第12話 ライブとの野獣の日03。

2日目にジェードは少しワガママを言う。

それはこの4人家族の家に人を招きたいと言うもので、ミチトが聞いてみるとほぼ全員が昼間は用事があるから夜にご飯にしようと言う話になって、来られたのはアプラクサスとシックだった。


「こんにちは。こんなお爺さんが来てつまらなくないですか?」

「やあ、お招きに預かったよ」


「アプラクサスおじさん!シックおじさん!こんにちは!」

「こんにちは!!」


「すみません、ジェードがどうしてもお招きしたいって言うんです」「皆忙しかったけど平気?」と言ってミチトとライブが心配する中、アプラクサスとシックは子供達に手を引かれて着席させられるとお茶とお茶菓子が出てくる。


そして一階から新しく仕入れて貰った木彫りの人形とその人形用のドールハウスを持ってきて説明して見せるとシックが「そう言えば15人で寝泊まりするには狭くなったよね。横の土地も押さえてあるから建て直さないかい?」と提案してアプラクサスが「ええ、お金に関してはなんの心配もありませんよ。第三騎士団の訓練のお礼や泥棒退治などのお礼でもありますから良かったら受け入れてください。メロさんももう18歳、いくら家族とはいえ寝姿を晒すのは恥ずかしいでしょう」と言う。


これにはミチトもライブも感謝を伝えてこの野獣の日が終わったらお願いする話になった。

素直に好意を受け入れるミチトにアプラクサスが「では取り壊しの日はミチト君にお願い出来ますかな?」と言うとミチトは「あ、じゃあ子供達にやらせますよ」と返事をし、シックが「え?インフェルノフレイムをタシア君達が撃つのかい?」と目を丸くした。


「まあ確実に撃てるのはラミィとトゥモですけどフユィを見てたら撃てないなりに練習してるから術消費を肩代わりしてあげれば撃てますよ」

この返事に息を呑んで顔を見合わせるアプラクサスとシック。


「それは一般的な魔術師も可能ですか?」

「基礎理論さえ理解してればですね」


「…明日の会議の議題だね。アプラクサス」

「ええ、恐ろしい話です」


話が退屈だったのもあってジェードが例の双六を持ってやってくる。


「おや、随分古い玩具だね」

「メロのお気に入りなんだよ!シックおじさんもアプラクサスおじさんとやろうよ!」


ジェードがキラキラ笑顔で誘うのだがミチトはマス目の内容を知っているので渋い表情をする。


ミチトの表情を見たシックとアプラクサスはマス目を見て微妙な顔をするが子供達は「やろうよ」と言う。

普段は我慢をしているジェードだからこそ、ここは引き下がりたくないという感じだった。


アプラクサスが落とし所として「ではチームにしましょう。私とベリルさん、シックとジェード君、そしてミチト君とライブさんです」と提案すると子供達も了承する。


そして双六が始まると感謝マスでは、ジェードはアプラクサスとシックに玩具のお礼を言い、ベリルはアプラクサスに前にワガママを言ったのにトウテまで遊びに来てくれた事の礼を言う。


「いやはや、メロさんが大切にする気持ちがわかる玩具だね」

「本当です。こちらこそトウテに招いてくれてありがとうございます。アンチに帰って孫達に会うより皆さんと会う方のが多くなってますね」


それでいいのか?と思いながらスルーしていると、シックはミチトに「いつも大変な仕事を済まないね」と言い、アプラクサスはライブに「騎士団の子達の事、ありがとうございます」と言う。


ここでライブの気になったら我慢できないが発動して「シックさんもアプラクサスさんに言いなよ、アプラクサスさんもシックさんに言うんだよ」と言う。

アプラクサスとシックもライブが気になると諦めない…しつこい事を知っているので問答は諦める。


「…ふう。シック、医薬品の予算を下げてくれてありがとうございます」

「いや、こちらこそ備蓄薬品が無事に承認された。感謝しているよ」


それは嫌味なんかではなく素直な言葉でライブは更に気になってしまう。


「ねえ、なんで仲良さそうなのに昔はいがみ合ってたの?メロに聞いても知らないって言うし、ローサさんは教えてくれないから気になったんだよね」

まさかのライブからのストレートな話に困り顔のアプラクサスとシックだったが前述したがライブが気になると諦めない…しつこい事を知っているので溜息混じりに「子供の前で話すことではありませんが昔の約束です」とアプラクサスが言うとシックも「そう。もう30年も過ぎてしまった約束だね」と言った。


「約束?」

「ええ、私は戦争で妻オンタリオを失って徹底抗戦…オオキーニの殲滅すら考えました。その為には混乱している国をまとめ上げて防衛に努める必要があると言いました。何もオオキーニだけではなくニー・イハオもオッハーもナー・マステも全て虎視眈々とマ・イードを狙っていて攻めてくる可能性がありましたからね」


「それでアプラクサスは疲弊した北部の復興に基金を募り、私財を投げ打って尽力したよ。だが前も言ったが私は民が健やかであれば国も健やかになる。我が国は侵略戦争はしないと陛下も言っているからそちらに力を使うべきだと思った。確かに武力による防衛も大事だが他国に攻め込まない以上、内需を豊かにする必要があると思っていたし、アプラクサスの熱意…執念に恐れ慄く貴族達も居たからリミール派を作って内需や医療に力を注いだんだ」


アプラクサスの言葉にシックが繋げる形で2人に何があったかを話していく。

子供達も真剣な空気に口出しが出来ずにいた。


「私はシックならば共に外敵と戦ってくれると思ったのに戦前の青臭い理想論のままだった事に愕然としました」

「私もそのアプラクサスの言う青臭い理想論を共に語ったあの頃に戻ってほしいと意地になったんだ」


「その結果が歪みあったりしてたの?」

「ええ、約束をしました」

「ただ一つの約束だね」


「私はシックを友ではなく敵視すると」

「ならば私も受けて立つと言い、唯一の約束をしたんだ」

2人は真面目な表情でお互いの顔を見てハッキリと言う。


「その約束って何?」

「…マ・イードの民達を必ず最後には笑顔にする事です」

「その為にアプラクサスを犠牲にしても、私が犠牲になっても恨まないと話したよ」


それで数々の謀略を巡らせてロウアン達は死にかけていた。

これがまだ若い時分ならば許せなかったがミチトも年をとり何となくわかってしまうと思って何もいえなかった。



「ふふ。つまらない話をしてしまいましたね。さあベリルさん!1番になりましょう!」

「ジェード君!勝つのは君と私だよ!」


そう言った時、ジェードは「なんとなくだけどさ、アプラクサスおじさんとシックおじさんはすごく仲のいいお友達なんだね!これからも2人で遊びに来てね!」と言った。


「え?」

「ジェード君?」


「なんか難しい言葉ばっかりだったけど、アプラクサスおじさんもシックおじさんも喧嘩しててもお互いを信じてるのは俺にはわかったよ!」


この言葉に照れながらお互いを見たアプラクサスとシックは「そうですね。シック、ありがとうございます」「いや、礼を言うのは私だよアプラクサス」と言った。


そして双六はジェードとシックが1番で2番がベリルとアプラクサスだった。

ミチトとライブは盛大にビリで、交互にサイコロを振るとライブは3から6が多いのにミチトは圧倒的に1と2ばかりでたまに大きな数が出ると一回休みなんかのマスに止まっていた。

昨日は圧勝だったライブは「えぇ?ミチトと組むと大変だよ」と言い、ミチトが「ごめんライブ」と謝る。


「ふふ、それでも奥さんだからいつも一緒だよ。いつもありがとう」

「…ありがとうライブ」

2人の姿を見られてジェード達4人は微笑ましい気持ちになっていた。

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