第3話

今日も暖かい日差しが部室に射し込んでいる。里香は携帯を見ながら真奈美を待っていた。

「里香、お待たせー」

「めちゃテンション高いじゃん!何かあった?例のバッグ買って貰ったの?」

「うんん、バッグは考えておくって言われたから、まだ買って貰えるか分からない」

「そうなんだ…じゃ何があったの?」

真奈美は、ニヤニヤしながら昨夜の出来事を話し始めた。

「昨日の夜なんだけど、嫌な事があって、むしゃくしゃしながら歩いていたらボロそうな自転車が目に入ったの。知らない人の自転車だけど、ボロいし、いいかと思って、蹴り倒して、八つ当たりしていたら、自転車の持ち主が現れちゃって」

「えっ、ヤバイじゃん」

「ヤバかったのは蹴り倒した事より、その男性の顔!左側半分がケロイドでゾンビみたいになってたの」

「うわーマジで」と、顔をしかめた。

「始めは怖くて腰を抜かしちゃったけど、話を訊いているうちに、可哀想な人だと分かって、なんだか私が人肌、脱ごうかと思ったんだ」

「なに、無料で奉仕するの?」

「違うよー。その人、影山さんっていうんだけど、昨日が誕生日でね、そんな顔だから友達も居なくて、一人でコンビニのケーキを食べようと買いに来たらケーキが売り切れで、帰ろうとしたら私に自転車をボコボコにされてて、最悪な誕生日を過ごしていたから、今日、私が誕生日を祝ってあげる事にしたの」

「真奈美……あんたって優しいじゃん!マグダラのマリアだよ」

「やだーマグダラのマリアって誰よ?」

「えっ真奈美、正気?マグダラのマリア知らないの?」

「…うん」

「じゃ、ここに付いている十字架はなんだと思ってた?」と、言うと、シャツの襟の先に刺繍された十字架を見せた。

「ただの模様…」

「ぶっっ、マジうけるんだけど!この学校はキリスト教主義学校だから十字架が付いているんだよ。なんで、此処に進学したの?」「高校なんて行かなくてもいいと思ってて、勉強してこなかったの。けど親が高校は行きなさい。って五月蝿いもんだから、お金で入れる高校を探したら此処だっただけ」

「ふーん、どうりであんたと気が合うわけだ。私はキリスト教を信じてないけど、親がクリスチャンだから此処に入れられたの。けど入っても信仰心は芽生えなかった。何故なら、私のパパの一人が渡部先生だから」

「えーー!マジで!」

「私が自由に部室を使える理由だよ」

と、口に人差し指を当てて、シーとする。

真奈美は頭を何度も振って「分かった」と言った。

「でね話は戻るけど、影山さんはたぶん二十代後半ぐらいなの。その年齢の男性が貰ったら嬉しい物ってなんだと思う?」

「そんなの一つしかないでしょ」と、言うと真奈美を抱き寄せて、シャツの上から胸を優しく揉んで撫で回した。

「若くて可愛い女の子の体」

「もおーそう言うのじゃなくて」と、里香の手をほどく。

「真面目に何が良いと思う?」

「友達になってあげれば?影山さんって友達がいないんでしょ」

「そっか!そうだね、ありがとう」

と、言って、部室を出ていこうとした。

「真奈美、どこ行くの?」

「今日は早退して、影山さんの職場を探す」

「なんで?」

「怖じけづいて待ち合わせ場所に来ないかもしれないから、職場で待機する!」

「そんな事しなくても、電話一本入れればいい話じゃん」

「それが、連絡先を訊き忘れちゃって…分かるのは車のパーツを作る工場で働いているって事だけ」

「嘘でしょ!そんなの見つからないって」

「それが、もう調べてあるの。東京で車のパーツを作っている工場は三軒で、その内の二軒は町工場だから名前を出して訊けば分かるはず」と、里香にグッドサインをした。

「やるじゃんー、頑張れ!」

「うん!じゃね」と、言って、元気よく出ていった。

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