第6話 アクィとの野獣の日06。
夕飯時になり、モバテから招待を受けたミチト達は嫌々正装を纏う。
そして結局は闘神が王都に来たのだから王城でパーティーだとなった。
今は城の用意が整うまでモバテの邸宅で待っていてミチトは「やっぱり行きたくない」とボヤいている。とは言え娘達は好みのドレスにしたので目尻は下がりっぱなしだ。
「なあ、なんでドデモの坊主とシヤ君一家を招待すんなって言ったんだ?」
モバテの言葉にミチトは「いや、俺たちが留守でトウテの治安が心配なんですよ」と返す。
モバテからすれば残りの家族も居るトウテの何が心配何だという話になり「は?」と聞き返すとアクィとメロも「ミチト?私見てるわよ?」「メロも見てるよ?」と言う。
それは当然の事でミチトも「勿論俺だって見てるけどさ」と言った。
ここにミチトに呼び出されたシヤとシーシー一家とイイヒートが現れる。
「とりあえず行ってらっしゃい」
ミチトは挨拶もそこそこで何も告げずに全員をトウテに送りつけると、芸が細かいのはイイヒートは孤児院の玄関でシヤ達は道具屋の前に強制転移させていた。
無事に到着したことで「おお、複数人の長距離でもなんとかなるな」と喜んでニコニコ顔のミチトにアクィとメロが「強制転移させたの?」「パパ?メロわかんないよ」と言った。
ミチトは人差し指を天に向けてクルクルと回しながら「まあ実は練習してたんだよね」と言う。
「は?」
「アクィと別荘で寝る時に夜中に別のベッドに転移させてみたり、ご飯の時にアクィのフォークとスプーンを入れ替えてみたりね」
「パパ?それってママで練習してたの?フォークとスプーンとママ?」
「うん。後は最近なら酔っ払ったセルースさんを家に帰ろうとしてるのにサミアの方に向かわせたりしたよ」
その全てに思い当たる節のあるアクィ。「あらやだ、フォークを持ったつもりなのにスプーンだったわ」と言ったこともここ最近何回もあった。
別荘で寝ていると朝起きたときに違うベッドに居て「え?寝ぼけた?」と思い、フォーク&スプーンの件とあわせて老いと病気を疑っていた。
そしてセルースがポスに怒られているのも見ている。
今全てが一本の線で繋がった。
アクィは怒りまじりに「…ミチト?危ない練習に妻を使うの?」と聞くとミチトは「アクィなら何とかなるかと思ってさ」と言って笑う。
この言葉でアクィが怒って、横のモバテが「…流石に怒られるだろ?」と笑うとミチトは真顔で人差し指をクルクルと回しながら「いや、仕方ないんですよ」と言う。
「はぁ?」
「あれ?今日も何回かやったんだけどモバテさん知らないのかな?」
ここで一緒にモバテ邸に居たアプラクサスが「ミチト君、一応聞きますが強盗と泥棒が軒並み収容所の檻の中に放り込まれたのは…」と青い顔で聞く。
「はい。3年前にエーライさんが皆の前で王都の治安を何とかするって言っちゃったから練習してたんですよ。まあ最初は王都に来て雷落としたりしてやめさせてましたけど、何というか視察事務所の仕事をしながら治安維持をしたらアプラクサスさん達の領地から逃げてきた連中とかが王都で増えちゃったんで気にしてたんですよ。それでうまく行ったし長距離は初めてだったんですけど新しい方法を考えてやったら無事にトウテに着いてシヤ達皆楽しそうですよ」
ミチトの左目は金色になっている。
左目に見えている景色はイイヒートが孤児院のドアをノックして申し訳無さそうに「あの…、スティエットさんに送って貰えたんですが………いきなりで……着の身着のままなんです」とゾーエンに説明をする。
そのゾーエンが玄関から戻ってこないとヤオが出てきてイイヒートを見ると「あ!灼熱男!アメジストちゃん!灼熱男が来ましたよ!」と呼び、シャイニング達が先に現れてイイヒートに「どうしたの?」と聞く。
「スティエットさんが突然行ってこいっていった瞬間にここに居ました」
「よかったじゃん」
照れながら話すイイヒートにシャイニングが笑顔で良かったと言う。
何事かわからないイイヒートが「はい?」と聞き返すとシャイニングは孤児院の中を指さして「アメジストが寂しそうだったんだよ」と言って「にひひ」と笑った。
この会話の後で来たアメジストはイイヒートが着の身着のままと聞いて「孤児院は三食洋服付きだけど働かないとダメなんだよ?」と言う。
久しぶり…と言っても2ヶ月ぶりなのだが、久しぶりのアメジストを見て紅潮したイイヒートは「はい!警備巡回でもなんでもします!」と言う。
イイヒートの顔つきを見たアメジストは嬉しそうに笑って「じゃあ…紐なしで屋根掃除と…後はこの前シャイニングの釣竿が湖底に落ちたから潜って取ってきてもらうのと…。ゾーエンさん、後は危険でやりたくない仕事ってありますか?」と言っている。
そしてシヤとシーシー一家はドアをノックしてヤァホィが出てくる前にヨンゴとシーナが「爺ちゃーん」「来たよー」と声をかけて呼んでいる。
ヤァホィは年を取ってしまって立ち上がるのも億劫で「何?誰?エクシィ?なんだろう?」と言いながら「よっこいしょ」と言った所で聞こえてくるヨンゴとシーナの声。
一瞬で10歳は若返ったヤァホィは玄関に飛んで行って扉を開けると申し訳なさそうなシヤと、同じく申し訳なさそうな顔をしていてお腹が大きいシーシーが「夕飯時にごめんなさい」「マスターが急に送ってくれたの」と言う。
ヤァホィはそれだけで嬉しそうに「良く来てくれたね!」と言って子供達に「お帰り」と声をかけるとヨンゴとシーナはヤァホィに抱きついて「ただいま!」「また来たよ!」と言う。
「今日は時間がないから奮発して何か買ってこようか?」
「じゃあ、ダイモの串焼きが食べたいから買ってきます。シーシーはお腹の2人の分もだから30本で…後は1人10本で足りるかな?」
「無理だよ!太っちゃうよ!!ヨンゴとシーナだって子供だよ?」
「いや、シーシーは軽すぎるし、ヨンゴとシーナは沢山食べたいはずだ。残していいから沢山食べさせたい」
シヤは2人の子供を殺してしまった仲間のヨンゴとシーナが生まれ変わってきてくれたと信じているので決してひもじい思いと寂しい思いだけはさせないように気を付けている。
それを知っているヤァホィは「じゃあ、シーシーちゃんが歩けるならダイモまで行ってお腹いっぱい食べる?」と言って、シーシーは「ヤァホィさんこそ歩くの大変そうってマスターが気にしてたよ?」と心配そうにする。
ここにミチトに頼まれたイブがスードに声をかけて「ほら、馬車で送ってやってくれってミチトに頼まれたよ。帰りはヨシ様に声をかけてくれってさ」と言ってスードが馬車を出してくれていた。
そんな幸せな景色がミチトの左目には見えていた。
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