第11話 新しい存在へ?
「時方悠でなくなればいいというのは、どういうこと?」
須田院の意図が分からず、オウム返しに聞き返す。
「ミステリーなどで時々あるだろう。戸籍乗っ取りという手段が」
「こ、戸籍乗っ取り!?」
というと、アレか。
何らかの理由で居場所をなくした人間が、偶々死んだ同世代の別の人間になりすますというアレか。
「そうだ。時方悠という人間は何らかの理由で死んだことにする。そうすれば、山田狂恋と時方優里菜は諦めるしかなくなる。もし、望むのならクローンを与えてもいいだろう。そのうえで、貴様は誰かの戸籍を乗っ取る。いや、場合によっては日本政府に頼んで、新たに作ってもらってもいいかもしれない」
確かに、事態を穏便に処理するためには新しい戸籍を作ることくらいはやってくれるかもしれない。発覚したら、内閣が戸籍を弄っていたということで大スキャンダルになるかもしれないけれど。
「そうなると魔央はどうなる……。そうか、魔央の場合には、封印の刻印が必要なわけで、僕が何者であるかは関係ないということか」
「その通りだ」
須田院の発言はよく分からないことが多いけれど、これについては理解ができる。
「時方悠としての人生にこだわりはないだろう? 望むなら須田院の名前を与えても良いぞ」
何であんたに許可をもらわなければいけないんだよ。
しかし、まあ、情けない話ではあるが、奴の言う通り、僕がこれからも時方悠でなければならないという理由はない。
「何なら、おまえを改造して、人造人間ユウとしてもいい」
「いや、それは却下するよ」
「何故だ!? 世界を守れる力が手に入るのだぞ? 1兆度のビームを放ったり、核兵器にも耐えられる体を手に入れることだって可能だ」
こいつ、僕を何だと思っているんだ?
「それなら自分を改造したらいいんじゃないの?」
そういうと、大人しくなった。全く……
とはいえ、時方悠を死んだことにするというのは、山田さんには通用しないかもしれないけど、時方優里菜には通用するんじゃないかと思う。
だから、ひとまず石田首相に相談しよう。
『何……、新しい戸籍を……』
「悪いことをしたわけではないんですけれど、どうも個性的な人が集まり過ぎて、名前を変えた方がいいような気がしてきました」
『アテはあるのか? 最果村の幹部の子供ということにするのか?』
「いや、あそこの人達はちょっと……」
『もしかして、実の父親の川神威助に頼むというんだな?』
えっ?
ちょっと、首相。あんたが何でそのことを知っているんだ?
「以前の話でもあっただろう? 一度、解き明かされた謎というものはコモンセンスとなるのだ」
「正直、彼も無いですね」
一度も会ったことがないし、先輩の弟となるのも嫌だ。
『では、誰にするのだ?』
いや、誰にするのだと言われても、そこまでは考えていなかったというのが正しい。というより、適当に与えてくれてもいいんじゃない?
『君は両親もなくいきなり発生したことにするつもりかね? 日本政府が全面的にバックアップすると言っても、無断で誰かの息子にするわけにはいかない』
それもそうか……。
仕方ない。少し考えるとしよう。
電話を終えると、須田院が楽しそうに準備をしている。
「どうだ、時方悠? 君はこの車に乗っているところ、崖から落ちて行方不明になる」
確かに車の助手席に僕そっくりの人形が乗っている。
「でも、崖から落ちる車の中に僕がいるってどうやって証明するわけ?」
「大丈夫だ。このIQ300に抜かりはない」
須田院がボタンを押すと別のロボットが出て来た。
「貴様は私のロボットに誘拐されて、アジトに移動している途中、事故に遭うという設定だ。そのうえで、警察その他に強権を発動して、死亡したことにすれば、貴様は晴れてフリーの身となるわけだな」
うーむ、何故僕がロボットに誘拐されるのかがさっぱり分からないし、IQ300が考えるにしては、滅茶苦茶雑な設定ではないかと思うけれど。
「四の五の考えるではない。案ずるより産むが易しと言うだろう。賽は投げられた。もはや後戻りはできぬ。さあ、MA-0。この車をどこかの山奥まで運ぶのだ」
「イェッサー」
MA-0が飛び立っていった。車ごと飛べるというのは凄い出力だ。もう少し有意義なことにその頭を使ってくれれば、と思わざるを得ない。
その間に須田院はボイスチェンジャーを使って、どこかに電話をしている。
「警察か? 我々は悪の組織アクマサンダーだ。たった今、東京都港区赤坂〇×に住む時方悠を誘拐した。返してほしくば、100兆ジンバブエドルを用意しろ。円換算だと? 馬鹿なことを言うな。ジンバブエドルだ。我々は今、群馬の山中を黒塗りのベンツで走っている。ナンバーは品川の……」
「おい、須田院」
「何だ?」
「ツッコミどころが多すぎるんだけど」
何でジンバブエドルやねん。何で誘拐しておきながら自分の車のナンバーを堂々と教えるねん。
「……ナンバーを教えなければ、時方悠が乗っているかどうか分からないではないか」
堂々と答えられる。IQ300まで行くと、もうそういうことは些事ということになるのだろうか。
ともあれ、モニターにはMA-0が映っている。彼女がどこかの山奥に車を下ろして、車が走り出した。とはいっても、運転もしないからすぐに崖下に落ちていく。
炎上横転する車。
僕はあの中にいることになっていて、死んだことになるのか……
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