第4話 異世界を探せ?
三日後、僕は大学のボイスターズサークルにいた。
当然、ここにいるということは先輩に用があるということだ。ただし、今は先輩だけではなく、別の男性がいる。
「彼はダイゲームスの新ゲーム企画にあたっている松原隆さん、それ以上のことはあまり詳しいことは知らない方が時方君のためだと思うわ」
先輩がそう言って紹介してくれた松原さん。
何やら思わせぶりな話だけれど、先輩個人との関係というよりは、どうも川神威関係の話のような気がする。
「で、松原さんに頼んで、ダイゲームスの新作にアスタルテをちょっと紛れ込ませてみようと思ったのだけれど……」
「これを見てほしいのですが」
と松原さんが幾つかのスクリーンショットを見せてくれた。
『このアーシャってキャラ、【究極幻想】のアスタルテに似てね?』
『俺も思った。見た目はともかく、あのキャラに似せるなんてセンスねえわ』
『あのゲームに課金した金、まだ返ってきてねえよ』
非情に不穏な文言が並んでいる。
「このあたりはまだ大人しい方で、もっと不穏当な発言が幾つもありました。究極幻想の件は世界中のユーザーに非常に大きな不満を抱かせたわけで、簡単には解決しないものでしょう。またその内容からしてユーザーの我儘と言うのも難しいですし」
「そうですね……」
もちろん松原さんは知らないわけだけれど、僕達はバッチリその一件に絡んでいるわけで何とも心苦しいものを感じる。
「聖良お嬢様の頼みということで、試しにやってみたのですけれど、会社の評判というのもありますし、中々難しいようです」
「そうですね」
「申し訳ありません」
どうやらアスタルテがゲームキャラとして再起するのは絶望的だということは理解できた。ユーザーの恨みというものは簡単には消えない。
しかし、この松原さん。ひょっとしたら僕の異母兄とかなのかもしれないけれど、本当に普通の人だ。入学してこの方、変な人とばかり出会ってきた身からすると、本当に心が洗われるかのようだ。
松原さんは資料をもって帰って行った。
「でも、アスタルテはやはりゲームキャラとして復帰したいんでしょ?」
「そうですね」
昨日も僕の首を掴みながら、「あんた達のせいでこうなったのよ! ゲームキャラだから誹謗中傷もし放題! 新しくなった侮辱罪だって守ってくれない私を何とかしなさいよ!」と泣きわめいていたことを思い出す。
「で、私、ちょっと思ってみたのだけれど……」
「何でしょうか?」
「魔央さんは異世界を簡単に滅ぼせるわけでしょ?」
「そうですね」
それはもう、本当に理不尽と言うくらい簡単に。
「で、時方君はその世界を復活させることができるわけよね?」
「一応、助けるかどうかは聞かれますね」
聞かれるということは、助けられるということだとは思う。ただ、異世界まで助けていられないということでこれまでは無視してきたけれど。
「そのタイミングでアスタルテを関与させられない? 破壊された異世界の再生に新しい女神がやってきた、女神アスタルテ降臨みたいな形で。それなら、彼女も元々の形で復活できるんじゃないかしら?」
「異世界を滅ぼして、復活させるどさくさに紛れてアスタルテを女神として送り込むわけですか?」
何だか凄い話になってきた。
ただ、何個か問題点がある。
①復活に際して、条件を付けることができるのか。
今まで、この世界も含めて世界を救う際に、別の条件を付したことは一度もない。そもそも救うか救わないかの二択だし、別の希望を入れることができるのか。ある意味、裏技的なものが必要とされそうな気がする。
②そこに他人を介在させることができるのか。
世界を救うというのは僕と魔央と世界の三者関係で成り立っている。そこにアスタルテを入れることが何か他の問題を巻き起こさないか問題だ。
③ストックが減る
現在、世界を救えるストックは一回こっきりだ。これを使い切ってしまうというのは非常に心苦しい。
「……まあね。だから、アスタルテにはこの条件を伝えて、しばらくは最果村のご当地娘として頑張ってもらうしかないわね」
「そうですね」
アスタルテにとっても、女神として再起できるのが一番いいことだろう。その可能性があると分かれば、少しくらいは待ってくれるはずだ。
「他の問題については実践あるのみね。異世界を何個か滅ぼして、他の条件を付けられるかどうか試してみるしかないわ」
……えっ?
先輩、今、さらっと恐ろしいことを言いませんでした?
異世界を何個か滅ぼして、って、それをやったら、またアスタルテみたいな存在が増えそうな気がするんですけれど。
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