第25話 リナとの野獣の日06。

シアが戻るまでタシアにアルマを任せるつもりだったがアルマはすぐに根を上げた。

まあ、強制的に身体強化を行う腕輪を装着していれば仕方のない話だったが、ここで真価を発揮するのがパテラで「よぉぉっし!喜べ弟よ!ここで振るう一太刀は万の太刀に匹敵するぞ!」と声をかけて振るたびに褒める。


「タシアぁぁっ!遠慮なんかはしていないな?」

「してないよ」


タシアは遠慮なく剣を撃ち返し、アルマは3回に2回は吹き飛ばされてしまう。

だがパテラがその度に「ならば弟よ!お前には戦士の心が根付いているぞ!立て!剣を振るえぇぇっ!」と励ます事で目に力を取り戻したアルマはシアが戻るまで訓練をやり切っていた。



訓練場で大の字で力尽きるアルマに「良くやったぁぁっ!どうだ!限界か!?」と声をかけるパテラ。

アルマはやり切った顔で「……はい…」と答えるのを見てミチトは「うわ…やる気だよあの人」と言った。


サンクタが「闘神?」と聞き返し、ミチトが答えるより先にパテラは「ノルアぁぁっ!今こそ兄と姉の本懐!アルマと走り込みをするぞ!道案内を頼む!」と言い、目を輝かせたノルアが「はい!行きますよアルマ!」と声をかける。


アルマは気絶すら許してもらえない感じで走り出す。

一歩を踏み出すたびに褒められるアルマ。

それでも肉体の限界に倒れ込みそうになると最後にはわざわざカラーガの街や農地を回って「未来の領主は皆の為に朝からずっと訓練をしている!限界を超えても皆の為と今も息も絶え絶えで走っている!皆は心健やかに暮らしてくれ!」とパテラが言い、ノルアも頷いてから「見事です!アルマ!私はパテラ様の元に嫁ぎカラーガの未来が心配でしたが、あなたになら任せられます!」と言うことで本当だと知った領民達からの「アルマさま!」「お若いのにありがとうございます!」と言われて引っ込みがつかなくなって走り切っていた。


ミチトはサンクタに術でその状況を見せながら「あれがパテラトレーニングの恐ろしいところですよ。本人はノリノリで訓練するから子供達もやり切るんです」と説明をされたサンクタは「…サルバン…敵わない」と言った。



シアが戻るとミチトは「お待たせ、シアとの訓練だね」と声をかける。

シアは嬉しそうに「うん!何ができるの?お洋服の採寸しながらメロが羨ましがってたよ」と言う。

ミチトは「まずはね」と言って始めたのは術の訓練で、やはりシアも術量さえ何とかなれば術を撃つことが出来た。


「どう?術を使う気になる?」

「んー…まあ牽制とか剣に乗せては使いたいけど離れた敵相手なんかは普通のファイヤーボールとかでいいかも」


あくまでリナとの子供らしい堅実な意見。

時にはジェードのように創意工夫で術を追う事も必要だが、タシア、シア、コードのように自分に適したスタイルを見つける事は決して間違いではない。


嬉しそうに「言うと思ったよ」と言ったミチトは「じゃあシアが欲しいのはコレだよね?ちなみに昨日のジェードはコレだよ」と言いながら身体強化と滑走術を教えた後でジェードが放った滑走十連斬を見せる。

これにはシアが「え…ジェード…凄い」と思わず口にする。


それを見てミチトは「さて、メロ。シアの隠し球も出してよ」と言うとシアが驚いた顔で「え?お父さん?知ってるの?」と聞いてくる。

ミチトは嬉しそうに「いや…シアの戦い方を見てたら何となくね」と言って人差し指を天に向けてクルクルと回していた。


「もう、パパってば」

「まあまあ、エクシィさんに頼んだの?良くやってくれたね」


「そんな事ないよ。もっと頼めって言ってたよ」

「マジか。今度お礼言わなきゃ」

メロが出したのはレイピアで、それをシアに渡しながら「アクィに習ったんだね?普通の十連斬に動きが出てたよ」という。


「うん。お父さんが教えてくれるの?」

「まあね。その剣を基にシア用に合わせた剣を作って、こっちが今日の練習用だよ」


新たに作られた剣を受け取るシアは振り回して変な顔をする。

「グニャグニャだわお父さん」

「うん。軟鉄だからね。それでこれ」


ミチトが用意したのは巨大な土の塊で「二刀剣術で斬ってご覧」と言う。


だがシアの剣は真っ直ぐ入らない。

想像と違う結果にシアは「お父さん?」と言う。

ミチトは「うん。まだ剣がブレるんだよ。貸してご覧」と言って剣を受け取ると、全く同じ剣なのにミチトが二刀剣術を放つと土の塊を細切れに変えてしまう。


「切れる…」

「真っ直ぐ振るえば切れるよ。まだシアは手首の力で無理矢理何とかしようとしてるからそれを止めるための訓練だよ。余計な力が抜けたらさらに鋭く、さらに速くなるよ」


この説明にシアは嬉しそうに剣を受け取って連斬を放って行く。

「あー、折れたら直すけど刃こぼれくらいなら勝手に直るから気にしないでいいよ」

「ありがとうお父さん!」



シアの楽しそうな顔にメロが「パパ、ズルい。メロには?」と言って口を尖らせる。

とても可愛い愛娘の顔に微笑んだミチトは「メロはいつもどの課題もクリアするからなぁ」と言って少しだけ困った顔をする。


「え?」

「メロはどの術を授けても壁にあたらずにやり切るだろ?」


「え?無限記録盤…」

「そうじゃないよ。才能だよ」


「そっかぁ…。じゃあ最後にサルバンで本気の訓練してくれる?」

「いいよ。タシアの訓練もあるしね」


「タシアって何するの?十分強いよね?」

「んー…何となくタシアならやれそうな気がするのがあるんだよね」

そういってタシアの話を始めた所で呆れ顔のリナが「ミチト、タシアは後にしてナハト君迎えに行ってあげなさいよ、もう4時間だよ?」と注意をする。


「え!?あ!ナハト忘れてた!」

ミチトはシアに頼んで着いてきて貰ってエスカの相手を任せる。


シアは「お婆ちゃん!こんにちは!」と挨拶をして「あら!シアちゃん!こんにちは!来てくれたの?」と喜ぶエスカと握手をする。


ミチトは何とも言えない気持ちで老けた母を見てしまう。

正直、見ると過去の遺恨を水に流してしまいたくなる。

だが、実父が苦しんだ過去、自身が苦しんだ過去を思いだすとその気持ちを素直に受け入れられなくなる。


ミチトは出てきたナハトに「ごめんナハト、遅くなった。サンクタさんがアルマとマアルの訓練を頼んできたんだ」と声をかけるとナハトは「ううん。平気です」と返す。


ナハトはまたミチトに頼んで会いに来ると言い「お前、自分で来いよ?」とミチトが突っ込むが「訓練の時間が減るのでよろしくお願いします」と言われてエスカとミトレに似た調子の良さに「お前、調子いいよな?」と少しムッとしながら突っ込む。


シアもミチトの機嫌を取るのが上手い。話がこじれないように「ほらお父さん、次行かないと、まだ訓練終わらないんだよね?」と声をかけるとミチトは「あ、そうだった。タシアの訓練がまだなんだ」と言ってさっさと挨拶を済ませるとカラーガに帰るとタシアが首を長くしてミチトを待っていた。


シアは早速軟鉄剣を持って土の塊に斬りかかる。


パテラは走り込みから帰ってきていてシアの訓練内容を聞いて羨ましがっていて、ノルアはアルマを風呂に入れてベッドに寝かしつけて居るという。


「あ、もう筋肉痛が始まったんだ…」

「スティエット、ヒールはしてやらんのか?」


「本人の為にならないからやってもマッサージ止まりですよ。それはカラーガの人達でやればいいんです。サンクタさん、アルマがやる気になればやらせてもいいですけど無理させると怪我をしますから気をつけてください。マアルさんは出来れば休みなしで毎日10分でも弓の練習をさせてください。また何かの時に進捗を見にきます」


この流れにシアが「お父さん?」と聞くとミチトは「シアにはまた塊作ってあげるよ。タシアの訓練はサルバンの方がいいんだ」と言って帰る話に持って行く。


ドレスは出来ていてメロがそれを収納しながら礼を言う。

アルマを寝かしつけたノルアが戻ってきて「次ですね」と言って燃え上がった後で「父上、母上、また来ます。マアル、カラーガをお願いします」と言うとイシホも「平気よね」と言う。


モバテ達は「こんなにゆっくり出来ると静養にきたみたいだな」と言いながらサンクタ達に邪魔をしたと言ってサルバンへと行く。

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