第3話 作戦会議

 翌朝、午後。

「……で、ゲームの中から現れてきたと、ふーん」

 応接間に川神先輩の姿がある。その正面には女神アスタルテが座っていた。

「先輩は交友関係も広いし、何とかなるかなぁと思って」

「ゲームの会社はあんまり知らないわねぇ」

 先輩は「うーん」と考えているが、ふとポンと手を叩いた。

「あっ、そうだ。ボイスターズの試合とコラボするっていうのは、どう? チームの企画班の人達とは仲がいいし」

「えっ? ボイスターズとですか? でも、ブッ潰れたゲームとコラボなんかしますかね?」

「かえって注目を集めるんじゃない? ゲーム会社もお詫び兼ねてみたいな形にできるし、何より」

 先輩がウィンクした。

「勝てば、ファンは気にしないものよ。勝利の女神だって称えるし、今後また出番が出てくると思うわ」

 なるほど。まあ、確かに勝てば縁起がいいコラボという扱いになるからね。

 昨今は細分化されすぎていてすさまじくどうでもいい要因を引っ張り出して、チームにとってプラスかマイナスかという話が出てきているし。

「ちなみに、もし、負けたらどうなるのでしょう?」

 しかし、そんな前向きな空気に魔央が容赦なく冷水を浴びせる。

 途端に先輩が、道端のゴミを見るかのような蔑むような視線になった。

「ハン! そんな使えない女神はエロゲーか風俗送りに決まっているじゃない」

 せ、先輩……、聖女の言う言葉ではないです。

 たちまちアスタルテが泣きながら先輩にすがりついた。

「嫌ぁぁ! 風俗とエロは嫌ですぅぅ!」

 確かに……。

 世界を潰された女神が、最終的に風俗送りって、18禁でも済まないクラスのダークなエログロ路線って感じだ。

「でも、再起するためにはやはり衆目を浴びるところで注目を浴びるしかないのではないでしょうか。リスクも大きいですけれど、それを乗り越えないことには」

 魔央が何となく頷けることを言っている。

 ただ、アスタルテをそういう立場に追いやったのは、他ならぬ君なのだけれどね。

「そ、そんなリスクの高いことは嫌ですぅ!」

 そして、女神アスタルテは想像以上にへたれだった。


「ふーむ」

 先輩はまた思案している。

「アニメ絵のまま三次元に来たから何となく不気味だけど、二次元に戻れば人気者になれそうだから、例えばツェッターとかユーチャーバーのアカウントを開設して、『アスタルテ復活』とかアピールしてみるのはどうかしら?」

「それ……、ゲームのユーザー達から『課金額返せ』とか文句が殺到すると思いますよ」

「……そういえばあたしも破壊される直前に二万円費やしたばかりだったわ」

 先輩もやっていたんですか。

 まあ、山手線で車内広告を延々とやっていたわけですから、何となく登録してしまいたくはなってしまいますよねぇ。

「山手線で思い出したけど、最近は駅とか場所にも名物娘とかできているから、衣装とか多少変えて地道にやり直してみるとかどう? 『自分の世界を壊された女神が現世に転生して、地味なご当地アイドルからやり直します』とかラノベになりそうじゃない?」

 ああ、なるほど。

 作者も思わず、「これやってみようか」と思ってしまったよ。

「とはいえ、昨今、大抵の街やら何かにはご当地アイドルとかご当地萌えキャラがいるはずだし、うまくいくかという問題はあるわね」

「……」

 僕は思わず黙り込む。

 いや、一つだけ思い当たる候補地はあるんだ。ご当地アイドルなんか絶対にいないような自治体が。ただ、それは左遷も左遷、かなり屈辱的な降格だろうとは思う。

「あるいは逆に、もう徹底的に汚れキャラ、ゲームぶっ潰しましたお笑いキャラの道を歩んでみるとか」

 また、アスタルテが泣きそうな顔をしている。

 しかし、僕には随分と暴力的だったのに、何故に先輩には大人しいんだ?

 というか、みんな、そういう傾向があるよね。

 これが先輩の聖女の力か何かなのか?

「あ、そういえば」

 魔央が何かに気づいたようだ。

「最果村だったら、ご当地アイドルとかいないんじゃないでしょうか?」

 気づいてしまったか。

 僕が思い当たったのもそこなんだよ。そこなら、誰もいない。存在自体が呪術っぽいし、立候補した時点で受け入れてもらえるはずだ。

「生きてはいけるでしょうね。ひもじい思いはしそうだけど」

 先輩のセリフは容赦ないけど、多分完璧に正しい。

 ただ、誰も気づかないから、誹謗中傷とは無縁でいられるはずだ。

「む、むむむ~」

「あまり何話も費やしたくないから、次の話までには結論を出すわよ」

 先輩が内部事情を披露したところで、次回へと続く。

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