第6話 週末の終末

 川神先輩から、女神アスタルテを別の異世界に押し付けるという方法を教示してもらったとはいえ、軽々と「じゃ、この異世界滅ぼそう」なんていう話には中々ならない。

 一応、これ以上文句を言われると困るので本人には、「そういう方法で何とかするけれど、ストックがないからもう少し待ってね」と言い含めて、二、三日過ごす。


 土曜日、14時からBSで広島でのデーゲームを観戦する。

 魔央は二、三試合見て飽きてしまったらしく、あまり乗り気ではない。ただ、のめりこまないから試合結果でイライラすることはないので、安心して見ていられるようになったという皮肉な話がある。

 それならそもそも見なくていいじゃないかって?

 何といっても川神先輩のことだから、観ていない場合に何らかの方法で察知してくるかもしれない。怒らせると面倒なので、仕方なく観戦している。

 そんな状況だからあまりやる気もない。幸い、早い回から点を重ねて勝ち確定になったので試合が終わる頃には、二人ともチラチラと横目に眺めるくらいでスマホで別のことをしていた。

 そのため、番組終了のタイミングに気づかない。

「おっ、音楽番組か……」

 気が付いた時には何かの音楽番組になっていた。

 音楽番組なら平和でいいかなと思ったら、"Sekai Ga Owaru"が歌っている。

 冗談じゃない!

 世界が終わるなんて思わせたら、本当に終わってしまう。何という恐ろしい存在なんだ。曲はいいんだけどね……。

 とにかく、テレビを消そうとしてリモコンに飛びついたところ、思わず別のボタンを押してしまった。どうやらチャンネルを切り替えてしまったらしい。

「アニメか……」

 ファンタジー系のアニメがやっていた。

 世界の危機に向けて戦おうという少年達の物語らしい。

 アニメも世界危機かいな。

 世界危機はシャレにならないんだ、やめてほしい。

 切ろうとしたところで、魔央からストップがかかる。

「これ、面白そうですよ」

「……」

 魔央が見たいと言うのにチャンネルを変えたり、テレビを切ったりは難しい。

 不安ではあるけれど、こちらは異世界なので、ひょっとしたら滅ぶとしてもアニメの世界かもしれない。そうであることを期待して、付き合うことにする。


 色々な異変が起こる世界を、少年アダムと少女イヴが旅して、危機の根源へと迫っていく。

 危機の根源というものは、どうやら世界中の人々の恐怖と絶望の集合体のようなもので、これがエラく強い。アダム少年が吹っ飛ばされて、体中を砕かれてしまった。ここからイヴをはじめとする世界中の人の願いやら何やらで復活するのかなぁと思っていたら。

「これは、もうダメそうですね……」


「……」



 え~、皆さん、

 魔王を筆頭とするラスボス、主人公を追い詰めたのに、様々な理由で復活されるとめっちゃ驚いたりしていますよね?

 あれ、何故だか考えたことがありますか?

 実はですね~、ラスボス系の人達は見切りがものすごく早いのです。

 彼らの頭はコンピュータと同じなんですね~。0と1しかないのです。動かなくなったらそれは0であり、0が1に変わることは絶対にないのです。

 しかし、真のラスボスが「これはもう0だ」と思ったら、もう何があろうと0になるんですね~。

 黒でも白! になるんですよ~、んふふ~。

 ですので~、驚いているラスボスはまだまだ未熟なのです。

 真のラスボスは、無表情に「0です」と言い、完全に0にするものなのですよ~。んふふ~。

 時方悠三郎ときかた ゆうざぶろうでした。



『こ、これはぁぁぁ!?』

 イヴと世界中の人達の願いと再生のエネルギーは恐怖と絶望の集合体を打ち破った。でも、その力は魔央の「もうダメですね」パワーで10の何万乗倍にも膨れ上がっている。

 そう、世界を破壊するのに十分なほどに。


 エネルギーはついでにアダム少年とイヴ本人と世界を全部破滅させ、画面を真っ白にし、全てを無に帰した。

 恐怖も、絶望も、希望も、願いも何もかもなくなった。

 虚無だけが、ただ、残された。


 僕はテレビを消した。

 ふうと溜息をついて、ベランダへと向かう。

 ふと気になって、ツェッターを開いた。『一体どうなっているんだ、あのエンディングは!』、『一緒に見ていた姉(五歳)は大泣きしだして、妹(三歳)は完全に虚無状態になってしまったぞ! どうしてくれるんだ!?』という怒りの声が9、『これが監督が本当に描きたかったものなのだろうか?』という驚きが1という具合で、拡散されている。

 一旦食堂に戻り、アイスコーヒーの缶を取り出して、再度ベランダに向かい、風景を眺めながらその時を待つ。


 いい機会だ、アスタルテを押し付けることができるか確認してみようかな。

 僕の頭を占めているのは、そのことだけだった。

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