第2話 女神の来襲
その夜、布団の中に入り目を閉じていると。
「時方悠、聞こえる?」
「……?」
どこかからか女性の声が聞こえてきたような気がした。
「魔央?」
声をかけるけれど、反応はない。聞き間違いかなと思い、そのまま眠りにつこうとするけれど。
「時方悠」
再度呼びかけられる。どうにも幻聴とかではないらしい。
仕方なく半身を起こすと、部屋に白っぽいローブを着た女性が立っていた。中々の美人……と言っていいのだろうか? 非常に整った顔立ちに、すさまじいボディラインをしている。
僕は多分、ぽかんと口を開けていただろう。
思ったことは、「誰か、部屋の中に1/1フィギュアでも持ち込んだのか?」ということだった。
ただ、フィギュアではないことは彼女が一歩足を動かしたことではっきりした。ありえないボディラインの胸が揺れること揺れること。ただ、何というのか明らかに人間離れしているので「すんごい豊胸手術したんだろうな」みたいな感覚にしかならない。
ああ、そうだ。どこかで見た覚えがあると思ったら、この女性、『究極幻想』の女神アスタルテじゃないか。
ということは、昼間の葛藤が頭の中に残っていて、夢を見ているということだな。
うーむ、まあ、夢の中だけど謝っておこうか。
と思った瞬間、アスタルテはどでかい辞書のようなものを取り出して僕の頭に振り下ろした。
そこまで分かっているなら、避けろよ?
全くその通りなんだけれど、アスタルテはゲームのままの姿でいるので、体の動きとかそういうものが明らかにおかしい。人間の筋肉の動きと全くかけ離れているから、目の前の人が何をしようとしているのか分からないんだよね。
だから、直撃して目の前に火花が浮かぶまで、自分が攻撃されようとしているという事実を認識できなかった。
「ぐわーっ!」
「何て酷いことをしてくれるのよ! この冷血漢!」
「す、すみません……」
と、謝った時点で気づく。
あれ、何で痛いの? これ、夢じゃないの? と。
「えーっと、女神アスタルテ?」
確認のため問いかけてみる。
「そうよ」
「何? そういうイベントでもあったわけ?」
リアルフィギュアみたいなものを作って、ファンと触れ合うつもりだったのだろうか?
「違うわ! あんた達に世界を潰されたから、文句を言いに来たのよ!」
えっ、本当に?
どうやって出てきたんだ?
「あんた達のせいでプレーできなくなった100万ユーザーの怨念が、女神の私を実在化させたのよ」
それは凄い。
「……もっと驚きなさいよ?」
「いや、まあ、身の回りに宇宙人とか、動物を操れる子とか、破壊神がいるわけだから、女神がいても不思議はないかなと……」
ただまあ、女神アスタルテのまずいところはゲームの絵のまま実在化してしまっているところだろうか。2Dで見ると綺麗な顔でも実体化してみると何か笑いそうになってしまう。それにこんな体格の女はいないでしょって感じでボンキュッボンとなっているわけで、それもどちらかというと不気味だ……。
「じゃあ文句だけ聞くよ……。世界を潰したのは事実だし。あれ、何て世界だっけ?」
「異世界リーンプラムよ! 自分達が潰した世界のことくらい覚えなさいよ!」
そんなこと言われたって……。
しかし、ゲームのユーザーに助けを求めていた女神が、世界が潰されてユーザーの怨念を受けて文句を言いに来たと考えると何か凄いものがある。念ずれば2Dと3Dの垣根を超えることもできるわけだね。
ともあれ、彼女の世界を完膚なきまでに潰してしまったことは事実、文句を言われることくらいは仕方がない。僕は素直に正座をすると、アステルテが襟元を掴んできた。
「あんな形でサービス提供を終了したものだから、もうあの会社はゲームを作れないわ! 会社の代表キャラである私は永遠にお蔵入りだし、よしんばどこかが版権買い取ってくれても、『登場ゲームをぶっ壊した呪いのキャラ』みたいに扱いになるのは必定よ! どうしてくれるのよ、このタコ!」
アスタルテは罵倒しながら、僕をガシガシ揺さぶってくる。
「そ、そんなことを言われても……、そもそもあのゲームの課金煽りが酷すぎたのが原因だし……」
「それを判断するのはユーザーの総意でしょ! あんた達二人で判断していいものじゃない!」
それはごもっともです。
「ただ、その世界と僕達の世界を天秤にかけると、僕としてはどうしても見捨てざるを得ないわけで……」
「それなら責任を取って、私を何とかしなさいよ!」
「いや、一体どうしろって言うわけ?」
僕はシミュレートする。
①この手の話で「責任を取る」の定番。アスタルテを僕の彼女にする。
正直、嫌だ。魔央もいるのだし。
②アスタルテの再就職先を探すために別のゲーム会社を紹介する
とは言っても、ゲーム会社に知り合いはいないからなぁ。首相その他に働きかけをする感じ? 何だか汚職行為っぽい響きがある。
③僕達がゲームを作り、その中でアスタルテを再就職させる
できればこれがベストだろうけれど、ゲームを作る技術はない。
あ、いや、待てよ。
先輩なら顔も広いし、ゲーム制作者を知っているかもしれないな。
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