第2話 知り過ぎた幼馴染
前略。
新居家のお母さん、貴方の娘さんは何かの宗教に走ってしまいました。
まあ、そんなものだろうという変な納得はある。
幼馴染とか久しぶりに再会した異性の友人と会いに行ったら、宗教やら保険やら怪しい商品を勧められるなんていうことはよくあることだ。
それが今回、偶々僕に回ってきたということだろう。
先程の発言で思い出したけれど、知恵は子供の頃からニーチェが大好きで、ことあるごとに「神は死んだ!」と叫んでいた。恐らく意味も分からず叫んでいたのだろうと思うが、長ずるにつれて、怪しい宗教へと行ってしまったのだろう。
さて、僕はどうすべきなのだろうか。
友人として「そんなことを言ったらダメだ」と止めるべきなのかもしれないが、子供の頃、止められなかったわけだし、今更止められるはずがない。
「どうやって?」
非常に微温的な選択と言えるかもしれないけれど、僕は相手に合わせる選択肢を出すことにした。
神は死んだ。厨二が好きそうだけれど、そもそも彼女が思う神とは何なのか。それが死ぬということがどういう概念なのか。
そのくらいは聞いてもいいだろう。それで、どの程度怪しい宗教か分かるというものだ。
「信じてくれるかどうかは分からないのだけれど、私、三か月前にこういうものに出たのよ」
と、渡されたものは『令和四年開催・日本国内魔術師サミットin沖縄』というチケットだった。
うん、これはひょっとして本物?
魔術師サミットというと、魔央の成り立ちにも関わる組織。そこに行ったことがあるということは、何か怪しい情報があるのか?
「そこで加藤さんと会ったの」
加藤? 僕が知っている人物なのか?
「
嫌な3歳児だな。
「彼が説明していたの。本当は世界は1999年に滅んでいたはずだ。それなのに、この愚かしい組織が全てをダメにしてしまった。彼は何か言う度に最後に言っていたわ。"それでも世界は滅ぼすべきなのに"と」
「滅ぶのはカルタゴだけでいいよ」
神は死んだという少女が、終末論の老人と出会い、その場で変なことが起きたということか。
「彼は最後に無念だと言っていたわ。今はものすごい破壊神の生まれ変わりがいて、その人を覚醒させることができれば、世界の破滅を見ることができるのに、と」
「……」
冷や汗が背中を伝うのを感じた。
この女、知っている! 知っているぞ!
これはまずいな。
そこで気になるのは知恵はどの程度まで知っているかということだ。つまり、魔央のことを知っているのか、そこに僕が関与していることも知っているのか。
そこまで知っているとなると非常にまずい。
知恵との関係は別にたいしたものではないのだけれど、それでも幼馴染ならではのエピソードが一つや二つある。魔央をパニックに陥らせて、世界を滅亡させる可能性はゼロではない。
それは阻まなければならない。
「で、実はその人は意外と近くにいるらしいのよね」
「何でそんなことが分かるんだい?」
「加藤さん、末期がんで苦しむ中で様々な魔術・呪術を駆使していて、どうやら最後はこの渋谷区か港区にいるということまで突き止めていたの」
「へえ」
「年齢としては私と同い年らしいのよね。魔術師サミットが動いた年代からもそうなんですって」
「ふうん」
あまりにも相槌が適当だって?
ただ、こうやって相手に合わせないと、どこまで知っているかということを突き止めるのが難しそうだからね。
「それを聞いた時に、つい悠ちゃんのことを思い出したのよ」
「えっ、何で?」
「悠ちゃんって自覚してなかったと思うけど、自分に近づいてくる者を容赦なく消していたじゃない。小学二年の時に、からかっている三人組がいたでしょ。その三人がトラックにまとめてはねられたことを思い出したって訳」
「……」
そんなことあったかな。確かに、何か朝から呼び出されて、みんなが泣いていたような記憶はあるけれど。
「……悠ちゃんって、実は破壊神なんでしょ?」
「……」
真相には迫れていなかった。まさかの勘違いとは。
「だから、悠ちゃん、神を一緒に殺しましょう。この絶望しかない世界を司る神なんて存在する価値もないわ」
何て答えればいいのだ。分からない。
というか、神を殺すんなら、破壊神だって殺すことになるんだぞ。
他の仲間を殺して自分も死ね、と言っていることを果たして知恵は気づいているのだろうか?
これは、やはり、消すのが一番早いのではないだろうか?
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