第8話 恐怖! web小説

 アスタルテを受け入れてくれる異世界はどこかないものか。

 その晩、僕はそんなことを考えながら布団に入ろうとした。その晩、地獄のような夜が待ち受けているとも知らずに。


 就寝して数分くらいだろうか。

 突然、天の声で起こされた。


『異世界アズサを救いますか?』

『はい ▶いいえ』


 何だって!?

 何でいきなり天の声が。魔央が自分の部屋で何かをしていて、うっかり世界を滅ぼしてしまったというのか?

 そういえば、最初の頃は迂闊に一人にしておくと、過剰な意識で滅ぼすかもしれないと思っていたけれど、最近はある程度理性を信用できるようになったから一人で任せるようになっているところはあった。


 にしても、異世界アズサ?

 一体、何なんだろう?

 正直全然分からない。


 そういう場合、人はどうするか。

 皆さんも経験があると思う。遠く離れたどこかの国で大災害が起こったとか、大飢饉が起こったとか、そういうニュースを見た時の感情だ。

「可哀想だねぇ。自分達のところでなくて良かった。さて、次のニュースを見ようか」

 そんな感じだ。

 僕は心を鬼にして、異世界アズサを見捨てることにした。一応、魔央に何か言おうかと思ったけれど、眠いのでそのまま横になろうとした時。


『異世界大和Ⅰを救いますか?』


 また!?

 早くない?

 部屋の中で蚊を叩いていたら、もう一匹いるのに気づいてとりあえずもう一匹も叩き落しましたくらいの早さだよ?


『異世界ニッポンを救いますか?』


 って、回答しないままに更に来た!?

 一体、何なの?

 異世界に効くバルサンでも焚いているのか?


 さすがに放置しておけなくなった。僕は部屋を出て、魔央の私室に向かう。

「魔央、起きている?」

「あ、悠さん、どうかしましたか?」

 どうかしましたじゃ、なーい!

 一体、どれだけの世界を滅ぼしているというのだ?

「さっきから僕のところに、世界が滅んだっていう相談が凄いんだけれど、何をしているの?」

「えっ、そうなんですか?」

 完全に無自覚である。何ということだ。

「今、何をしているの?」

「寝る前にネットサーフィンしていたら、『カコウヨモウ』という小説サイトがあったので、何となく見ています」

「……」


 何という、恐ろしいことを。

 異世界の宝庫であるそんなところに行ってしまったのか。

 無自覚であるのも何となく頷けた。

 適当に「これでも読んでみよう」と思って、ちょっとだけ見て、「これは私の好みじゃないな」なんていうことはよくある。僕だって多分ある。ピクシクス(pixix)などでもよくあるはずだ。

 ただ、人と同じことでも魔央がやるのは許されない。彼女が「この世界観は合わない」というのは世界に対する抹消宣言に等しいのである。軽い気持ちでブラバをした瞬間、その世界は壊れる。

「……魔央、それを読むのはやめよう」

 これまでの流れから、魔央のダメ出しはその世界がぶっ壊れるだけでなく別の代償を支払わされている可能性もある。すなわち、アカウント破壊やら何やらという恐ろしい事態だ。

 ただ、魔央の価値観に合わない話を書いただけでそれというのは恐ろしすぎる。


 懇々と説明をした結果、魔央も理解したらしい。

「そうですね。皆さんの努力を無にしたら悪いですよね」

「……ちなみに異世界アズサっていうのは何だったの?」

「えっと、それは確かギャンブルの世界で……」

 異世界アズサというのは、どうやら『カイジ』に発想を得た作品らしく、麻雀などの賭け事が舞台らしい。

「主人公が借金を背負って、そのために裏麻雀に挑むことになったんですけれど」

「ほうほう、ありがちだけど、面白そうなパターンじゃない?」

 一瞬で滅ぼされるには勿体ない世界のような気がする。

「ただ、緒戦をいきなり天和てんほーで勝って勝利してしまったので、予想したのと全然違って面白くないなと思いました」

「……た、確かに」

 賭け麻雀だと心理戦とかそういうのが主なのに、いきなり爆ヅキで勝ってしまうってあまりに安易すぎる展開だ。

 そもそも実際の賭け麻雀で天和なんかあがったら、イカサマを疑われて消されてしまうんじゃないだろうか。だからと言って、その場で世界ごと消してしまう魔央もどうかと思うが。


 とにかく、僕は魔央に対して、創作性のサイトなどにはなるべくアクセスしないように言い、再度、眠りにつくことにした。

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