第18話 ライブとの野獣の日09。
ライブはやや荒れている。
間違った事をした気はない。
あのままジェードを見逃せば必ず大惨事は訪れて、必ずジェードの傷になる。
だから有無を言わさずに殴った。
だがあの目、そして立場だ。
自身も妻の立場で理解している。
ミチトの最愛、リナには何をしても敵わない。
イブとは同じ時に生み出された術人間だが無限記録盤との相性があるせいでどうやっても追いつかない。
そしてアクィはミチトの愛を受けて究極の術人間になった。
序列があれば自身はビリだ。
子供達もそれを肌で感じている。
だからこそジェードは動けた事を喜び、ミチトに力を見せたかったのだろう。
それはわかるがあの行為は許されない。
そして今、目の前で暴れ散らかす義理の妹で義理の娘、メロは小さなミチトそのもので術と剣技を駆使している。自分にハンデを用意していて騎士団員相手では身体強化をしない、いきなり無力化を行わないと決めているようで少し大変そうに見える。
そのメロと自身の実力は拮抗していると皆が言うが嘘だ。
明らかに成長度のせいか、はたまたシヤのような真模式なのかも知れない関係で一段上に行かれた実感がある。
「イシホ!指示出しが甘いよ!第一騎士団に合わせな!」
「はい!5人1組で攻めなさい!」
「イイーヨとイイダーロも入んな!」
「うっす!」
「入ります!」
メロは容赦なく第一騎士団を無力化していく。
逆を返せばここで油断をすると畳み込まれる事を自覚している。
「くぅ…辛っ…」
メロは口では辛そうだが顔は笑顔で訓練を楽しんでいる。
メロは今、正直ジェードが気になるがミチトとライブが居るし、ウシローノも行ってくれたから何とかなる。
今はこの不機嫌な姉であり母である存在の機嫌を取り成す事に本気を出そうと思っている。
戦いのリズムはお互いが奪い合って居て痺れを切らしたイシホがイイーヨとイイダーロを前に出して穴を埋めるように第一騎士団を配置する。
「メロは更に本気で行くからね!身体強化!」
メロはイイーヨ達が入った事で身体強化を行う。
第一騎士団は紙切れ同然でイシホは「防御を優先しなさい!せめて二度目までは防ぐ!」と言って第一騎士団に防がせている間にイイーヨとイイダーロがメロを倒す事を期待した。
だがそれもうまく行かず、気づけば第一騎士団は全滅していてイイーヨとイイダーロは肩で息をしていた。
「ライブお姉ちゃん、戦おうよ」
「へぇ、そんなヘトヘトで私に敵うとか思ってる訳?」
これだけで訓練場の気温が下がって空気がビリビリと震える。
だがそこに走ってきたのはジェードの手を持ったウシローノで「待ってください!それは後で勝手にやってください!」と言ってジェードに「身体が忘れる前に動く為にも今すぐにお願いします!」と言っている。
ジェードは困惑の顔で「えぇ…」と言っている間にベリルと訓練しているミチトの事も連れてくるウシローノはベリルの腕が赤紫になっているのを見て「凄い!僕にもその訓練をお願いします!」と言いながら2人の手を取ってジェードの前に連れてくる。
「さあ!ジェード君!お願いします!」
ウシローノに危険なスイッチが入っている事を理解した妻のイシホが「ウシローノ君?あなたジェード君を慰めに行ったんじゃないの?」と聞くと「いえ!ジェード君は僕の理想の兄弟弟子です!訓練をして貰いました!彼の言葉と行動に僕は光を見ました!」と返してジェードに早くしろとせっつく。
ライブが引き気味に「えぇ…?ウシローノ…アンタうちのジェードに何したの?」と聞き、ウシローノが答える前にミチトがわざと圧を出して「…まあそれは後だ。ジェード?」と言いながらジェードを見るとジェードは真っ青な顔のまま頭を下げて「ごめんなさい」と謝る。
「パパの子供で1番弱いって思われたくなくて出来ることを全部しようとしました。ごめんなさい。術が使えないって思われたくなかったんだ」
ジェードがようやく自分の気持ちを口にした事でライブはホッとひと息つくと「バカ、誰も気にしてないのに気にしすぎなんだよ」と言う。
「それに何?ウシローノと訓練してたの?」
「うん。ウシローノさんに色々教えてもらった。俺はウシローノさんとやれる事をやって強くなるよ」
そう言ったジェードの顔は晴れ晴れとして居た。
ミチトはその顔を見て喜びを前に出さないように「ジェード、忘れるな。力を持つ覚悟。人を傷つける覚悟、恨まれる覚悟、仕返しをされる覚悟、家族を狙う奴らが現れる覚悟をしてから力を放つんだ」と言った。
その言葉はかつて自信も覚悟も何もなかった15歳の自分が師匠のフォル・マートから貰った言葉だった。
「…うん。頑張る。まだ良くわからないけど、力自慢の為に戦ったり使ったりしない」
この答えにミチトとライブの気が済んだ事を察したメロが前に出て「ジェード、じゃあメロと殺しかけたコルゴ・メイランさんに謝りに行こう」と落とし所を見つける。
コルゴはメロが名前を知って居た事に浮き足立つ。
そのコルゴの元に向かいながらメロがこそっと「サルバンにお砂糖を売ってくれてるから謝っておきたいんだよ」と言われてジェードは「殺さなくて良かった」と冷や汗をかいた。
「メイラン様、叔父達がお世話になっております。この度は甥の不始末で危険な目に遭わせてすみませんでした」
メロが頭を下げるとジェードも合わせて頭を下げる。
この謝罪には何個かの意味がある。
ライブやミチトが謝れば、メイラン家が何も言わずともキャスパー派の残りカスが何を言い出すかわかったものでもないし、ジェードが謝っても同じになる。
そしてサルバンに迷惑をかけるわけにもいかない。
そこでメロが謝る事で丸く収めてしまおうという意図があった。
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