煮込みハンバーグを食べてエスカは「美味しいわ。それに母さんの味に近い…」と思ったままを口にする。


「まあ、どうしても長く暮らしてたからですよ」

この言葉にエスカは泣いて謝るし、イブからは「ミチトさん、ダメな言い方」と怒られる。

困り顔で「まあ気にしないで食べてください」と言いながら食べた母の煮込みシチューは懐かしい味がした。


食事が進み気が紛れてきたエスカが「ふふ、イブさん、今度煮込みシチューをご馳走するって言ったら食べにきてくれる?」と聞くとイブは「はい!きっと今日のもライブに自慢したら羨ましがられます」と返事をする。


「あらあら、じゃあ楽しみにしててね」

「はい!」


「ママ、ソリード婆ちゃんにも同じ事言われてたよね?」

「ソリードさん?」


出来る事なら黙って居たかったソリードの名前が出てきてミチトは「麓のズメサで俺を鍛えてくれた師匠の奥さんです。ナハトも拳術を少しだけ仕込んでもらったそうですよ」と言う。

ここでまたエスカが申し訳なさで泣こうとしたのでその前に「そうだ。ひとつだけ言いますけど、ナハトの奴が調子の良さで周りに迷惑をかけてますから」と話題を変える。

ミチトの説明にミトレは申し訳なさそうな顔をする。


「ミチト、ナハトはアクィさんの実家でお世話になっているのね?本当は行ってお礼と謝罪をしたいけどご迷惑だろうからミチトからも謝っておいてね」

「ええ、そうします」


ミチトは話が長引かないように伝えたい事だけを言う。


「そうだミトレさん、フォームからガットゥーって行けます?」

「南部のガットゥーかい?直通は無理だけどジャックスで馬車を乗り換えればガットゥーまでは行けるよ」


「じゃあまだ企画段階ですけど剣術大会が開かれるかもしれません。そこで第三騎士団員としてナハトが出場するかもなのでその時は行ってあげてください」


これにミトレとエスカが喜ぶ中、「長居し過ぎました。また来ます」と言ってさっさと帰ろうとするとエスカはミチトの手を取って「来てくれてありがとう。また来てね」と言う。


なんとも言えない気持ち悪さの中でエスカはイブにも「イブさん、また来てね。ありがとう。ミチトをよろしく」と手を取って涙ながらに言い、ロゼも「ロゼくんが来たいと言ってくれてお婆ちゃん嬉しかったわ。また来てね」と言われる。

ミチトは見送りを断って外に出ると、折角だからと祖父母の墓に手を合わせてから「ロゼ?次は?」と聞く。


ロゼは「ソリード婆ちゃんの所!」と言う。


「は?」

「コードが手甲を見せたんだから俺もやれる所を見せるんだよ」


「え?ロゼも手甲あるの?」

「ないよ。でも前にパパの無手を見てからママに教わったよ」


「ええぇぇぇ」

ミチトは転移術で降りる距離でもないが転移術で下山をした。

ソリードは突然の来訪に喜びながらもミチトの顔つきが変なことに気づき、何があったのかを聞く。

そこは母以上の母でミチトには感謝しかない。


弟のナハトとの付き合いから親たちに会う回数が増えてしまったことと、調子良く謝られる事に困っていると伝えると「それでその顔なのね?」と言われる。


「ソリード婆ちゃん!コードが無限機関を覚えたから俺はソリード婆ちゃんのパンチを教えてもらいに来たんだ!」

ロゼの言葉にミチトが「は?それなら俺が…」と言うのだが、ロゼに「パパよりソリード婆ちゃんの方が音が綺麗なんだよ」と言われてしまう。


「え?」

「ふふ。剣だの術だのに浮気するミチト君より拳一筋ですからね?」

ソリードはそう言うと鋭い突きを放つと綺麗な風切り音が聞こえる。


「パパが前に出した水人間出してよ」

「良いけど…」


「水人間?」

「水魔術で作る標的です」


そう言いながら出した標的に「ママ、殴ってみて」とロゼが言い、イブが殴る。


「次がパパ」

「良いけど…」


ミチトが殴ると最後はソリードが殴る。


その瞬間、スッ……パァン!という綺麗な音が出る。


「ほら!ソリード婆ちゃんの方が音が綺麗だからこの音が出るようになってから無限機関を覚えたいんだよ!」


この言葉にソリードは「ふふ、ありがとうロゼくん」と嬉しそうにロゼの頭を撫でる。


「ロゼはよく見てるな」

「ふふ。私とミチトさんの子だもん」

そのまま暫くロゼの訓練に付き合うと「パパ、次行こう!次は第三騎士団員を100人倒すよ!」と言い出す。


「はぁ?詰め込み過ぎじゃないか?」

「いいの!それで夜には双六もやるんだよ!」


「まあ。余程楽しみだったのね」

「ソリード婆ちゃんも行こうよ!王都で夜ご飯食べようよ!泊まりが嫌なら俺が送るよ!」


「私も?」

「うん!別荘泊まってよ!」


「ふふ。ありがとうロゼくん。でも別荘は家族3人のお邪魔虫だから…ミチト君、クラシ君に今日泊まれるかと聞いてくれるかしら?」


ミチトがクラシに聞くとクラシもシンジュも大喜びで是非と言う。


「ミチト君、行く前に夜ご飯に用意しておいた煮込みを凍らせてくれない?2日煮込んだから置いていくのは心配なのよね」

ソリードの言葉にミチトが動くより先にイブが「ソリードさん!それ欲しいです!」と言う。


「あらイブさん食べる?」

「はい!」


「ふふ。じゃあお皿は今度…」

「あ、別荘のお皿を呼ぶから良いですよ」


呼び出した別荘の皿に煮込みシチューを貰ったイブはニコニコで「サイコーです!」と喜んでガッツポーズまでしていた。

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