破壊神vs幼馴染
第1話 幼馴染・新居知恵
アスタルテがいなくなり、束の間の平穏が訪れた。
そう、あくまで"束の間の"ものに過ぎないわけなのだけれど。
しかも、ストックがないものだから緊張感を余儀なくされることは間違いないのだけれど。
そんなある日、戸籍上の両親から連絡があった。
好奇心のために息子を好き放題使うというどうしようもない両親だが、とはいっても生物学上の父らしい川神威助を頼りたいかというと、そういうつもりにもならない。仕方なく応じることにする。
話題の中で、
『それでねぇ、昔、時々遊びに来ていた知恵ちゃん、実は悠と隣の大学に通っているらしいのよ』
「知恵ちゃん?」
『ほら、子供の時一緒で、高校も一緒だったじゃない?』
言われてみれば。
確かに、幼馴染と言うべき存在がいるとすれば、彼女ということになるのだろうか、新居知恵。
子供同士というよりは、親同士の付き合いからの幼馴染だった。親同士の仲がいい、というところから察してもらえるように、新居家の面々もかなり個性的というか目立ちたがりな人達なんだけれどね。
なので、知恵とはお互い「面倒な親だよねぇ」というあたりで話を合わせていたように思う。
小学校までは仲が良く、ただ、中学校は微妙に管区が違うということで、別々のところに行き、高校で再び一緒になった。
ただ、高校で一緒になった時はほとんど話すこともなくなっていたし、疎遠な関係だった認識なんだよね。
別に嫌いになったとかそういうわけではなく、中学校などでブランクが空いてしまうと、話しづらくなるとかそういうことはよくあるよね。
あとはまあ、封印の刻印のこともあってか、当時、僕の周囲には武羅夫はじめSP組が近づいてきていて、それで新居千絵のことをあまり考えなくなっていたことがあったのかもしれない。
近くにいるのか。
とはいえ、今更話すこともない気がする。
会うこと自体はいいのだけれど、会って話すことがない。「実は許婚がいます」と説明とか幼馴染にされても、相手もどう反応していいのか分からないのではないか。
そうだ、彼女の趣味は文学だった。
それ自体は悪くないのだけど、魔央のことがあるから、文学少女には近づかない方がいいのではと思える。
この時はそう思っていた。
それがいかに浅はかな感情だったか、僕はすぐに思い知ることになる。
暦は7月になった。都内の7月ともなると、35度近い日も見られるようになり、冷房がないとやっていられない。
しかし、そんなところでもここだけは熱気が凄い……。
「スタートダッシュには失敗したけれど、5月、6月は5割前後をキープしていているわ! この調子で7月、8月は勝ちに行くわよ!」
「オー!」
先輩の気合に応えるのは、僕、魔央、武羅夫の三名。
「一方、我がサークルは4月に6名の新入会員があったものの、現在は半分まで減っているわ。このままではいけない。この時期になると新人の勧誘は難しいけれど、この前1名の賛助会員を得ることができたし、まだまだ望みはある。あと2人くらいは増やすのよ」
賛助会員というのはアスタルテのことなんだけどね。
新人勧誘か。先輩自身が言うように、もう新しいところに入る人はほとんどいないんじゃないだろうか。
先輩の訓示?が終わり、昼休憩になった。
ランチを食べに学食へと移動した。最近、カフェテリアの管理者に先輩その他諸々から圧力をかけて、テレビを撤去してもらったので怖いニュースで世界滅亡の危機はなくなった。だから、以前より穏やかな感情で入れる。
待つ間、魔央はゲームをしている。
最近、彼女はアスタルテから勧められたパズルゲームに凝っている。
パズルだと世界観がないので、壊したくても壊せない。失敗してもやり直せばいいので、ストレスも少ない。難易度も適当で、相性がいいらしい。
とんでもなかったアスタルテだけど、「魔央にはパズル系が有効」という置き土産を残していったことだけは評価してもいいと思う。
「うん? おい、悠、あいつ」
武羅夫が不意に声をあげた。指さす先には……。
「ボイスターズファンなのかな?」
そう、非常に珍しいボイスターズのキャップを被った女の子がいる。
「誘いに行ってみよう」
先輩から課せられたノルマのことがあるから、武羅夫は積極的だ。
僕はナンパと勘違いされないかと一瞬、思ったけれど、一応パンフレットは持っているから聞くだけならいいかと思いなおした。魔央に待っているように言って、女の子に近づく。
「すみません」
と声をかけた時、彼女が顔をあげた。
「あれ、悠ちゃんじゃない?」
悠ちゃん?
「あ、知恵ちゃん」
まさかの新居知恵だった。ここのカフェテリアに出入りしていたのか。
「久しぶりね。実は近くの大学に通っているの。悠ちゃんはこの大学なの?」
「そうだよ。この前、母さんから知恵ちゃんのことを聞いてはいたけど、こんなに早く会えるとはね」
「ウ、ソ。本当は悠ちゃんに会いに来たの」
「えっ……?」
突然の告白に僕は戸惑った。武羅夫が「おまえ、隅に置けないな~。でも、魔央ちゃんのこと忘れるなよ」と肘で何回か小突いてくる。
しかし、彼女とはずっと疎遠だったけれど、一体何で会いに来たんだろう。まさか昔から僕のことを好きだったとかそういうことなんだろうか。あまりそんな気もしなかったけどなぁ。
「ねえ、悠ちゃん」
知恵が僕の耳にささやきかけるように言う。
「一緒に神を殺さない?」
……はい?
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