第7話 女神の品格

 魔央がアダムとイヴの世界を滅ぼして数分。

 いつものやつが来た。


『異世界アナザーヘブンを救いますか?』

『▶はい いいえ』


「すみません。救うのに対して、新しい創世神を入れたいんですけれど、いいですか?」

 試しに問いかけてみる。

 反応があるか、ないか。

『……一体どういうことでしょうか?』

 反応があった!

「女神アスタルテを創世の女神として派遣するうえで救いたいのですが、どうでしょうか?」

『……検討してみます』

 おおっ!?

 これは行けそうじゃないか?

 僕は期待しながら、しばらく待つことにする。五分、十分。

『……検討いたしましたが、女神アスタルテは自分勝手過ぎて、創世神にはふさわしくないという結果が出ました』

「何、だと……?」

 アスタルテ、まさかの落第……。

 確かに、世界を代表して一人だけ復活してきて、自分だけ元の立場に戻りたいというのは結構我儘かもしれない。

 しかし、まさかのダメ出しとは。

 変な女神を押し付けられるくらいなら、自らの消滅を選ぶというのか、異世界アナザーヘブン。

「そ、それなら、アスタルテはどうすればいいのでしょうか?」

『もっと研鑽を積み、女神らしくならなければなりません』

「なるほど……」

 こればかりはどうしようもない。本人の問題だし。


『で、異世界アナザーヘヴンを救いますか?』

「あ、すみません。アスタルテ拾わないなら、いいです」

『……貴方は何という酷い男なのでしょう』

 天の声らしき人に罵倒されてしまったけれど、アスタルテを押し付けられないのに貴重なストックを使うわけにはいかない。僕は心を鬼にして、アナザーヘブンに背を向ける。


 アナザーヘブンの尊い犠牲の下に、アスタルテが復活するには女神らしさが足りないという情報を得た。

 ただ、女神らしさというのは何なのだろう。もう少し慈悲深くなれとかそういうものなのだろうか。よく分からないけれど、本人に直接言うことにしよう。僕はできるだけのことをしたのだ、後は本人の問題だ。改善できないのなら、最果村のご当地娘で我慢してもらうしかない。

 と、最果村とつなげてある端末から、アスタルテが飛び出してきた。

 そういえば触れていなかったけれど、アスタルテは二次元女神なので、ああいう端末を出入りすることができる。某〇子さんみたいなものだ。貞■さんは髪が異様に長いけれど、アスタルテは胸が異様にでかいという違いがあるくらいかな。

「暇だわ~、あの村、本当に誰もアクセスしてくれないわ」

 アステルテは女神らしからぬ愚痴をこぼしている。きちっとしろとは言わないけれど、上着を脱ぎ捨てて横になって団扇をバタバタやっている姿はとてもではないが、女神のそれとは言えない。

「あのさ、以前話した川神先輩の言っていたことだけど」

 僕は先ほどの異世界アナザーヘブンの顛末についてアスタルテに説明をした。

「……というわけで、どうやら君がもう少し女神らしくならなければいけないということらしい」

 厳しい現実を言い放ち、アスタルテの反応を待った。

 彼女はたちまちわなわなと震えだす。

「何でよ! 何で、異世界ごときにそんなことを言われないといけないのよ!」

 おなじみ、襟元を掴まれてガンガンと振られる。

「何でと言われても……」

 こんな態度だから、女神として期待されていないのではないか。

「もう少し、きちんとした態度を取るようにしたほうがいいんじゃない?」

「私はいつだって完璧よ!」

 どういう根拠で、そういう自信が来るのだろうか?

 そうツッコミたいけれど、アスタルテの怒りはおさまらない。

「時方悠! 貴方、面倒くさいからって適当なことを言っているんじゃないの!?」

 うわ、僕が適当なことを言っているかのような話になってきた。

 人間を信じない女神って一体何なんだ?

「そんなことはないよ。魔央と一緒にテレビを見ていて、世界を滅ぼしたわけだから」

「あたしはその場を見ていないわ! 自分の目で見るまで納得しない!」

 我儘だなぁ。

 と思ったら、次の瞬間、とんでもないことを言い出した。

「だから、もう一つ別の世界を壊して、その天の声とやらを聞かせなさい!」

「えぇっ!?」

 つまり、また何か見ながら異世界を潰さなければいけないのか?

 そもそも、自分がいた世界を滅ぼされるという悲惨な目に遭ったのに、同じ境遇の者を作ろうというのは女神としてどうなんだ?

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