第5話 時方家の闇

 盗聴器の向こうから聞こえてきた爆音のような音が気になるけれど、それ以上に気になるのは知恵の言っていた「僕の弱み」だ。

 一体、何なのだろう? 正直、見当もつかない。

 もちろん、6歳くらいから一緒にいたから、相当に情けないことはあったと思われる。例えばお漏らしをしたくらいはあるかもしれない。

 ただ、子供の時のものだからね。そこまで馬鹿にされるべきものなのかどうか。

 とはいえ、気になるは気になる。

 こっそり連絡を取って、聞くべきだろうか。しかし、それこそ知恵の狙いなのではないか。安易に聞くのはやはりやめておいた方がいいだろう。

 と、電話が鳴った。

 うっ、忘れかけていた頃にあいつか。世界征服を企てる女、堂仏都香恵……。


「もしもし?」

『やあ、久しぶりだね。時方悠?』

「悪いけど、君の役に立てるようなことはないと思うんだけど?」

『違うよ。君の幼馴染の件で、ちょっと言っておきたいことがあってさ』


 何?

 まさか、知恵は堂仏都香恵に接触しているのか?

 妙な自信があるように見えたのは、堂仏の協力があったからだろうか?


「もしかして、君は知恵から僕に対する秘密を聞いたのか?」

 ただ、堂仏都香恵は恐るべき能力をもつ反面、割と口が軽い印象がある。うまいこと乗せれば、何か話してくれるのではないだろうか?

『うん、聞いたよ。ボクがこんなことを言うのも何だけど、君って物凄く悲惨だよね』

 一度も会ったことのない奴にダメ出しされてしまう僕とは一体……?

『正確には君というより、時方家が酷いのかな?』

「フッ……」

 何故か薄ら笑いが出てしまった。

 いや、まあ、時方家が酷いらしいというのは色々理解したよ。虐待を受けたとか、僕だけ何も買ってもらえなかったとか、そういう負の記憶はないけれど、影で色々やっていたのだなということは……。

「で、具体的にどういう情報があるんだ? それで僕を脅すつもりなのか?」

 自分のことではなく、家のこととなるとこれはかなりヤバイ話があるのかもしれない。

『同情するよ。あんな双子の兄がいるなんて……』

「何だって!?」

 双子の兄だと?

 こら、作者、こういう展開で、双子を出すなんてあまりにも短絡的だぞ。双子に頼るなんて情けないと思わないのか?

『何をブツブツ言っているわけ?』

「こっちの話だ。というか、僕は自分に双子の兄がいるなんて知らないんだけど」

『そうなんだ? じゃあ、知らない方がいいかもね。知ったら、きっと後悔するから』

「いや、ちょっと待って。そういう言い方されると凄く気になるから」

 堂仏は倫理観が決定的にないだけで、かなり頭がいいようだからなぁ。こういう言い方をすれば僕が乗ってくると分かっていたのかもしれない。ただ、さすがに自分の双子の兄が何をしているか、というのは気になる。

「殺人犯なのか? アメリカを敵に回したとかそういうことなのか?」

『君って、自分の実家のことをテロリスト養成所と勘違いしてない? まあ、君も大概テロリストかもしれないけど』

「失礼な。僕は犯罪なんてやったことは……」

『……何か思い当たるふしがあるみたいだね』

 いや、犯罪はやっていないけれど、異世界を滅ぼしたことは何度かあるし、他人を見捨てるようなこともしてきたのは事実だ。

『知らないなら、言わないでおくよ。これを知ったら、君の精神状態が本当に心配になる』

「いや、だからそう結論を急がないでくれ。君が黙っていても、知恵が知っているのだから、何かの折に言われるかもしれないんだ。で、知恵のことだから僕が一番ショックを受けるとか、魔央とか武羅夫のいるようなところで言うに決まっている。それならば、今ショックでも、今聞いておきたい」

『なるほどね……。分かった。じゃあ、教えてあげるよ。君の携帯に兄の画像を送る』

 そう言って、堂仏は電話を切った。

 画像を送るって、一体どんな双子の兄なんだ?

 そもそも、本当に僕と一卵性双生児とかの双子なのか?

 あるいは時方夫妻の子供で、貰い子の僕との年齢の関係で双子にしてしまっているのではないだろうか?


 おっと、送られてきたぞ。

 こ、これは!!

 堂仏から『君のお兄さん』というタイトルで送られてきた画像には、堂々とした体格のマウンテンゴリラが映っている。

 そ、そうだったのか……。

 普通は理解できないけれど、時方家ならこんなこともありうるのかもしれない。僕の双子の兄はまさかの人類を抜け出た存在だったとは。


 ある種の感慨に浸っていると、またSNSが届いた。『ごめん間違えた』というタイトルに続く画像は……。

「こ、これは……?」

 僕は慌てて電話をかける。

『どうしたの?』

「これ、間違いだよね? 僕の双子の兄は最初のマウンテンゴリラでしょ?」

『違うよ~。あれはボクの友達のヤスオさ。というか、マウンテンゴリラが双子の兄っておかしいでしょ?』

 そ、それはそうだが、時方家とか最果村が絡むとそういうことだってありうるのでは。

 動揺する僕に、堂仏はトドメを刺してきた。

『新居知恵が言うには、君の双子の兄は、DIN(土井中)48のエース時方優里菜ときかた ゆりななんだって』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る