第2話
高級店の鳳来にとって、松島はVIP客なので、予約なしでも一番広い個室へ通された。
「さあ何でも好きな物を頼むといいよ」
中華料理が大好きな真奈美は、ここぞとばかりに高級食材を使った料理を頼むと最後にオレンジジュースを注文した。すると松島は「それと生ね」と、酒も頼んだ。
真奈美は目を丸くして松島を凝視する。
店員がいなくなると、回転テーブルから身を乗り出して囁く。
「車なのに、呑んでいいの?」
「意外と真面目なんだな。まあ一杯だけだし、飲酒運転なんかより、もっといけない事を真奈美ちゃんとしているから、大丈夫」
と、ニヤついた。
何が大丈夫なのか意味が分からなかったが、とりあえず「そっか」と、答えて座り直した。
「失礼します」
カートに沢山の料理を乗せて店員が入ってきた。
回転テーブルに、海老のチリソース炒め・油淋鶏・空芯菜の炒め物・フカヒレの姿煮・干し鮑の姿煮・金華ハムと燕の巣の炒め物・上海蟹のあんかけ炒飯が置かれて最後にドリンクが運ばれた。
「うわあー!凄い」
高級食材のオンパレードで、手を叩いて喜んだ。
「どれも美味しそう!食べてもいい?」と、生唾を飲み込む。
「どうぞ、いっぱい食べな」
「いただきまーす」
真奈美は一番近くに置いてある干し鮑から食べ始めた。あまりの美味しさから胃袋に火が付いて、次から次へと「美味しい!これも美味しい」と、食べ進めた。
「美味しいなら良かったね。パパは早くデザートが食べたくて、あそこがドクドクしてき
たよ」
食べている姿は十七歳でも、ベッドに入ると色気のある女性に豹変するギャップが松島にとって堪らなく興奮させた。
「それは後でね。パパも一緒に食べてよ」
「なら、食べさせて欲しいな」
「それは無理。だって遠いいもん」
と、あっさり断りながら、自分は大きな口を開けて炒飯を食べている。
「はっはは、美味しそうに食べるな…本当に可愛すぎだよ…」
つい本音が溢れる。
松島は、三十一も離れている真奈美に特別な感情を抱いていた。
「パパ、ご馳走様」
膨れたお腹を擦りながら助手席に座る。
「満足出来た?」
「うん!」
「よし、じゃ次は運動だぞ」
と、言うと、意気揚々と車を出発させた。
賑わいを見せる繁華街を抜けると、ホテル街になった。
ホテルによってコンセプトがあり、松島は学校をイメージした建物を探していた。
建物の間からスクールと書かれた看板が見えた。
「あっ、あそこだ」
事前に調べていたホテルが見つかり、松島の胸の高鳴りが収まらない。
ラブスクールホテルの駐車場に車を停めると、真奈美の腰に手を回して「真奈美くん、今から俺はパパじゃなくて先生だよ」と、言って、不適な笑みをみせて入店した。
受付窓口の代わりに大きなタッチパネルが二人を向かいいれる。
パネルには部屋の写真・番号・値段が表示されており、入りたい部屋をタッチするだけで入室できるようになっていた。
室内は全部、学校に関わりのある部屋になっていて松島は一番高い校長室をタッチした。
真奈美は黙って、松島と一緒に部屋へ向かった。
入室すると、そこはまさしく校長室になっていたになっていた。一つだけ違和感があるとしたら、校長のディスクの前に配置された会談用のソファーの片側がベッドになっていた。
「真奈美ちゃんの学校の校長室もこんな感じかな?」
「入った事がないから分からないけど、これは絶対ないよ」と、ベッドを指差した。
「そりゃそうだな」
と、言うと、クローゼットからセーラー服を取り出して真奈美に渡した。
「これに着替えて」
(また制服…)と、思いながらも松島から制服を受け取って、バスルームで着替えた。
セーラー服姿の真奈美が戻ると、校長の席に座った松島が「真奈美くん、こっちに来なさい」と、呼び寄せた。
真奈美は言われるがまま松島の隣に行く。
「君のスカートは短すぎじゃないか?こんなに短かったら、こんな風に触ってくる奴も出てくるぞ」
と、言うと、なめ回すような手つきで、真奈美の内腿を撫でる。そして、その手は陰部に延びていった。
こうして、松島校長と生徒・真奈美の淫乱プレイが始まった。
セックスは四十分程で終わると、また真奈美が先にシャワーを浴びた。
支度を終えた真奈美と入れ換えに松島も軽くシャワーを浴びて戻った。
松島は一服もせずスーツに着替えて、お金を渡すと、一緒に部屋を出た。
「明日も会いたいけど、明日はお偉いさんの手術が入っているから、また連絡するよ」
「分かった」
「有楽町駅まででいいの?もう少し近くまで
送ろうか?」
「大丈夫…あっ、そうだ」
「なに?」
「あのね今日、真奈美の友達がパパにバタフライミュウルの新作バッグを買って貰った。って自慢してきたの。それが、すっごく可愛いくて真奈美も欲しいの」と、言って、松島の腕を掴んで甘えてみせた。
「あはは、分かった。考えておく」
真奈美に甘えられて満更でもない顔をして車を出した。
有楽町駅まで送ってもらうと、足早に家路へ急いだ。すると家の少し手前で白い外車が止まっているのが見えた。
(あっ、お父さんだ)
会社の車だと分かり、近づこうとした時だった。父は、運転席の秘書と濃厚な口づけを交わした。
(!!)
見てはいけないものを見てしまった真奈美は咄嗟に身を隠す。
だが、頭の中は真っ白で理解が追い付かない。
(い…い…今のは…なに…)
真奈美の鼓動が激しく打ちつけて呼吸も荒くなる。
(そんな…そんな…お父さんが…)
顔は興奮で赤くなり、色んな感情が涙となって、頬を伝う。
すると、バタンと車の扉が閉まる音が聴こえた。秘書が運転する車は真奈美の方に向かってくる。
真奈美は、車に背を向けて目立たないように息を潜めた。なんとか気づかれずに車を見送ると、物陰から父の姿を確認した。
父は何事も無かったかのように鍵を開けて家に入った。
父だけは、真っ当に生きていると信じていた真奈美は、あんな強かな父の姿を目の当たりにしてしまい、心から幻滅した。そして踵を返すと、家とは逆方向に、歩き出した。
真奈美は夜風に吹かれながら当てもなく暗い路地を歩ていた。悲しみの山を越えると、次第に怒りの波が真奈美を襲う。
(あーー、クソ親共が!嘘ばっかりつきやがって!ほんと腹立つ!)
今にも団駄を踏みそうな勢いで歩いていると、コンビニの裏手に停めてある、くすんだシルバーのママチャリが目に入った。
「こんなとこに停めてんじゃねーよ!」
と、細い足を投げ出してママチャリを蹴り倒した。
それでもスッキリしない真奈美はタイヤを何度も踏みつけて鬱憤ばらしをした。
すると弱々しい声で「あの…」と、言う声が聴こえた。
真奈美は、声がした方を振り向くと、長身の若い男性が俯いて立っていた。
一瞬、お化けかと思い、たじろいだ。
「なっ、なによ!」
「僕のじ…しゃ…」
「はっ?なに?声が小さくて聞こえないんですけど!」
男性は一呼吸ついてから、もう一度伝える。「それ…僕の自転車なので、踏みつけるのは止めてください」
「それが何よ!踏まれたくなかったら、こんな所に倒して置いているんじゃないわよ!」
と、逆ギレして、その場を放れようすると「君が倒したくせに…」と言われた。
「な…なんの証拠があって、そんな事いうのよ!」
男性はゆっくりと真奈美に近づく。
「全部、見ていたから…君が僕の自転車を蹴り倒して踏みつけている所を…」と、言うと、顔を上げて睨み付けた。
すると髪で隠れていた左半分の顔面が現れて、真奈美は驚愕した。
男性の左側の顔面はミミズが這ったようなケロイドがあり、まるでゾンビのようだった。
真奈美は恐怖で声が出せずに腰を抜かした。
「大丈夫?僕の顔を見て腰を抜かした人は父親以来だ」と、言って、力なく笑った。
父親と訊いて、最低な父親の事を思い出した。
「僕の顔を傷付けたのは父なのに、その父親が息子の姿を見て腰を抜かすなんて酷い話だろう…あぁごめん…立てる?」
男性は手を差し伸べる。
不思議と怖さが無くなっていた真奈美は、男性の手をとって立ち上がった。
「あの…自転車、ごめんなさい」
「もう、いいよ」
と、言って、倒れた自転車を起こした。
男性が立ち去ろうとした時、真奈美は声をかけた。
「ねぇ、どうして父親に傷つけられたの?」
真奈美の質問に男性の足が止まる。
「なんで、そんな事を訊くの?」
「いや…興味本位とかじゃなくて、なんて言
うか…私の父もクソ野郎だけど、息子の顔に傷を負わせるクソ親父ってどんな奴なのか…んーこれじゃ興味本位って事になっちゃうか…いや、興味本位とかじゃなくて自分の方がましかもと思いたかったのかも…」
あたふたと自問自答して悩んでいる真奈美を見て男性は可笑しくなった。
「君の言っている事、よく分からないけど、知りたいなら教えてあげる。ギャンブルだよ」
「ギャンブル?」
「父はギャンブル依存症で、負けると暴れて、僕と母に手を上げる人だった。その日は、おお負けして、帰ってきたんだ。いつも以上に暴れたあと、父は台所から包丁を持ち出して、中一だった僕を人質にして金を要求した。母はすぐに金を渡したのに、父は僕を放さず殺そうとしたんだ」
「えっ!どうして」
「強盗にみせかけて殺せば、保険金が入ると考えたらしい」
「…酷すぎる」
真奈美の顔から血の気が引いていた。
「理由が知れて満足?」
「いや…その…気安く訊いちゃって、ごめんなさい」と、頭を下げて謝罪した。
「いいんだ。普段なら話さないけど、今日は特別な日だから、きっと誰かと話したかったんだ」
「特別な日?」
「今日は僕の誕生日なんだ」
「えっ、そうなの?おめでとうー」
「あっありがとう」
男性の顔から微かな喜びの笑みが溢れた。
「ケーキは買えなかったけど、君の言葉で心が救われたよ。ありがとう」
「ケーキってコンビニの?」
「そうだよ。友達も家族もいないから、せめてケーキでもと思って買いにきたら売り切れで、家に帰ろうと思ったら、君が僕の自転車を蹴り倒しているだろう…」
真奈美は我慢できずに話の途中で吹き出した。
「最悪な誕生日に、私が止めをさしちゃったって事か。ごめんなさい」
と、言いつつ笑いが止まらない。
男性は怒るどころか「ほんと、その通りだよ」と、言って、一緒に笑い合った。
「ねぇ、明日空いてる?」
「え?」
「自転車と最悪な誕生日に止めをさしちゃったお詫びに、私が誕生日を祝ってあげる!」
深い関わりを持つのを恐れた男性は、顔が強張った。
「……いや、気持ちだけで十分、さようなら」
「待って」と、立ち去る男性の腕をとって引き留めた。
「名前くらい教えてよ」
男性は少し考えてから「影山透」と答えて歩き出した。
真奈美は影山の後をついていく。
「私は倉根真奈美。真奈美って呼んでね。
で、影山さん、明日は何時に何処で待ち合わせする?」
こんな強引に推し進める人は初めてで、言葉が出ない。
「決めないなら、私が決めるね。十七時にハチ公前でどう?ねえーてば」
返事をしない影山の腕を引っ張った。
「あっ…明日も仕事があるので…」
と、口籠りながらも断ろうとするが、真奈美は諦めない。
「じゃ仕事は何時まで?何の仕事をしているの?答えないと、このまま家まで着いていくけど、それでもいい?」
新手の脅しに観念した影山は素直に従うことにした。
「仕事は、車のパーツを作る工場で働いている。終わるのは十七時だよ」
「分かった。じゃ十八時にハチ公前ね。バイバーイ」
茫然と立ちすくむ影山を尻目に、真奈美は手を振って駆け出して行った。
「ど、どうしよう…断りきれなかった…」
と、肩を落とした。
大人しく家に居るべきだった。と、後悔しながら、いびつに曲がった自転車を押した。
「はぁ…自転車も、どうしよう…」
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