第9話 解決策を探して

 深夜、僕はようやく解放された。

 双子か確認したくて強制的に女装させるべく拉致するなんて何という奴らだ。

 ということで、解放されたのは上野動物園だった。

「ここならヤスオやウータンが歩いていてもおかしいと思われないでしょ」

 思うよ。

 檻の中じゃなくて通路の方にマウンテンゴリラとオランウータンが話しながら歩いていたら絶対おかしいと思うよ。

 とりあえず武羅夫に連絡だ。

『どうしたんだ? いきなり電話がつながらなくなったからびっくりしたぞ』

「ああ、まあ、堂仏都香恵と新居知恵の相手をしていたんで。今、上野動物園にいるんで誰か派遣してくれ」

 深夜の動物園を徘徊している奴がいるとなると、変質者と勘違いされかねない。ここは武羅夫の救援を待った方がいいだろう。


 一時間後、武羅夫達がやってきた。

「動物園には事情を説明している。しかし、まさか動物園の中に堂仏都香恵の手の者がいたとは……」

 手の者というより、正確には堂仏都香恵なら、動物園の動物も言うことを聞かせられるんだよね。そして、彼女の場合、考えることがかなり斜め上なので厄介だということだ。

 近くでタクシーを拾い、赤坂へと戻ることになる。

 途中、新居知恵の状況について説明した。

「何……、時方優里菜が双子の兄だと? おまえ、何を言っているんだ?」

「僕も信じたくないけれど、知恵は本気でそう言っていたよ。しかも、どうやら魔央が彼女……彼の小説世界を破壊してしまったらしくて、生きる望みを失いそうになっているらしい」

「……ということは、おまえがストックを増やして、もう一度復活させれば時方優里菜が生きる望みを持ち直して、新居知恵も満足するということか」

 おっと。

 そういう考え方もあるのか。

 しかし、それってかなり都合がよくない?

 神様に対して、「ごめんなさい。この前、殺してしまった〇×君を生き返らせてほしいです」と頼むようなものだぞ。

 というか、世界を再生させているのが神なのか仏なのか考えたこともないけれど。

 とはいえ、もし、できるのなら、確かにその方法ならお互いが干渉しなくて済むことになる。正直、知恵は苦手だし、アイドルになった双子の兄とも会いたくはないしなぁ。

 あと、ひょっとしたら魔央も覚えているかもしれないから、後で聞いてみよう。


 その夜、魔央は帰っていたら寝ていたようなので(結構薄情な気もする)、翌朝、朝食中に尋ねてみた。

「……双子の兄が、行き別れた弟と幸せに暮らすみたいな小説、記憶にない?」

 僕が尋ねると、魔央は渋い顔をした。

「ああ、ありましたね。人の主義主張を差別したらいけないんだろうとは思いますが、ちょっとないかなと思いました」

「……そんなに問題だったの?」

「双子の兄弟が結婚するというのは無しだと思うんです」

「ブッ!」

 そんなことまで書いていたのか?

 考えてみれば知恵も「こっそり」と言っていたものな。かなりやばい内容だったわけだな。

 ……となると、復活させない方がいいのだろうか。

「一体どういう人が書いていたんでしょうね?」

 うん。僕の双子の兄らしいんだ。

 なんてことはもちろん言えない。

「文章も思い込みが激しかった気がします。アイドルとかストーカーしていそうな人だなと思いました」

 ストーカーしているのは正しいかもしれない。ただ、アイドルをストーカーしているのではなくて、アイドルがストーカーしているのだけれど。


 これは厳しいな。

 魔央は相当良くないと思ったようだ。

 久しぶりにシミュレートしてみる。


① ストックが回復したら小説世界を復活させる。

 魔央が再発見した場合、「こいつ、まだ生きていたのか!?」とより徹底的に破壊する可能性がある。ストックが無駄になるわ、優里菜の世界は再度滅ぶわで何も良いことがない。


② 経緯を説明して、優里菜と会うことにする

 うまくいけばいいけれども、「双子の兄弟なのに結婚しようということが現実的にあるなんて!」と魔央が怒って世界そのものが滅亡する可能性がある。現在、ストックがないから、あまりにも危険な賭けだ。


③ 知恵は優里菜を好きなようだ。この二人を何とかくっつける。

 お、これ、いいんじゃないの?

 知恵は不気味だが、優里菜とくっつける方向で協力するなら悪い気はしないだろう。

 よし、これで行こう。

 ただ、魔央と優里菜を会わせるのはまずそうだ。

 当面、先輩とか木房さんルートを通じて、知恵と連絡を取るようにしよう。

 と、電話が鳴った。

 相手を見て、思わず顔をしかける。

 山田狂恋、このタイミングで一体何なんだ……

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