第10話 逆転の発想

 山田狂恋……。

 一体、何の用だろう?

 僕は恐る恐る電話を取った。

「もしもし?」

『時方君? 久しぶりね』

「そうだね。急にどうしたの?」

『最近、何だか嫌な予感がしているのよ。ストーカーの血が騒ぐというか……』

 自分がストーカーだということは自覚していたんだな。

『変な泥棒猫が時方君に近づくんじゃないかという不安が……』

「だ、大丈夫じゃないかな……。魔央も元気だし」

 そうでなくてもごちゃごちゃしているのに、更に山田狂恋まで首を突っ込んできたら、もうどう対処していいのか分からない。できれば、今のままチベットにいてもらいたい。

『心配してくれているのね? ありがとう。でも大丈夫、今、羽田空港にいて、これから向かうから』

「えぇぇぇ?」

 既に東京に着いていた!?

 非常にまずいな。山田さんは魔央相手には引き下がったが、他が相手だとそういう保証はない。知恵&優里菜は山田さんに似たタイプの不気味系でキャラが被る。アイデンティティ喪失の危機もあるから本気で排除にかかりそうだ。

 しばらくしたらまた電話が来る。

『今、京急蒲田についたわ』

 いらないよ! そんな接近報告いらないから!

 メリーさんの電話じゃないんだし、怖いからやめてくれる!?


 いよいよ面倒なことになってきた。

 前門の知恵&優里菜に、後門の山田狂恋。

 前者のことを魔央に説明すると世界が危機に陥るから、僕一人で切り抜けなければいけないというおまけつきだ。

 どうする?

 石田首相に電話するか?

 でも、この前、大臣辞職したから、色々忙しそうだしな。やめておこう。

 では、川神先輩か?

 あちらはあちらで、更に厄介な事態になりかねないからな……。

 となると……。


 ピンポーン

『はい。須田院……。何だ、貴様か』

「ちょっと相談したいことがあるんだ」

 隣のタワーマンションの最上階、須田院阿胤に会いに来た。MA-0も相変わらず元気そうだ。

「一体、何の用で来た?」

「実は……」

 僕は新居知恵に始まる一連のトラブルと、山田狂恋について説明した。

 たちまち須田院は血涙を流す。

「このIQ300の須田院阿胤がロクに女の子と会話できないというのに、貴様は……。貴様という奴はァッ!」

「……分かった。新居知恵を紹介するよ」

「何だと?」

「アイドルのマネジャーしているから、仲良くなればいいことがあるかもしれないよ」

「親友の頼みとあらば、何でもしようじゃないか」

 豹変したな、おい。まあ、いいけれど。

「MA-0のようなクローンみたいなアンドロイドを作れないだろうか? 特殊な機能はなしでよくて、ただ、相手の言いなりになるみたいな」

「そんなものを作ってどうするのだ?」

「山田さんか優里菜と一緒に住んでもらう。僕のクローンがいれば、多分満足するんじゃないかと思う」

「ふむ……」

 須田院は少し考えている。

「ストーカータイプを満足させるには貴様が必要だが、それは嫌だ。そこでクローンを押し付けて満足してもらおうということだな。しかし、クローンが自我を持ったらどうする?」

「自我というと?」

「よくある話だろう? 本物を殺して、自分が本物になる、みたいな欲望を持つということだ」

「……おたくが作ると、そんな物騒なクローンになるわけ?」

「もちろん、意図的に作ることはない。しかし、クローンが乗っ取りを考えるというのはお約束だ。IQ300をもってしても、伝統的なお約束を覆すのは難しい」

 そこまで言ってから、何か気づいたことがあったらしい。ポンと手を叩いた。

「時方悠。ここは逆に考えてみようじゃないか」

 何かジョースターさんみたいなことを言いだした。

「逆に考える? 何を?」

「おまえが時方悠でなくなればいいんだ」

 ……何ですと?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る