第5話 デジタル化戦術

 ジェノサイド宣言のようなものをしたことを全く自覚する様子もなく、先輩は電話をしている。

「えっ、完成したの? だったら、持ってきてよ。サークルの部室にいるから」

 何か楽しそうに話している。

「何が完成したんですか?」

「この前、時方君が欲しいと言っていたものができたのよ」

「えっ?」

 僕が欲しいと言ったもの?

 何かあったっけ?


 一時間後、軽トラックが大学の敷地にやってきた。その頃には魔央と武羅夫も授業が終わって合流してきている。

「聖良お嬢様。こちらでございます」

 と沢山の箱を持ってきた。

「こ、これは……!?」

 箱の写真を見ると、これはもう一目瞭然。耳にセットしてサングラス状の片目レンズで相手を見て、ポチッと押して相手の能力を測り、「ククク、戦闘力たったの5か。雑魚め」とか言うためのアイテムだ。

「そうよ。ただ、これは戦闘力を測るものではないけどね」

「じゃあ、何を測るんです?」

「とりあえずはめて、魔央さんを見て下側のボタンを押しなさい」

 はいはい。

 おっ?

 5840とか出たぞ? これはベジ〇タは無理だけど、ナ▶パとは戦えそうだ。

「そんなわけないでしょ。それが好感度よ」

 何だって!?

 好感度を測れるようになった、だと?

「そう。それがあればどのくらい好きなのかという参考になるわけよ」

 な、なるほど……。

 数値が分かったから、何か具体的にどうということはないけれど、今回みたいに異世界を救わざるを得ない場合には、いつ頃増えそうかという参考にはなるかもしれない。


 こんな漫画みたいなアイテムを本当に作るとは、川神家、恐るべし。

 ちなみに上にもボタンがあるけれど、これは何なんだろう?

 試しにポチッと押して魔央を見る。

「うん? B16。地下16階?」

「……たったの16?」

 先輩が凄い嫌そうな顔をした。

「そう出ていますけれど、何ですか?」

 と、先輩の方を向いた途端、数字が急激に上がりだした!

 18000、19000、20000……

「うわっ!」

 ボンと言う音とともに機械が爆発した。

 何なんだ、一体?

「もう一つ、私のための機能をつけたのよ」

 先輩のための機能?

「そう。ボイスターズ愛を測定できる能力を」

「……な、なるほど」

 魔央は一度試合に付き合っただけで、それ以降特に試合も見ていない。ユニフォームだけはあるから、ほんの少し応援するくらいの気持ちがあるということなのだろう。

「爆発する可能性があるから余分に作らせておいて良かったわ」

「はあ……」

 先輩からもう一つ受け取って、試しに学内を歩く面々を測ってみる。9人測って7人が0だ。

「0の人は、そもそも野球に全く関心がないんでしょう。知らないものにはプラスもマイナスもないわ」

「なるほど。とすると、-106の人は?」

「……多分、サッカー好きで野球が嫌いな人なんだと思うわ。数値が小さいのはギガンテスとかは有名だけど、ボイスターズやペンギンズはやはり一般層にとっては認知度が低い。嫌われる要素が小さいわけよ」

 そんなことを言ったらペンギンズファンの川野が泣くぞ。

「とすると、203の人は、どこか別のチームのファンだけど、ボイスターズも多少は好きくらいの立場なわけですね」

「そうなるわね。別のチームのファンだけど古永投手だけは好きとかそういう感じじゃないかしら?」

 おぉー。

 と、感心したけれど……。


 いるのか、この能力?


 ボイスターズが好きかどうか測って、何の役に立つんだ?

「隠れファンを見つけるには重要でしょう。隠れファンを炙りだし、表に連れ出すためのアイテムなのよ」

「でも、隠れファンは一人で応援するのが好きなのでは……?」

 先輩に連れ出されて球場直行などは可哀想過ぎる。そもそも、その費用は僕達を通じて国に行くのかもしれないし……

 というか、先輩、こんなものを開発させるだけの力がありながら、何で僕に観戦費用を出させるわけ? 自費で余裕でスイートルーム通えるのでは?

「仕方ないじゃない。球場に行く話を作っている時には、川神威助の設定なんて全く考えていなかったんだし」

 身もふたもない答えが返ってきた。確かに序盤から聖女設定はあったけれど、父親がああいうのだというのは途中で何となく決まった設定だからね。

「ともあれ、好感度が測れるようになったのだから、それでストック数を増やして、どこかの異世界にあの女神を押し付けなさい」

「あれ、先輩、もしかしてアスタルテを嫌がっています?」

「嫌がっているわけじゃないのよ」

 先輩は遠い目をして、「フッ」と笑った。

「この前木房さんが泣きついてきたのよ。『先輩はズルいであります。あんなすごい豊胸手術をした女性と歩いているなんて。ワタクシめのような負け組ペッタンコにもクリニックを紹介してほしいであります』ってね。整形とか豊胸の問い合わせがすごくてもううんざりよ」

 そ、そうなのか。

 しかし、木房さんで思い出したけれど、アスタルテって自分の世界滅ぼされたという点ではとんでもない負け犬女神なんだけどね。

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