エンドレスドッグデイズ
津多 時ロウ
エンドレスドッグデイズ
前書
勢いで書いた。反省はしているが後悔はしていない。
本文
クーラーが故障したある寝苦しい夜の事だった。
初めてあいつと出会ったのは。
連日テレビで流れる季節外れの熱帯夜予報に眉を
だが、ただならぬ気配にハッと目を覚ます。なんだかんだ言いながら、どうやら少しは眠れたようだ。目に見える位置にある時計は、夜中の3時を示している。時刻を確認して再び目を閉じるが、どうにも様子がおかしいことに気が付いた。体がまったく重くて動かないのだ。しかし、首も動かせないのにさっきは何故か視界だけが動く感覚で時計が見えた。
ははぁ、これが世に言う金縛りと言うものなのだな。聞いた話によれば、この後、奇妙な音が――ラップ音と言うんだったか、それが鳴り、音のした方を見れば幽霊がいる、そんな恐ろしい現象だった。そうか、幽霊か。幽霊は怖いなあ。見たくないなあ。
そんなことを怯えながら考えていたそのとき、全身に鳥肌が立ち、音が聞こえてきたではないか!
「ぽいーん」
ひぃ! 恐い、恐い! 幽霊が出るのか!? 出ちゃうのか!?
「ぽいーん」
先ほどの音がまた聞こえてくる。
んん!? 何この電子音!? 最近は幽霊もデジタル化してるの!?
続けて聞こえてくる別の音。
「ぽいーん、ちゃりん」
んんん!? コインか!? 幽霊がコインを手に入れたのか!?
今度は立て続けに聞こえてくる。
「ぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんちゃりんぽいんどんぽいんどんぽいんどん」
ダメだって! 10枚出たらもう出てこないから、それ以上は意味無いから! 諦めて!
「ぽいーん……、ぐんぐんぐん」
あー、キノコね。キノコを取っておっきくなっちゃったんだね。
ていうか、この幽霊、もしかして世界的に有名なヒゲの赤いあいつなの!?
え!? やだなにあいつ幽霊だったの!?
むっちゃ気になる! だけど目を開けるのむっちゃ恐い! 俺の複雑な乙女心よ……
やがて聞こえてくる低い音と後から重なるような先ほどからの間の抜けた音。
「どん、どん、どん、ぽいどん、ぽいどん、ぽいどん」
それはやがて新しい音を奏で始める。
「ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり」
こ、これはもしかして無限1UPというやつでは!? はっはー、なかなかやるじゃないか。
……あれ? でも幽霊が無限1UPしてどうするの? 残機そんなに増やしてどうしたいの?
最悪のケースが俺の頭をよぎった。
は!? もしかしてあいつ、帰らないつもりじゃないだろうな。このまま一生金縛るつもりじゃないだろうな。
やばいって。それむっちゃやばいって!
「ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり」
電子音は無限に続き、俺の恐怖はやがて安眠を妨害されたことへの怒り(逆恨み)へと変わった。
よっし、恐いけど文句を言ってやるぞ! 目を開けて思い切って文句を言うんだ! あいつが世界的に有名なヒゲの兄弟の赤い方だからって、遠慮はしないぜ!
「ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり」
落ち着け、俺。
「ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり、ぴろりらりり」
よし! いーち、にぃーの、さーん!
覚悟を決めてパッと目を見開く。
一瞬の静寂。
ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……
心臓の鼓動が聞こえる気がする。
次の瞬間、夜の町に絶叫が響き渡った。
「お前じゃねーよ!!」
カッと目を見開いた俺の視界にいたのは、赤い方のあいつじゃなくて、緑の方のそいつだった。
俺の暑い夜はまだまだ終わらない。
エンドレスドッグデイズ 津多 時ロウ @tsuda_jiro
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
津多ノート/津多 時ロウ
★38 エッセイ・ノンフィクション 連載中 818話
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます