第27話 リナとの野獣の日08。

別荘の建て替えに関してリナが申し訳なさそうにした時、モバテがミチトに頼みたい仕事があった事を言う。


「え!?この前は訓練と泥棒退治の御礼って!?」

「ああ、陛下も溜まりに溜まった御礼でいくらでも支払うと言ってるさ」


「ならなんで?」

「純粋にお願いがあるのです。ミチト君にしか頼めません」

「言い出したのはアプラクサスで陛下が真式様に頼んでいるんだ。真式様はミチト君に意見を求めていてね」


「…え?シックさん?アプラクサスさんのお願い、真式?エーライさん?それ絶対大変な奴ですよ?何をしろと?」

その願いは消失したオオキーニの禁術書を復元して欲しいと言うものだった。


「なんでそんな物を…」

「平和の為です。禁術書にあれば真式様に談判する者もが減ります」


「談判?」

「なんでも真式様ならミチト君よりも籠絡出来そうと思っている輩がいる様で、ロキ・ディヴァントや金竜様達がいる時は止めて貰えるのですが、あの方も1人の時間が必要なようで国営公園なんかで日差しを浴びたり、思い出の地にフラッと出かけた際にそこの領主に頼まれたりすると…」


「マジか…」

「まあ即答は陛下から禁止されている事になっているから王都に帰ってきてから「なんか今日も戦争で失った右手をなんとかって人に頼まれて困っちゃったよ〜」と言ったりしているそうだよ」


「あー…、だから禁術書にして「禁術だからダメ」「禁術書を読んでやれるもんならやってみろ」にしたいんですか?」

「ああ、そうなる。その形で真式様を守る代わりに私から陛下と相談しアプラクサスとシックに命じたのは、真式様には毒呪術なんかの民に危険の及ぶ術が国内で無闇に使われた場合には止めたり我々に通達出来る様にする事だ」

ミチトは一瞬考えた後で「…家族との日に言います?」と言うとモバテが「渡りに船だったんだよ」と言って少しだけ申し訳なさそうに笑う。


「ミチト、考えてあげようよ。前から悩んでる事にも使える話だと思うよ?」

「リナさん…」


「ミチト君?悩みとは?」

「俺の死後…、いえ、俺が衰えた時の話です。真式達や1000年前の人達、トウテの皆、孤児院の子供達を付け狙う連中からの守り方を考えてました」


「今の所のお考えは?」

「まだ遠い未来ですが孫達にはスティエットを名乗らせません。スティエットというだけで何かを求められて応えられればまだしも、失敗する場合もある。人は慣れればやれて当然と言います。だから出来ない事ややりたくない事から逃してあげたいんです。そうする事でトウテや孤児達に手を出してもスティエットは何もしないと思わせたい」


「その話ぶりだと真式様達の事は悩んでいたんだな?」

「ええ、どうしても変化術を持ってダンジョンを操作できる存在は引く手数多です。

ラージポットみたいに各貴族の領土側の空白地帯でアプラクサスさんが手を回して放棄させた土地ならまだしもバグ領のリトルハットなんかは俺が衰えたら悪意を持って迫られますよ」


「では禁術書を書く代わりに治外法権を認めさせてはどうでしょう?」

「それも今の話で考えましたが書き残したくない術もあります」

ミチトの渋い表情にモバテが「それでいいぞ」と即答をする。


「え?」

「今、この件で立場が上なのはミチト君だ。これは残していい、これはダメだと決めてもらって構わない。全部の術を知らないのだからこれだけと言えばそれでいい」

このモバテの言葉に救われて表情を柔らかくしたミチトにリナが「良かったねミチト」と言った。


ミチトは「…はい」と言って微笑んだ後で少し思案して「では真式の術からは確定術は外します」と話し始めた。


「ミチト君の術は?」

「…直結術と改竄術は絶対に載せません」


「ほう、余程戦いの術を拒絶すると思ったのだが…」

「あれは別に真式の禁術書にある術より一般向けだから逆に残します。超熱術よりインフェルノフレイムの方が覚えやすいくらい書きますよ。超熱術なんて発動失敗したら辺り一面蒸発させますけどインフェルノフレイムは良くてファイヤーボールがインフェルノフレイムの形になるくらいで、悪くてただの術切れで不発です。タチが悪いのは直結術と改竄術ですよ。本来の直結術は術者が術を肩代わりして相手のイメージで術を放ちますが、逆も可能で勝手に繋げて相手の術を使って撃つことも出来ます。仮にバロッテスくらいの奴なら無理矢理街一つの人間を繋げれば超熱術くらい撃てます。改竄術は勿論洗脳にも拷問にも使えますから絶対にダメです」


ミチトの説明にモバテが「了解した。家族の日が終わって手が空いたらよろしく頼む」と言って話を終わらせようとした時、ミチトは「あ、後一個お願いって聞いて貰えますか?」と言った。


モバテより先にアプラクサスが「言ってください」と言うとミチトは「ザップさんを立会人にしたいんです」と言った。


「ほう、だが彼は表舞台を嫌うだろ?」

「…もう少し先ですが、ザップさんは蒼色と共に紺色達と万命共有をします。

蒼色は双子の紺色と命を共にしたいと言い、ザップさんはそれに付き合うと言いました。

守る為にも、古代語の為にも何か出来ないかと考えていました」


「だから禁術書に関わって禁術書を守る者としての立場を与えたいのですね?」

「だが…今の話では下手をすると海底都市の朱色さんと付き合っているヨシ・ディヴァントはどうなる?」


「…将来、万命共有を望まれれば施します。まだローサさんやロウアンさん達とは話してませんがきっと皆予想や覚悟はしてるはずです」

「成る程な、了解した」


ミチトからすれば色々と片付いてくれて良かったと思っていた。

兄弟子のザップを助けたい気持ち、自身の衰えた後の心配。その全てが今片付いた事は感謝しかなかった。


今度はアプラクサスが話を終わらせずに「ミチト君、一つ聞いて良いですか?」と言った。

「なんですか?」

「万命共有は外せないのですか?」


「外せますが基本的に術者が外すしかないので…最初は俺がかけたとしても俺の死後、真式が現役なら真式にかけてもらいます。後は…」

ここで目の前で真剣な表情で話を聞いていたメロが「パパ、メロだね?」と言った。


ミチトはメロを見て「うん。メロとアクィには禁術の数々…万命共有も改竄術も直結術も授けたからね」と言って微笑んだ。

それは普段のミチトからは考えられない事でシックが正気を疑うように「ミチト君!?」と聞き返す。

シックの質問のかわりにメロが「パパ、なんでメロには授けてくれたの?」と聞く。


ミチトは穏やかな表情でメロを見て「メロを信じていたし、その力で幸せになって貰いたかったんだ。そして俺と一緒に生きてくれたメロを見て、メロが希望になってくれたから俺はリナさんと願ってタシアを授かった。アクィとラミィを願った。そこから始まって残りの子供達を授かった。メロを見てタシア達の訓練もやるようにしたんだよ」と言った。

メロはミチトの気持ちを理解して泣いていた。泣いて「うん。ありがとうパパ」と言った。


「メロはパパの娘として恥ずかしくない生き方をする。力の間違った使い方をしないようにするね」

「ありがとうメロ。ごめんね」


「メロ、ありがとうだね」

「お母さん?」


「メロがいい子だからタシア達に会えたしタシアはあんなに強くなったんだね」

「…照れるよぉ」


真っ赤になったメロを見て皆で微笑んだ後でミチトは「タシアと言えばそろそろかな?」と言う。

リナが「ミチト、何を教えるの?」と聞くとミチトは「とっておき」と言って「メロも見ておいてあげてね」と言うと立ちあがってタシアの元に向かった。

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