第28話 リナとの野獣の日09。

タシアは大苦戦をしていた。

普通に戦いやすい方法が取れればこんな苦戦はなかった。

だがタシアはミチトの指示に従って新しい二刀剣術だけで挑んでいた。

今は最後のトミーと戦ってるが意識は朦朧としている。


朝から通算で200以上の兵士に勝ち、更に訓練をしてきた。

腕が重くて自分の腕の実感もない。


そしてサルバン騎士団と二刀剣術の訓練は最悪に相性が悪い。


ミチトの二刀剣術を見たスカロも放てるし、アクィとメロも放つ。

防ぎ切る事は出来なくても直撃を防ぎ、ダメージを最小にする事も出来るし、トミーは右手の剣のみに集中して打ち返してきて残りを最小限のダメージに抑え込んでいた。


サルバン騎士団の20人を倒す道のりでタシアは何千と剣を振っていた。

無理矢理二刀剣術で押し切るスタイルのせいで限界は近い。

怒号のように響くパテラの声援すら遠い彼方からの呼びかけに聞こえてしまう。



「タシア、今振るっている剣こそが余計な力のない正しい剣筋だ」


タシアの中にミチトの声が聞こえる。


「限界の上に行け、その手を止めるな、最小の力で最大の動きだ」


お父さん?

タシアがそう思った時にも「撃て!最小の力で休まずに剣を振り続けろ!」と聞こえてきてタシアは朦朧としながらも「最小?休まずに?休むなって息を止めないと二刀剣術は撃てないよ」と思うが「それだ、息を止めるな呼吸をしながら剣を振るうんだ」と返事がくる。


傍目にタシアは限界でパテラは声援を送りながらミチトに「ぬぅ、止めさせるべきか?」と聞いていた。

ミチトは笑顔で「いえいえ、ここまで追い込んでもらいたかったんです。ここからですよ」と言う。


「スティエット?」

「俺とリナさんの息子のタシアがこんなもんではないという話ですよ」

それは普段のミチトならしない顔だった。


タシアは今まではミチト式の十連斬を4回放つと呼吸を整えていたがそのタイミングが無くなってくる。


「ほら、変わってきた」

「呼吸が…止まる?」


「違いますよ。呼吸しながら自然に剣を振るっているんです」

「…あれだけの剣を息をしながら?」


「余計な力が抜けたから放ててるんですよ。まあ俺も自主練で10分振り続けられましたからいけますって」


目を丸くするパテラを無視してミチトは「タシア、それは名付けるなら二刀剣術無限斬だ。それでトミーさんを蹴散らせ」と指示を出すとタシアは朦朧としたまま前に出てトミーを蹴散らしてしまった。


剣を降ろしてふらつくタシアを抱きしめて「良くやれたね。流石だよ」と声をかける。


「お父さん…疲れたから出来たけど大変だったよ…」

「そうだね。でもやれて立派だったよ。ありがとうタシア」

ミチトの感謝にタシアは不思議そうに「ありがとう?それは僕だよ」と返す。


「そんな事ないさ、少しだけヒールを使うから元気になってリナさんに手を振りなよ」

「うん…」


復活したタシアはリナに手を振って「お母さん!やれたよ!」と言う。

リナも「見てたよ!凄いよ!」と声を返していた。


ここでナハトが前に出て「お兄さん!タシア君!その力で手合わせをしてくれないかな?」と申し出る。


ナハトは愚かにも申し出ていた。

ミチトはただでさえナハトの調子のよさに苛立っているのに疲れたタシアに無限斬を放てと言う。

一気に苛立ったミチトが「はぁ?ナハトお前、タシアは疲れて…」と注意をするのだがタシアは「やるよ。お父さん、見てて」と言って剣を持った。


ミチトはタシアがやると言った以上我慢をしながら「…ったく。ナハトあんまり調子に乗るなよな」と言った。



ナハトとタシアの「よろしくお願いします」の掛け声の後でタシアは一気に前に出ると「二刀剣術!無限斬!」と言って覚えたばかりの無限斬を放つ。ナハトはなんとか前に出てタシアを止めて蹴りの一つでも放とうとしたが力自慢のタシアの前には打ち返す事も叶わずに勢いに負けて剣を粉々に折られてしまって訓練場を転がっていた。


「ありがとうございました!」

そう言ったタシアはミチトの元にくると「お父さん、この技強いけど乱発は辛いよ」と感想を言う。


「そうだよね。だから普段は使わないんだよ。それに一対一ならいいけど乱戦でこれ使ってて後ろから撃たれたらアウトだからね」

「本当だ。でも新しく覚えたから大事にするね。ありがとう」


タシアが終わり、シアとコードは好きな動きでメロとパテラのやった奪い合いをさせるとシアは剣の振りすぎで疲れていて12対8でコードが勝ってしまった。


ここでナハトがまた面倒な事を言い出す。

「お兄さん!」

「何?剣なら直してやるよ。今使ってたこの前作った四つ腕魔神の剣と同じ剣だろ?」


「それ以外にもお願いがあるんです!メロ!メロからも頼んでよ!パテラ様も是非!」


ナハトの調子の良さがドンドン発揮されてミチトは物凄く嫌そうな顔をする。

だがメロとパテラ、そして騎士団の話という事でアプラクサスからも頭を下げられた所に「お父さん、僕がナハト叔父さんの剣を粉々にしたから僕からもお願い」とタシアに言われてしまい「ナハトぉぉ…」と恨み言だけ言いながら話を聞く事になる。


それはナハトの剣の問題で5歳の時に持った四つ腕魔神の剣のイメージがあるせいで大きい剣が欲しい、使ってみたいと言うもので、話を聞いたミチトが「…それグレイブと剣の間ぐらいの奴か?」と聞くと頷く。


「お前…腰が悪かったの忘れたのかよ…」

「でもやはり剣が大きく肉厚になる度に安心感が違うんだ…」


そう言って面倒くさい事でも頼んでくるナハトにミチトは苛立っていく。

本来、剣はオーダーすれば高価になるし、時間も待たされる。

それをこんなに簡単に頼んでくる姿にミチトは「コイツ…やっぱり親に似ててヤダ」と言った。


「どうしたスティエット?熱心な若者ではないか?」

「は?何処がですか?調子が良いんですよ!図々しいんですよ!」


このやり取りを見ていたリナは本格的にミチトの機嫌が悪くなる事、折角ナハトと生まれた付き合いがダメになる事を危惧してヒノにボヤくと「…はぁ…」とため息をついて「任せなさい」とヒノが言って前に出た。



「ミチト、ごめんなさいね」

よそ行きのヒノの言葉。


「は?」

「それもこれも全てはサルバン跡取りの為、サルバンが無事に子を授かる為に闘神の弟に滞在をしてもらう為に必要な事。あなた、軽神鉄をお持ちして」


「あ…ああ。わかった伴侶のヒノ」

スカロは困り顔で屋敷に入るとすぐに両手に軽神鉄を抱えてやってくる。

ミチトも知らなかった軽神鉄の量に「げ…、何その量」と言ってしまう。


スカロは誇らしげに「スイーツ代金のワイバーンを狩った時に手に入ったらしい。是非この軽神鉄に免じてこれからもスイーツを送り続けてほしいと言われた」と説明をする。


「…え?スイーツはサルバンの学校の分も…」

「送っている。ようやく安価で天空島の皆の口にスイーツが届くようになった」


ここでヒノが「天空七部衆さん…今はスイーツ応援隊の皆様も我々の娘、エンバーが嬉しそうに売り子をするからこれからもと言って軽神鉄をくださるのです」と続ける。


「マジかよ…エンバーが喜ぶなら良いけど七部衆は威厳とかどうしたんだよ?」

「軽神鉄はあまり外に出して良い金属でもありませんし、貯まる一方だったのでこれで弟さんの剣を作って差し上げて」


ミチトが壮絶に嫌そうな顔をした瞬間を見逃さずに「勿論、サルバンにいる間にものの頼み方から調子のいい態度を改めるような躾を私が本気ですると誓うわ」とヒノが言った後で小さな声で「調子のいい人間なんて気持ち悪いわ、性根を叩き直してあげる」と言うのでミチトは機嫌を直して「それなら」と言って肉厚な剣を二振りつくる。


「四つ腕魔神の剣と同じ重さまで軽神鉄を使った」

そう言って渡された剣は小さな子供…コードが隠れられる程大きくて手に取ったナハトは「凄い…、理想的な剣です」と言って素直に喜ぶとメロに「タシア君は疲れちゃってるから頼めないかな?」と言い、メロが二刀剣術を撃ち込むがナハトはこれまでと違い、剣に更なる信頼を寄せて防ぎ切る。

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